表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

必殺勇者の仕事人

作者: 傘流 正英

勇者なんて、なるものじゃないと思っていたのに、自分が勇者にさせられそうになる。果たしてこいつの運命は?

その日、教会からの使者が、なぜか俺を迎えに来た。

それも、豪華な馬車で。

畑仕事をしていた俺に、おやじは一言言った。


「がんばれよ」


そして、俺はそのままお城に連れてこられた。

目の前には、王様らしきおっさんがいる。


「王様、連れてきました。次代の勇者を」

「おお~、お主が勇者か。これから、よろしくたのむぞ」


勇者?

なんのことだ?

俺が勇者だとでもいうのか。


「あの~、話が見えないんですけど~。勇者は、半年前に死んだんですよね」


そう、勇者は半年前に死んだ。

悪魔大将軍の一人、アザゼルの軍を退け、調子に乗って悪魔の軍勢に一人で突っ込んで死んだらしい。

いくら勇者が死んでしまったとはいえ、俺が勇者?馬鹿なことを言うんじゃない、おっさんどもが。


「勇者が死んだからって、次は俺の番?そんなバカげた話ないですよ。俺はただの、農家の息子なんですから」


俺がそう言うと、教会のおっさんが喋りはじめた。


「おまえは、ルージュ家の血筋だろ。それが、勇者の証だ」


意味が分からん。

確かに俺の名前は、ソーマ・ルージュだけど、それがどうしたって言うんだ。

俺の顔を見たおっさんは、始めから順を追って話し始めた。

おっさんが言うには、ルージュ家の血筋の人間から勇者が出るということ。

だったらどうした、なんで俺なんだ。

そして何より、俺が聖剣の持ち主に選ばれたこと。

俺は、そんな聖剣なんて、知らねえぞ。

勝手に持ち主にすんな。

心のどこかで、反論しているのを見抜いたのか、


「手のひらを上にして、聖剣を呼んでみろ」


聖剣を呼ぶ?

アホか。

なんで、そんなことで聖剣が出てくるんだよ。

おれは、仕方なく老いぼれの馬鹿な話に付き合ってやることにした。


「えっと、聖剣さん出てきなさ~い」


ほら見ろ。

聖剣なんて出てくるはずがねえんだよ。

ズシッ

ん?なんだ。

なんか、重いものが手の上にある気がする。

ま、まさか・・・

俺の手のひらの上には、剣がのっていた。


「おっさん。一つ聞いてもいいか」

「いいぞ、なんでも答えてやる」

「これって、誰にでも出来たりしないのかな」

「そうだな。誰にでもできるものではないな」


おれは、もう一つの可能性に賭けた。


「ルージュの血筋なら、誰にでも出来るんだろ。そう言ってくれ」

「いや、それもない。勇者にしかできない。さっきから聞いていると、勇者になりたくないみたいだな。なぜだ」

「勇者なんて馬鹿のやることだ」

「なんだと」


俺は、勇者なんてものは、馬鹿か余程のお人よしのやることだと思っている。

この戦争のおかげで、大儲けしている奴が必ずいる。

そんな奴の手伝いなんか、俺はしたくない。

そして、民衆の奴らは勇者は必ず自分たちのために、戦うのが当たり前だと思っている。

そんな奴らのために、勇者になった人間は、戦わなければならない。

もしも、勇者が戦いたくないと言えば、俺は匿ってやる。

そんな考えの俺が勇者だと?

ふざけんな!

おまえら、勝手に戦争やってろ!


「おっさん!おれは、勇者なんかやらねえからな」

「おまえ~、お国のために戦おうという気にはならないのか!」

「ならねえな~、俺は、平和主義者なんでね~」

「くっ」


王さんは、俺たちをあたふたしながら見ていた。

そのとき、王の間の扉が勢いよく開いた。


「いつになったら、会わせてくれるのです。神父」


扉を開けたのは、女騎士だった。

それも、とてもいい女だ。


「ああ、すまん。ちょっと、揉めていてな」

「揉める?まあ、いいでしょう。もしかして、横の頭の悪そうなのが勇者だと?」

「そうだ。なぜ、聖剣はこいつを選んでしまったのか」


この女、俺のことを頭が悪そうだと?

こいつはダメだ。

顔だけの残念女だ。

なんだ、おっさんと残念女がひそひそ話してやがる。


「王様。また出直して参ります」

「う、うむ。それがいいな」

「では、のちほど。こっちにこい!」


俺は、襟首を引っ張られ、他の部屋へと連れていかれた。


「は、離せ!この残念女が!」

「残念女?どうせ、わたしはおっぱいが小さいわよ!」

「俺は、おっぱいのことなんか言ってないぞ。口の悪い、残念な女。だから俺は、残念女と言ったんだ。

おっぱいのことなんて言ってねぇ。小さいのは、好きだしな」

「こ、このスケベ~っ」

ぼこっ!

うげぇ


理不尽すぎる。

暫くして、落ち着いたころに、残念女が喋り始めた。


「コホン、私の名前は、エリカ・コンラッド。あんたの名前は?」

「ソーマ。ソーマ・ルージュ」

「そう、話は神父から聞いたわ。あなた、勇者になりたくないってほんと?」

「そうだ。勇者なんかになってたまるか。あんな、割に合わないものやる奴は馬鹿だ」

「なんで?勇者になったら、きっともてると思うけどなぁ」


こ、こいつ。

心理戦に持ち込むつもりか?

なかなかやるじゃないか。

だが、俺はこんなことでは落ちないからな。


「ふん!モテるだと?そんなのに俺はごまかされないからな」

「ごまかすなんて。でも、きっと勇者になれば、行く先々で勇者様~って女の子が、言い寄ってくると思うけどな~」


くっ!

なんて破壊力のある言葉だ。

KOされちまうとこだったぜ。

だが、まだまだ~っ


こんなやり取りが、深夜まで続いた。


「夜も遅いわね。それじゃ、また明日」

「はあはあはあはあ。何度来ても同じだからな」

「そっ」


くそっ、余裕じゃねぇか。

だが、このままじゃ俺としても、何時落ちてしまうかもわからねえ。

ここは、逃げるとするか。

おれは、夜のうちに逃げることにした。


翌朝


「入るわよソーマ。勇者になる気になった?あれっ、いない。トイレかな」

10分

「大かな?」

20分

「堅いのかな?」

30分

「まさか、逃げた?」


エリカは、城の中を走り回って探した。

門番に聞くと、


「忘れ物をしたから、取りに行って来ると、出ていきました」

「やられたっ!あいつ~っ」


エリカは、追う事にしたが、どちらへ向かったがわからない。

東門から出て行ったのは確からしいが、そのあとどちらへ向かったのかわからない。


「仕方ないわね。東にある一番近い街に行くしかない」


何の根拠もなかったが、東門から出たのだから、東にいるに違いないとエリカは考えた。

そして、それは当たりだった。

昼前に街に着き、聞き込みをすると、それらしき男がいろいろと買い込んでいたという。

その男は、この街の東から出て行ったらしい。

この街の東には、山があり山越えの準備をしたと、普通は考えるが、エリカは違った。


「これは、罠ね。山越えをしたという。ふふ、私は騙されないわよ」


確かに、ソーマは船に乗り山越えをせずに、船で移動していた。

だが、山越えをしていれば、ソーマに追いつけたかもしれなかった。

ソーマはただ単に

きつい真似までして、山なんか越えてられるか、という考えで船を使っただけだった。

こんな感じで、1週間が過ぎたころ、エリカの耳にとある街にそれらしい男がいる、という情報が入ってきた。


「マドット。この街にソーマの奴がいるかもしれないのね」


今は昼時、エリカは食事処を見て回った。

ぐう~っ

「おなか減った」

エリカは、大好物の饅頭片手に、ソーマを探した。

ソーマは、もう追ってこないと高を括り、昼食を取っていた。

ぶ~っ!

がたんっ!

「何故あいつがこんなところに?」

エリカを見つけたソーマは、思わず吹き出し、椅子からも転げ落ちていた。

テーブル越しに様子を見ていると、この店へ入ろうとしていた。


「やばっ」


やばいと思ったソーマは、テーブルの上に勘定を置き、裏口から出ようとした。


「お客様、お勘定は済ませましたか?」

「し~っ、し~っ!勘定ならテーブルの上だ。静かにしてくれ」

「あざっした~」


エリカは、店員の方を何気なく見た。

そこには、しゃがみ込んだ怪しい人間が見えた。


「見つけた~っ!!」

「くそっ!」


そして、二人の追いかけっこが始まった。


「まちなさ~い」

「いやだ~」


そして、いつの間にか二人は、森の中へと迷い込んでいた。


「はあはあはあはあ。ちょ、ちょっと待て」

「はあはあはあはあ。な、なによ。ようやく捕まる気になった?」

「いや、これ以上はやばい」

「なにが?」

「森から出られなくなるぞ」


エリカは、見渡してみた。

確かに鬱蒼としていて、やばそうな感じだった。


「わ、わかったわ。休戦にしてあげる」

「なんか、上から目線だな」

「うるさい」


しばらく歩くと、日が暮れて暗くなってきた。


「おい、なんでくっついてんだよ。無い胸擦り付けんな」

「だ、だって」


先ほどから、エリカの様子が変だった。

そう感じたソーマは、わざと胸のことを言ってみた。

だが、それにエリカは反応しない。


「おまえ、こわいのか?騎士のくせに」

「こ、こわくなんか・・・」


エリカが怖がっているので、早く森を出たいが暗くなっても、うろうろするのは得策ではない。

しかたなく、ソーマはここで一晩明かすことにした。


「エリカ」

「な、なに」

「闇雲に歩かない方がいい。仕方ないが、ここで一晩明かそう」

「え~っ」


不満そうなエリカを、何とか説得して明かすことにした。

薪を拾い、薪をして。

ぐう~っ

昼に饅頭一つ食べただけのエリカは、おなかが減っていた。


「おい、これ食うか?」


そんなエリカに、ソーマは干し肉を差し出した。


「無いよりましだろ」

「う、うん・・・かたい」

「文句言うな」


がさがさっ

そのとき、草むらから何かが出てきた。


びくっ!

「な、なに。何が出たの?」

「わからん」


「やはり、人間か。人間くせぇと思ったぜ」

「おまえ、悪魔か」

「そうだ。この俺様が、アザゼル様の右腕、アモン様だ。どうだ、驚いたか」

「すまん」

「何謝ってんだ、このやろ~!なら、そこの女騎士なら知ってるだろ」

「いや、私も知らない」

「ぐぬぬぬぬぬ。お前ら二人とも、殺してやる」


頭に来た悪魔は、この人間を殺すことにした。


「そうか、殺すのか。まあ、どっちでもいいけど、お前この森のことよく知ってんのか?」

「まあな。俺様の庭のようなものだからな」

「それはよかった」


ソーマはそれを聞くと、剣の構えをとった。

だが、剣を持っていない。


「なにやってんだお前。馬鹿なのか?」

「いや、これでいいんだよ」

「馬鹿にしやがって。そんなら、死にやがれ」


ソーマと悪魔が斬り合おうとしたその時、エリカが割って入った。


「どうしたエリカ?」

「代わって。あいつ殺すの代わって」

「代わってやってもいいが、殺すのは無しだ」

「わかった」


エリカは、悪魔を睨みつけた。

そして、


「よくも私を驚かせてくれたわね」

「それがどうした。この臆病者が」

カッチ~ン!

その一言で切れたエリカは、死なない程度に斬りまくっていた。


「殺すなよ」

「わかってる」



エリカは、5分程で斬るのをやめた。


「おい悪魔。死にたくなかったら、森から出るのを案内しろ」

「わ、わかった」


1時間ほど悪魔に案内をソーマはさせた。


「ここをまっすぐに行けば、街に出られる」

「そうか、ところでお前は何しに来たんだ?」

「単なる偵察だ」

「そうか」

ずばっ!

「な、なんで?」

「あほか、俺は一応人間だからな。お前たちは、敵だ」

「そんな、殺さないでいてくれるんじゃないの?」

「なんだそれ。そんなの俺は知らん」

「そ、そんな」

「ソーマ、あんた悪魔をあんな殺し方して、なんとも思わないの?」


これが、ソーマ・ルージュの勇者としての、初仕事だった。





エリカから逃げながら、勇者の仕事をしないといけない羽目になるのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ