必殺勇者の仕事人
勇者なんて、なるものじゃないと思っていたのに、自分が勇者にさせられそうになる。果たしてこいつの運命は?
その日、教会からの使者が、なぜか俺を迎えに来た。
それも、豪華な馬車で。
畑仕事をしていた俺に、おやじは一言言った。
「がんばれよ」
そして、俺はそのままお城に連れてこられた。
目の前には、王様らしきおっさんがいる。
「王様、連れてきました。次代の勇者を」
「おお~、お主が勇者か。これから、よろしくたのむぞ」
勇者?
なんのことだ?
俺が勇者だとでもいうのか。
「あの~、話が見えないんですけど~。勇者は、半年前に死んだんですよね」
そう、勇者は半年前に死んだ。
悪魔大将軍の一人、アザゼルの軍を退け、調子に乗って悪魔の軍勢に一人で突っ込んで死んだらしい。
いくら勇者が死んでしまったとはいえ、俺が勇者?馬鹿なことを言うんじゃない、おっさんどもが。
「勇者が死んだからって、次は俺の番?そんなバカげた話ないですよ。俺はただの、農家の息子なんですから」
俺がそう言うと、教会のおっさんが喋りはじめた。
「おまえは、ルージュ家の血筋だろ。それが、勇者の証だ」
意味が分からん。
確かに俺の名前は、ソーマ・ルージュだけど、それがどうしたって言うんだ。
俺の顔を見たおっさんは、始めから順を追って話し始めた。
おっさんが言うには、ルージュ家の血筋の人間から勇者が出るということ。
だったらどうした、なんで俺なんだ。
そして何より、俺が聖剣の持ち主に選ばれたこと。
俺は、そんな聖剣なんて、知らねえぞ。
勝手に持ち主にすんな。
心のどこかで、反論しているのを見抜いたのか、
「手のひらを上にして、聖剣を呼んでみろ」
聖剣を呼ぶ?
アホか。
なんで、そんなことで聖剣が出てくるんだよ。
おれは、仕方なく老いぼれの馬鹿な話に付き合ってやることにした。
「えっと、聖剣さん出てきなさ~い」
ほら見ろ。
聖剣なんて出てくるはずがねえんだよ。
ズシッ
ん?なんだ。
なんか、重いものが手の上にある気がする。
ま、まさか・・・
俺の手のひらの上には、剣がのっていた。
「おっさん。一つ聞いてもいいか」
「いいぞ、なんでも答えてやる」
「これって、誰にでも出来たりしないのかな」
「そうだな。誰にでもできるものではないな」
おれは、もう一つの可能性に賭けた。
「ルージュの血筋なら、誰にでも出来るんだろ。そう言ってくれ」
「いや、それもない。勇者にしかできない。さっきから聞いていると、勇者になりたくないみたいだな。なぜだ」
「勇者なんて馬鹿のやることだ」
「なんだと」
俺は、勇者なんてものは、馬鹿か余程のお人よしのやることだと思っている。
この戦争のおかげで、大儲けしている奴が必ずいる。
そんな奴の手伝いなんか、俺はしたくない。
そして、民衆の奴らは勇者は必ず自分たちのために、戦うのが当たり前だと思っている。
そんな奴らのために、勇者になった人間は、戦わなければならない。
もしも、勇者が戦いたくないと言えば、俺は匿ってやる。
そんな考えの俺が勇者だと?
ふざけんな!
おまえら、勝手に戦争やってろ!
「おっさん!おれは、勇者なんかやらねえからな」
「おまえ~、お国のために戦おうという気にはならないのか!」
「ならねえな~、俺は、平和主義者なんでね~」
「くっ」
王さんは、俺たちをあたふたしながら見ていた。
そのとき、王の間の扉が勢いよく開いた。
「いつになったら、会わせてくれるのです。神父」
扉を開けたのは、女騎士だった。
それも、とてもいい女だ。
「ああ、すまん。ちょっと、揉めていてな」
「揉める?まあ、いいでしょう。もしかして、横の頭の悪そうなのが勇者だと?」
「そうだ。なぜ、聖剣はこいつを選んでしまったのか」
この女、俺のことを頭が悪そうだと?
こいつはダメだ。
顔だけの残念女だ。
なんだ、おっさんと残念女がひそひそ話してやがる。
「王様。また出直して参ります」
「う、うむ。それがいいな」
「では、のちほど。こっちにこい!」
俺は、襟首を引っ張られ、他の部屋へと連れていかれた。
「は、離せ!この残念女が!」
「残念女?どうせ、わたしはおっぱいが小さいわよ!」
「俺は、おっぱいのことなんか言ってないぞ。口の悪い、残念な女。だから俺は、残念女と言ったんだ。
おっぱいのことなんて言ってねぇ。小さいのは、好きだしな」
「こ、このスケベ~っ」
ぼこっ!
うげぇ
理不尽すぎる。
暫くして、落ち着いたころに、残念女が喋り始めた。
「コホン、私の名前は、エリカ・コンラッド。あんたの名前は?」
「ソーマ。ソーマ・ルージュ」
「そう、話は神父から聞いたわ。あなた、勇者になりたくないってほんと?」
「そうだ。勇者なんかになってたまるか。あんな、割に合わないものやる奴は馬鹿だ」
「なんで?勇者になったら、きっともてると思うけどなぁ」
こ、こいつ。
心理戦に持ち込むつもりか?
なかなかやるじゃないか。
だが、俺はこんなことでは落ちないからな。
「ふん!モテるだと?そんなのに俺はごまかされないからな」
「ごまかすなんて。でも、きっと勇者になれば、行く先々で勇者様~って女の子が、言い寄ってくると思うけどな~」
くっ!
なんて破壊力のある言葉だ。
KOされちまうとこだったぜ。
だが、まだまだ~っ
こんなやり取りが、深夜まで続いた。
「夜も遅いわね。それじゃ、また明日」
「はあはあはあはあ。何度来ても同じだからな」
「そっ」
くそっ、余裕じゃねぇか。
だが、このままじゃ俺としても、何時落ちてしまうかもわからねえ。
ここは、逃げるとするか。
おれは、夜のうちに逃げることにした。
翌朝
「入るわよソーマ。勇者になる気になった?あれっ、いない。トイレかな」
10分
「大かな?」
20分
「堅いのかな?」
30分
「まさか、逃げた?」
エリカは、城の中を走り回って探した。
門番に聞くと、
「忘れ物をしたから、取りに行って来ると、出ていきました」
「やられたっ!あいつ~っ」
エリカは、追う事にしたが、どちらへ向かったがわからない。
東門から出て行ったのは確からしいが、そのあとどちらへ向かったのかわからない。
「仕方ないわね。東にある一番近い街に行くしかない」
何の根拠もなかったが、東門から出たのだから、東にいるに違いないとエリカは考えた。
そして、それは当たりだった。
昼前に街に着き、聞き込みをすると、それらしき男がいろいろと買い込んでいたという。
その男は、この街の東から出て行ったらしい。
この街の東には、山があり山越えの準備をしたと、普通は考えるが、エリカは違った。
「これは、罠ね。山越えをしたという。ふふ、私は騙されないわよ」
確かに、ソーマは船に乗り山越えをせずに、船で移動していた。
だが、山越えをしていれば、ソーマに追いつけたかもしれなかった。
ソーマはただ単に
きつい真似までして、山なんか越えてられるか、という考えで船を使っただけだった。
こんな感じで、1週間が過ぎたころ、エリカの耳にとある街にそれらしい男がいる、という情報が入ってきた。
「マドット。この街にソーマの奴がいるかもしれないのね」
今は昼時、エリカは食事処を見て回った。
ぐう~っ
「おなか減った」
エリカは、大好物の饅頭片手に、ソーマを探した。
ソーマは、もう追ってこないと高を括り、昼食を取っていた。
ぶ~っ!
がたんっ!
「何故あいつがこんなところに?」
エリカを見つけたソーマは、思わず吹き出し、椅子からも転げ落ちていた。
テーブル越しに様子を見ていると、この店へ入ろうとしていた。
「やばっ」
やばいと思ったソーマは、テーブルの上に勘定を置き、裏口から出ようとした。
「お客様、お勘定は済ませましたか?」
「し~っ、し~っ!勘定ならテーブルの上だ。静かにしてくれ」
「あざっした~」
エリカは、店員の方を何気なく見た。
そこには、しゃがみ込んだ怪しい人間が見えた。
「見つけた~っ!!」
「くそっ!」
そして、二人の追いかけっこが始まった。
「まちなさ~い」
「いやだ~」
そして、いつの間にか二人は、森の中へと迷い込んでいた。
「はあはあはあはあ。ちょ、ちょっと待て」
「はあはあはあはあ。な、なによ。ようやく捕まる気になった?」
「いや、これ以上はやばい」
「なにが?」
「森から出られなくなるぞ」
エリカは、見渡してみた。
確かに鬱蒼としていて、やばそうな感じだった。
「わ、わかったわ。休戦にしてあげる」
「なんか、上から目線だな」
「うるさい」
しばらく歩くと、日が暮れて暗くなってきた。
「おい、なんでくっついてんだよ。無い胸擦り付けんな」
「だ、だって」
先ほどから、エリカの様子が変だった。
そう感じたソーマは、わざと胸のことを言ってみた。
だが、それにエリカは反応しない。
「おまえ、こわいのか?騎士のくせに」
「こ、こわくなんか・・・」
エリカが怖がっているので、早く森を出たいが暗くなっても、うろうろするのは得策ではない。
しかたなく、ソーマはここで一晩明かすことにした。
「エリカ」
「な、なに」
「闇雲に歩かない方がいい。仕方ないが、ここで一晩明かそう」
「え~っ」
不満そうなエリカを、何とか説得して明かすことにした。
薪を拾い、薪をして。
ぐう~っ
昼に饅頭一つ食べただけのエリカは、おなかが減っていた。
「おい、これ食うか?」
そんなエリカに、ソーマは干し肉を差し出した。
「無いよりましだろ」
「う、うん・・・かたい」
「文句言うな」
がさがさっ
そのとき、草むらから何かが出てきた。
びくっ!
「な、なに。何が出たの?」
「わからん」
「やはり、人間か。人間くせぇと思ったぜ」
「おまえ、悪魔か」
「そうだ。この俺様が、アザゼル様の右腕、アモン様だ。どうだ、驚いたか」
「すまん」
「何謝ってんだ、このやろ~!なら、そこの女騎士なら知ってるだろ」
「いや、私も知らない」
「ぐぬぬぬぬぬ。お前ら二人とも、殺してやる」
頭に来た悪魔は、この人間を殺すことにした。
「そうか、殺すのか。まあ、どっちでもいいけど、お前この森のことよく知ってんのか?」
「まあな。俺様の庭のようなものだからな」
「それはよかった」
ソーマはそれを聞くと、剣の構えをとった。
だが、剣を持っていない。
「なにやってんだお前。馬鹿なのか?」
「いや、これでいいんだよ」
「馬鹿にしやがって。そんなら、死にやがれ」
ソーマと悪魔が斬り合おうとしたその時、エリカが割って入った。
「どうしたエリカ?」
「代わって。あいつ殺すの代わって」
「代わってやってもいいが、殺すのは無しだ」
「わかった」
エリカは、悪魔を睨みつけた。
そして、
「よくも私を驚かせてくれたわね」
「それがどうした。この臆病者が」
カッチ~ン!
その一言で切れたエリカは、死なない程度に斬りまくっていた。
「殺すなよ」
「わかってる」
エリカは、5分程で斬るのをやめた。
「おい悪魔。死にたくなかったら、森から出るのを案内しろ」
「わ、わかった」
1時間ほど悪魔に案内をソーマはさせた。
「ここをまっすぐに行けば、街に出られる」
「そうか、ところでお前は何しに来たんだ?」
「単なる偵察だ」
「そうか」
ずばっ!
「な、なんで?」
「あほか、俺は一応人間だからな。お前たちは、敵だ」
「そんな、殺さないでいてくれるんじゃないの?」
「なんだそれ。そんなの俺は知らん」
「そ、そんな」
「ソーマ、あんた悪魔をあんな殺し方して、なんとも思わないの?」
これが、ソーマ・ルージュの勇者としての、初仕事だった。
エリカから逃げながら、勇者の仕事をしないといけない羽目になるのだろうか?