高下駄の音
焼き芋を片手に高下駄を鳴らして敷居を跨いだ。擦れ違い様高瀬さんのお兄さんと分かった。
「おや、今日は」
私は声を掛けた。陽だまりの中。
「ああ、ご苦労ですね。お見舞いですか?」と高瀬の兄。
「ええ。お出掛けかしら?」
「ちょっとそこまで。夕飯までに帰ります。」
そう言って高瀬の兄は左。私はその弟恭四郎の元へと別れた。
恭四郎は今肺を患って寝ている。私は従姉弟で家が近い。昼間の暇を持て余し見舞いに来る事が多かった。私より恭四郎は3つ下。ほどほどに近い年から言いやすいのだろう、歯に衣着せず、私に文句を言う。
「今日は焼き芋ですか?何処のです?
僕が頼んだのはこのお酒ではありません。ほら、3度ですよ。
芋じゃない栗。
この布団はザラザラする。」
「あなたのメガネは品がないわ。新しいのお買いなさいな。」
「僕は本を読むとき以外メガネは掛けないからいいんです。」
「少しお外に出なさいな。」
「ごほごほ。肺が痛い。」
・・・・・。
そんな感じで毎日が、何やらのらりくらりと過ぎて行く。
その日の夕食。兄の健一郎も戻り、家族一緒に善を囲む。
健一郎は恭四郎より10も上。
「僕はさっき焼き芋を食べたから夕食は要らない。」と言う恭四郎を座るだけでも座らせる。
「どうせお腹が空くでしょう。焼き芋を食べたのは3時頃でしたよ。」
時間は今7時を回った。
「恭四郎、あまり我儘が過ぎると、いけませんよ。
瀬奈さんも、あまり恭四郎の我儘にのらないで。
宮沢賢治の注文の多い料理店を知ってますか?あれはね、注文どうり言う事聴いて、後で食べられるって話なんですよ。」
健一郎、怖い事を言う。
「恭四郎が、よう食べるもんかね。ほれ咳しよる。」
と、おばあちゃん。今年80を超える。
「食べられませんよ。最後は犬に助けられるんです。それに、嫌です私。あの人間は良い人達ではないでしょう。」
「似たようなものです。」
夏の宵もたけなわ。まったりと過ぎて行く。
「瀬奈さんは来月お嫁入りですね。どうですか?」
健一郎が言った。
「どうもこうも。」
瀬奈はそっぽで答えた。
生まれた時から近い中。瀬奈は健一郎を好いていた。
しかし従兄妹。
3年後、健一郎も遅ればせての祝言を上げる。
芽吹いて出でし恋の花。蕾のままに。
御年
瀬奈82歳。健一郎75歳で幕を閉じる。