君の見た夢の続きを教えて。②
「ああ、もう三時か……なんて思ってます?」
「えっ」
何も祐は時計を見る癖を隠していたわけではないし、何かと勘のはたらく澪がそんなことを言ったところで不思議はなかった。ただ、瞬時にそれを偶然だと思い込もうとした祐は、必死になってしまった自分に嫌気がさしたのだった。
「時計さ、見るの癖なんだよ。昔は時計のない生活なんていうのを夢見てたんだけどね。結局あれば見てしまう」
「運命みたいですね」
「何だい、哲学の話?」
「私たちの及びもしない遥か彼方に運命というものがあるとするじゃないですか。運命なんて存在しない、自分の好きなように生きているんだって主張したい反面、もし運命がわかりますよ……なんて言われたら、知りたいと思う人も出てきますよね」
「そういうことか。でも、時計は目に見える形で存在があるけど、運命は目で見ることはできないよ」
「時計は、時間を刻んでいます。だから……時間は目に見えなくて、えっと……」
祐としては、澪が何か仮説を立てたところで肯定も否定もするつもりはなかった。ただ、結局のところ澪はある種の必然性に魅力を感じているのか、それともクレイン絡みのことにとりわけ繋がりを持たせたがっているだけなのかがいまいちはっきりしないところであった。
「もし運命を目に見える形で存在させることができたら、って澪ちゃんは思うわけだ」
「そう! そうなんです!」
「でも見えたところでどうするの」
「う……そんなにいじめないでくださいよ……。クレインに近づける気がして……」
「じゃあさ、クレインのことを知ってどうするの?」
「……。意味がないといけませんか?」
「いや……僕だったらそこまで一生懸命になれないなって」
「篠原さんは、知りたいことはないんですか? どうしようもなく知りたいと思うことはありませんか?」
澪の声が次第に独特な響きをもち、祐の意識に問いかける。意味があるとされていたことに実際は何の意味もなかったことがわかってしまったらどうしますか。存在しない答えの埋め合わせをしながら世界が回っているとしたらどうしますか。削除された答えはどこに保存されるのでしょうか。
何かがおかしい。繰り返される問いと淀みつつある空間に違和感を感じた祐がはっと我に返れば、聞き覚えのある時針の音が聞こえた。録画していた音声データを巻き戻されたかのように、周囲の音が一斉に祐の耳に入り込んだ。澪と会うのにすっかり固定の場所となってしまった喫茶店の風景。談笑する客たち。意識的に聞いていなかったためか、店内を流れる音楽の一つ一つが染み入る。
「見た目に反して中々不思議なことを言ってました。雲に流れる時間はどうとか」
既に一度聞いたはずの言葉が澪の口から出る。祐は冷静に判断した。夢でも見ていたのか、あるいは過去にでも戻ったのかと。何が起きたにせよ、違う答えを提示しようと祐は決めた。
「雲に流れる時間は、雲のみぞ知る。彼には彼の、クレインにはクレインの時間があるってわけだな」
何だかちょっとした哲学ですね、少し困ったような表情で澪は笑った。時針はちょうど午後三時を示したところであった。




