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君がいるから  作者: 柚果
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第六十一話 君がいるから

「200円です」



わずかなお賽銭と引き換えに一年の無事を祈った後



私たちは今年最初の運試し、おみくじを引こうということになった。



「やった大吉っ!」


「沙希ちゃんおれもっ!」



バカップル…もとい沙希と彰くんはどちらも大吉だったらしく



お互いのおみくじを見ながら、あぁでもないこうでもないと話していた。



本当に仲いいなぁ…少しだけ羨ましい。



何て思いながら二人を見ていると頭上からアイツの声がする。



「吉、ね」



そう。私が引いたおみくじは"吉"。良くも悪くもなく、自分次第でどうにかなるという運勢は、今の私にはぴったりかもしれない。



「そっちは?」



"おれ?"と自分自身を指差して聞くので、大袈裟に頷いて見せた。



「これ」



ひらり、と私の目の前で開いたそこには"吉"の文字。



「あ…同じ」


「ま、いいんじゃない?要は"自分次第"ってことで」



あまりにも同じ考えだったので、少し驚いたあとふっ、と笑ってしまった。



「結ぶだろ?」


"あの二人は持って帰るだろうからな"沙希と彰くんを指差して笑った。



そこにはすでにたくさんのおみくじが結び付けられていて、少しの隙間も見当たらないくらいだ。



「…わ。どこにしよう」



上の方は空いていて、普段の私なら手を伸ばせば届く範囲



だけど今日は着物なので、両手を思い切り上げることが出来ない。



…この辺でいいや



詰めれば一人分くらいなら入る狭さ。



結び付けようとするとふと目の前に手が出された。



「え?」


「貸せよ。手、上げられないんだろ?」



"早く貸せ"と言わんばかりにもう一度手を差し出されたので



私はそっと自分のおみくじをアイツの手の上へ置いた。



そうだ。この人はこういう人だ。



さりげない優しさ…何気ない言葉



本人は気が付いてないかもしれないけれど、私は何度この人に助けられただろう



「よし終了」



その言葉に目線を向け、隣り合った二つのおみくじを見る。



それだけで嬉くて胸が痛くて…切なくなる。



想いが溢れて出してくる。



「好き」



何の前触れもなく出た突然の言葉に、自分でも説明なんか出来ない



驚いたようなアイツの顔が私の瞳に映る。



だけどもう止められない。



「水島 恭介が好き。こんな些細なことで泣けちゃうくらい…好き」



周りの誰一人として、私の声に耳を傾けている人はいない。



たった一人…その人だけに向けられた言葉。



視線が絡む。



アイツはふっと目線を下げ、呆れたように笑って言った。



「…いきなりすぎ」


「…ごめん」



だけど今言わなきゃって。そう思ってしまったんだ。



呆れたような顔を見たくなくて、顔を背けてしまった私の視界が急に暗くなる。



…え



「…慶のこと…話ついたのか?」



その声の近さで、今自分がどういう状態にいるのかはっきりわかった。



すぐそばで聞こえるアイツの声…温かい体温…私をすっぽりと包む長い腕



頭がクラクラしそうだ。



「…うん。あの…でも理由は…」


「うん。杏が言わないなら聞かない」



何で今私はアイツの腕の中にいるのか…なんでそんな優しい声で語りかけてくれるのか…



考えようとしてもわからなくって。だけどこの手を離したくなくて…



「…何で?…何でこんなに優しいの…?」



聞きたくて聞けない。でもその答えが全ての答えのような気がする。



震える声を必死に堪える。望んだ答えじゃなくても後悔なんてしない。



だってそれは今を大切にした"証"だから。



「バーカ」



…!?



「ちょっとバカって…!?」



思いも寄らない返事にパッと顔をあげてしまった。



いくらなんでもこの場面で言う言葉じゃないでしょう!?



目が合う。アイツは優しい顔で笑っている。



駄目だ…やっぱり私この目に弱いよ…



涙を堪えている私に向けてアイツは言った。



「好きだから。多分お前よりずっと前から」



もう止められない。涙はせきを切ったように溢れ出す。



アイツの胸に顔を埋めると…ぎゅっと…



アイツの腕にぎゅっと力がこめられるのを感じた。



あの日君に会わなければ、慶くんに会うこともなかった



あの日君に会わなければ、優姉の生きた時間を知る事は出来なかった



あの日君に会わなければ、…こんな幸せな気持ちにはきっとなれなかった



最悪な出会いだって。最初はそう思ってた



だけど…君がいたから私は強くなれた



そして、これからも強くいられる。




それは…君がいるから。


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