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君がいるから  作者: 柚果
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第五十九話 新しい光

だけど不思議と、慶くんが優姉に何かをしただとか



そういう考えは全く浮かんでこなくて



いたって冷静な私は、声を荒げることもないまま話を続けられていた。



「…前にも言ってたよね。どういう意味…?」



楽しそうに笑いながら一人、二人。高校生くらいの女の子が通り過ぎてゆく。



キュッ、キュッ。構内の床とスニーカーが擦れる音が聞こえ



やがて小さくなってまた静寂が訪れる。



それが合図かのように慶くんは重い口を開き始めた。



「あの日。事故に遭った日。会うはずだった…アイツと」



一瞬その意味がわからなくて。"え…?"と小さな声が私の口から漏れた。



言おうとして言った言葉じゃない。



ただ私の目には、居た堪れない表情を浮かべている慶くんが映っているだけだ。



「会うはずだった…?それが一体…優姉は脇見運転の車に…」



そう。姉は脇見運転の車に轢かれた。スピードはさほど出ていなかったけれど



打ち所が悪く、その日のうちに帰らぬ人となってしまった。



でもそれが一体…?



「アイツから待ち合わせの時間に遅れる、って連絡が来て


おれは"早くしろよ"って言った。冗談で"帰るぞ"…とも」



「それでアイツは…優は事故に遭った。一瞬の出来事…それで何もかもが終わってしまった」



驚くほど単純な答えだった。



恋人との待ち合わせに遅れそうになった彼女は、彼に少しでも早く会いたくて



懸命に走った。ただ会いたい一心で。笑った顔を見たくて…



姉の思いを考えると、溢れる涙を抑えることは出来なかった。



だけど、それを彼に責め立てるのは違うと思った。



私は涙を拭い、震えそうになる声を抑え、真っ直ぐ彼の方を向いた。



目に映るのは弱々しくさえ見える顔。少し涙が滲んでいるのかもしれない。



「慶くん間違ってるよ。そうじゃない」



私の言葉にゆっくり視線をあげる慶くんに、私は息を整えながら続けた。



「あれは事故なの。誰かが悪い。でもそれは慶くんじゃない。


慶くんが責任感じることじゃない。それじゃ…」



そんなんじゃ…



言葉が詰まってしまう。だけどこれは言わなくちゃ…私の声で



「優姉がかわいそうだよ」



慶くんの表情が変わったのがわかった。



どう変わったかなんて上手くは言えない。だけど変わった。



「…好きだった人にいつまでもそんな風に覚えていて欲しくない。


私なら楽しかったことや…一緒にしたこと。思い出して笑えるようなことを覚えていて欲しい」



「責任とか…そんなの必要ない。きっと優姉もそうだと思う」



自分のせいで好きな人が苦しんでいる…それを助けることも出来ない。



そんなの…苦しすぎるよ…



「それにね。


それに、覚えていて欲しいけどそれに捕らわれていて欲しくないから」



少し響いて数m先では消えてしまうかもしれない小さな声。



だけど強く…伝わって欲しいから…



「私のこと気になってるかもしれない、って言ったよね…?


それってきっと…優姉と重なって見えたからだと思うの。もちろんそういう恋もあるかもしれないよ?


でもそれは私じゃない。慶くんは私の中の優姉に見てたんだよ」



慶くんは何も言わずに…ただ頭を抱え込むような仕草を見せる。



そして少し肩が震えているような気がした。



「それともう一つ…


"手に入れないほうがいい"なんて言わないで…?」



「それこそ優姉への罪悪感としか思えないよ。そうやって一生責任感じてくつもり…?


誰も望んでないのに…。そんなの悲しいだけ…」



誰もが望んでいるような幸せな未来も叶わぬまま…一瞬にして消えてしまった大切な人



だけど辛さを心に引きずったままでいても…誰も喜ばない。



"あぁ…"



小さく…小さくだけど聞こえたその言葉は、慶くんが何かを吹っ切ったからだと思いたい。



確かめたわけじゃないけれど…あのコスモスはきっと慶くん



同じ小説家が好きで…あんなに楽しそうな姉の笑顔…それにコスモスの花



優姉はきっと幸せだった。



…決して長い時間じゃなかった。だけど問題は長さなんかじゃない。



そうだよね…?優姉…



気が付けば窓から差し込む朝日が私たちを明るく照らしていて



新しいスタートにふと笑顔と涙が零れた。


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