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君がいるから  作者: 柚果
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第五十八話 二人の時間

「じゃあ12時にまたここでね」



午前3時



彰くんの解散宣言で、それぞれが家路についていく。



私と沙希は地元は同じだけど最寄り駅が異なる為違う路線だ。



沙希に改札口で"またね"と声を掛け、私は来た道を引き返す。



慶くんがあの2人にどういう理由をつけて別れてくるかはわからないけど



必ず来る。根拠なんてないけれど、確信を持って今このベンチに座っている。



それにアイツもこのことを知っている。



そのことがさらに私の確信を強くさせた。



「悪い待たせた」



その声にふと顔をあげた。



何を思っているか、何を考えているのか。表情からは全く読み取れない。



ただ何か決意を持ってここに立っている。そんなふうに感じる。



にこっと笑う私を確認して、隣りへそっと腰掛ける。



いつもは人ひとりいないような真夜中。だけどチラホラと人の姿を確認できる。



一年で今日だけの特別な雰囲気。



その雰囲気の中で言葉を交わさなくてもわかることがある。



慶くんはきっと姉の死を私達家族と同じように感じて、同じように傷付いて



そして今でも姉のことを大切に思っている。



だから簡単に話せることじゃないんだ。簡単に話したくないんだ。



でもね…?



でも"大切にする"って一つの形だけじゃないと思うんだ。



それが原因で前に進めなくなってしまったら…きっと姉は悲しむ。



私だからこそ慶くんに言えることがきっとある。



「優姉はね、苗字は違うけど血の繋がった姉なの」



私の言葉にピクッとかすかに反応したのがわかった。



「うち親が離婚してて…それで私が"立花"、姉が母の旧姓の"今井"」



"でも今は一緒の家に3人暮らしてる。変でしょ?"と続ける私に慶くんはゆっくり顔をあげ口を開いた。



「知ってる。優に聞いたことがあった…妹がアメリカにいる、って」



"優"



その言葉が姉と慶くんが過ごしてきた時間を物語っている気がした。



「慶くんと優姉は…付き合ってたの?」



答えは十中八九"Yes"。だけど慶くんの口から直接聞きたかった。



そんな私の考えは慶くんの言葉によって真実に変わる。



「あぁ…付き合ってた。アイツが中三の冬からだよ」


「そっか。じゃあ…この頃はもう付き合ってたんだね」



鞄からすっと差し出した写真。"はい"と慶くんに向け、手に取るように促すと



私から写真を受け取った慶くんは少しだけ驚いて



そして懐かしい宝物を見るような優しい目でそれを見つめていた。



「…これで気付いたんだな」



納得したかのように呟かれた言葉に、私は一度頷いてみせた。



「ね…?優姉といつ知り合ったの?中学も違うでしょ…?」



私がアメリカにいた頃の姉を知りたかった。電話やメールなどでたまに連絡は取っていたものの



小学生の頃に別れてしまった私が知っている姉は、結局は文章上での想像でしかなった。



「…アイツが中三でおれが中一の春。偶然だった。ただの」



「…中三か。でもちょっとショックだな…っ!優姉何も言ってくれなかったから…!」



わざと明るく言ったのは、少なからず受けたショックを隠すためかもしれない。



「それは違う」


「…え?」



「優は自分の試験が全て終わって高校へ入って、落ち着いたら言う。って言ってたから」



そうだ。中三ということは受験生。私もその頃は連絡はいつもより控えていたんだ。



「だから立花に言いたくないとかそういうんじゃなかった」



そして姉は5月…あの事故にあった。だから私は知らなかったんだ…



「それに受験生なのに遊んでるって嫌われたらイヤだ。って笑ってたしな」



…バカだな。嫌うわけないじゃん。想いは止められないってこと今は誰よりもわかってるつもりだよ。



「その全てを…おれが壊した」



はっとした。



前にも聞いた言葉。あの時の鋭い…それでいて悲しい瞳を思い出す。




目の前にいる人はあの時と同じ目をしている。

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