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君がいるから  作者: 柚果
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第五十五話 それは

和室から自分の部屋までの短い距離をひたすら走った。



走ってるのに足が空を蹴る感じがして全然前に進めていないように思える。



早く…早く…!



ドアを乱暴に開け放ち、閉めるのも忘れてベッドへ倒れるようになだれ込んだ。



いつも枕元に置いてあるはずの携帯が見つからない。



イライラした気持ちを抑えつつ掛け布団、毛布を次々とめくっては探す。



ない…ない…何で…っ!?



パッと枕を持ち上げるとそこにいつも通り携帯はあった。



開いて番号を表示させるにも、指が震えてしまっていつもの倍の時間がかかってしまう。



落ち着け私…っ!



プルルルプルルルプルル…



呼び出し音がやけに私の苛立ちを増幅させる。



プルルルプルル…プッ



『はいはぁ〜い?』


「沙希っ!?私っ!!」



私のただならぬ声に"何?どうしたの?"と沙希も驚いている。



でも今はそんなことに構っていられなくって自分のことで精一杯だ。



「お願いっ!彰くんに慶くんの連絡先聞いて私に教えてっ…!!」



考えてみると、普通なら"どうして?"と聞くところなんだろう。



だけど沙希は"…わかった。ちょっと待ってて"と何も聞かなかいでくれた。



電話を切った私はズルズルとベッドに寄りかかると



急に息苦しい感覚に襲われ、大きく二、三度深呼吸をした。



…とにかく。沙希からの連絡を待とう



ふと気付く。携帯と同じく自分の右手で握っているあの写真。



思わず持って来てしまっていた。自分でもわからないままに。



ゆっくりと広げてみると、さっき見た時と変わりない姉の楽しそうな笑顔。



そして傍らには私の知ってる限りでは、そこにいるはずのない人



だけど写真に写り込む二人の空気がそれを"そうじゃない"と否定している



…どうして?優姉と慶くんは何で…



〜♪



その音にすぐさま携帯を開きメールを確認すると、そこにはしっかりと慶くんの連絡先が記されていた。



沙希へのお礼を忘れていたわけじゃないけれど、何よりもその連絡先を待っていた私は



震えが止まった指で登録を済ませるとすぐさま発信ボタンに手をかけた。



何を言おうとか。何を聞こうとか。そんなの何も考えていない。



ただ話さなくちゃ。その思いだけが私に電話を掛けさせている。



『…はい』



聞き覚えのある低い声。



『慶くん私…!!聞きたいことが…っ!」



落ち着こう。と思っていても、どうしても駄目だ。



『…立花?』



勢いのあまり私は名乗ることも忘れていて。それでいて何から聞けば良いかわからなくて。



『何?とりあえずわかるように…』


「今井 優」



口に出たのがこの言葉だった。意図なんかない。ただ気が付くと口にしていた。



『お前…今何て…』



慶くんの明らかないつもと違う雰囲気が読み取れる。その声に、反対に私は落ち着いてきた。



「今井 優…知ってるよね?」



もう一度確かめるようにその名前を声に出す。泣きそうになるのを必死で堪える。



『…恭介…じゃないな』



慶くんの問いかけかもわからない言葉に私は一度頷く。見えるわけじゃないのに。



「…誰かから聞いたんじゃない。そうじゃないの」



あぁ…やっぱりそうなのかもしれない



「今井 優…はね」



だから慶くんは私にあんなことを言ったんだよ



「それは…」



だって共通点がありすぎる。思い出すには十分すぎる。




「私の姉だから」

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