第五十四話 どうして…?
すっきりしないまま日は続き、とうとう冬休みへ突入した。
試験結果は上々。めでたく赤点もなかった。
私は今、家中を捜索している。
『カウントダウン行って初詣も行くから。あ、一旦帰って晴れ着でね♪』
沙希のこの一言により初詣は着物で行くことになったからだ。
いつもの通り、すでに決定事項だったわけで…
「…あれ…どこだっけ?」
私は着物を2枚持っいて、赤と紫。どちらもキレイな色で気に入っている。
アメリカへ行く前に両親が買ってくれたもので
"日本人なら持って行って損はない"という父の言葉。
半信半疑だったけど、向こうで着たときはすこぶる評判が良かったので驚いたことを覚えている。
ちなみに誰も着付けてくれる人がいなかったので自分で覚えた。
意外な特技の一つだったりするんだよね。
「あった!」
やっと見つけたそれを丁寧に取り出すと、桐たんすの匂いが鼻をかすめた。
私は小学5年生の頃すでに身長が158cmあり、その後あまり伸びずに今は162cm
なので難なくこの着物を着ることが出来る。
色どっちにしようかな…赤?紫?…う〜ん。
大輪の白い花が描かれている赤
幻想的な蝶が描かれているグラデーションの紫
沙希は確か赤系だから…私はこっちかな
紫色を少しあてがって鏡を覗き込むと、昔と違った自分がそこに映ってるような気がした。
…こんなに大人っぽい色だったっけ?私も成長したもんだな
着物用の大きなハンガーにしわにならないように掛けると、私はもう一度たんすを探り始めた。
確か併せて買った髪飾りもあったはず…昔は地味だと思ってあんまり好きじゃなかったけど…
手を伸ばし狭いたんすの中を右往左往していると手先にコツンと何かが触れた。
これかな?
戻した手に握られていたのは小さな和紙の箱。…私のじゃない。
「…ってことは優姉の?」
姉も同じく着物を持っていたので、同じ場所に保管されていても何ら不思議はない。
一先ずその小さな箱を横へ置いて私は再びたんすの中へと手を入れた。
これじゃない…これでもない…あ!
透明の箱の中には見覚えのある黒地に蝶が描かれた蒔絵かんざしだ。
っていうか小学生に買うにはシブ過ぎるような…
髪を無造作に上げゆるく挿してみる。
ま…今ならアリか
パッとかんざしを抜いた手が何かに当たり、カタンと落ちる音がした。
「あ」
あの小さな和紙の箱。落とした拍子に箱が開いて中身が出てしまっている。
私はしゃがみ込みその飛び出た物を手に取った。
「やっぱ優姉のだ。この帯紐見たことある」
中には帯紐の他にも髪飾りやピン止めなどが入っていたらしい。
落としてしまった物をひょいと拾い上げては箱の中へ戻していく。
ふと箱の中に目をやるとあるものが目に入った。
「…写真?」
何でこんなところに?
写真は何枚か重なっており、1番上には着物を着て笑っている姉が写っていた。
「これ…いつだろ。中学、かな…」
髪の色が黒い。少なくとも高校生の頃じゃない。かといって小学生ではなさそうだ。
2枚目は大吉と小吉のおみくじが一緒に写った写真。
2枚写ってるってことは…母だろうか?
その写真を見てるとふと笑みがこぼれてくる。
姉はどっちだったんだろう。何て思いながら私は最後の写真を見るために2枚目を一番最後へ移動させた。
「!」
そこに写っていたのは楽しそうに笑う姉の姿。そして隣には少し仏頂面な少年の姿。
まだ幼い顔をしているけれど、すぐにそうだと気付くことが出来る。
どうして…どうして彼がここに…
私の指先からするりと写真が落ちる。ゆっくりとひらひら舞っているようなそれは
やがて裏を向いて私の足元へと降りて来た。
写真の裏に書かれた文字
『200×年1月2日 南金原神社にて
慶 中学1年 優 中学3年』




