第五十三話 いっぱいあるんだよ
「はい止め」
言葉とともに安堵のため息や恐怖の叫び声が聞こえる。
学生の本業は勉強
その成果を試されるのが年数回行われるテストだ。
今日そのテストの4日目を終えたところで全日程が終了した。
あとは冬休みを待つのみの学生はいやでもテンションがあがるってなもんで…
ここにも例外じゃない人が約1名。
「どこ行こっか?ワンダーランドのカウントダウンなんてどう??」
私達はテストが終わったのに昼から帰るなんてもったいない、と例のファミレスに来ている。
あの3人が通う北野高校は、終了日こそ同じだけど教科数が違い1時間遅いらしい。
「あ、でもやっぱ初詣行きたいよね」
沙希は休みの計画をアレコレと考えていることと、テストが終わった解放感により満面の笑みだ。
「初詣は彰くんと2人で行かないの?」
ちなみに沙希が今考えているのは"冬休みに5人でどこかへ行く"計画だ。
「う〜ん。カウントダウン行ってそのままみんなで初詣、っていうコースもありなんだけど?」
…何で疑問系?
「ちょっとでも長い時間一緒にいれたら嬉しくない?」
「私?」
自分で自分を指差す私に思いっきり頷く沙希。
「えっと…私のこと考えてくれるのはうれしいよ?
でも沙希と彰くんの邪魔はしたくないんだけど?」
確かに5人で会う以外にアイツと会う確率はゼロに近い。
だけど私のことで2人の時間を奪いたくないのは本音だ。
「ううん。私が楽しんでるだけだから気にしないで」
スッパリと人の恋を楽しんじゃってます宣言。
良い意味でも悪い意味でも沙希らしいというか何というか…
「だって杏と恭介くん、ほっといたら全然進展しなさそうなんだもん。
これは親友として頑張らねば、と思うわけよ」
"それで私がね…"と独自のシナリオを披露する沙希を暴走中と判断した私は
"うんうん"とタイミングよく相槌を打つ。
…だってアイツが私に告白する。とか言っちゃってるんですよ?
まずその時点でないでしょ。好きなのは私の方なのに。
「ってわけ。どうよ?」
長々と続いたシナリオが終わり、私に同意を求めるような聞き方。
「…無理でしょ?ハードル何個越えなきゃいけないのよ…」
沙希のシナリオは最終的に、告白される→付き合う→長続き→私達の結婚式に2人で来てね♪になった。
最初っから思いっきり躓いてますから。
「そんなことないよ。だって…あ!…何でもナイ」
…明らかに気になるような言い方。いいや。あえて聞かないことにしよう。
「あ。ねぇ、そろそろ出てもいい?」
ふと気付くと時刻はそろそろ2時を迎える。
「だね。冬は暗くなるの早いから遅くなると困るもんね」
会計を済ませて店を出て駅へ向う。
沙希はこれから彰くんと待ち合わせ。嬉しそうに手を振って別れた。
私はその足で花屋へ向かう。
冬の夕方は風が冷たい。日が暮れるのも随分と早い。
「来ちゃった。誕生日以来だね!」
私は制服のままで姉のお墓に来ていた。もちろんコスモスを持って。
あの日、慶くんと話を聞いて考えて…無性に姉に会いたくなったのだ。
なのにテストは待ってくれない。ので少し遅くなってしまった。
「じゃん!今日はホワイトコスモスにしてみました」
冬らしい淡く白い花が咲くウィンターコスモスだ。
包みから取り出しコスモスを生けているとあの花のことを思い出した。
「あ…そういえばストロベリーチョコ」
いろいろあって忘れていたけど…結局誰だったんだろう。
ザワザワと風が吹いて木が揺れる音。ここではその音だけが聞こえている。
ま…いいか。
「…聞いて欲しいこといっぱいあるんだよ」
本当は答えて欲しいけれど、そうもいかないよね。
私は久しぶりの姉との時間を楽しんだ。




