第五十二話 大切なもの
好きの延長にはずっと一緒にいたいって想いがあって
嬉しいことも悲しいことも全部一緒に分け合いたい。
恋愛経験が豊富じゃない私でもこれが普通のことだと思ってた。
『壊すくらいなら手に入れないほうがいい』
あれって…つまり…
慶くんが彼女を壊した…ってこと?
彼女さんは交通事故で亡くなったんだよね…?
思考回路が最悪な結末を想像しようとして、はっとした。
そんなわけない。あるはずがない。
事故で家族を亡くした人の辛さは痛いほど知ってる。
加害者をいくら恨んだって死んだ人は戻ってこない
そのことがわかった私でも加害者が憎いという想いは…当然ある。
でもそれが当人の一番大切な人だったら?
自分の責任で大切な人を死なせてしまったら?
「…まさか…そんな」
思わず声に出して呟いた。
心では思っていても、頭では違うことを考えてしまう。
私の考えすぎだよね…?
あの鋭い視線…それにあの目
「…忘れられるわけないじゃない」
〜♪
「…!」
ベッドの枕元に投げ出されていた携帯電話が鳴った。
びっくりした…!誰だろ…
サブディスプレイに浮かびあがったのは"恭介"の文字。
不謹慎にもやっぱり胸がとくんと高鳴る。
そっと開いてメインボタンを押すと、アイツからのメールが画面に現れた。
『From:恭介
To:杏
Sub:無題
本文:よっ(^o^)/
今日は偶然だったな。
彰も言ってたけど、冬休み入ったらまたみんなでどっか行こうぜ!
その前に期末だな。赤点取んなよ(笑)』
「バカ…取んないって」
聞こえるはずはないけれど無意識に答えてしまっていた。
ほんとずるいよ…こんな時いつもアイツの言葉に助けられる。
少し滲んで画面が見えなくなった目を拭いて私は返信メールを打つ
『From:杏
To:恭介
Sub:Re:そっちこそ!
本文:本当、今日は偶然だね。
沙希にもそう伝えておくよ。多分彰くんから伝わってると思うけど…
そっちこそ油断して赤点取らないように(笑)』
パタン。と携帯を閉じると自然に笑顔がこぼれる。
"好きの延長にはずっと一緒にいたい"
この想いはまだ十分とは言えないけれど
少なくとも今は、この繋がっているメールが大切だと感じている。
その時にふとある想いが浮かんだ。
『お前見てると思い出すわ』
『嬉しいような嬉しくないような…ってとこかな』
『似てるよな。アイツに…』
もしかして…
慶くんは本人でも気付かないうちに私と亡くなった彼女を重ねて見てるんじゃないだろうか
私が慶くんの言葉を信じられないと思う理由はこれ…?
『壊すくらいなら手に入れないほうがいい』
これはきっと慶くんが恋愛すべてを放棄した言葉
でもそんなの…悲しすぎるよ




