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君がいるから  作者: 柚果
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第五十一話 何の話…?

「ん」



慶くんの声と同時に私の掌に温かい感触。



「ありがと…あ、お金」


「いい。それくらい」


「…じゃあお言葉に甘えて」



混み合う改札口から少し離れた3人掛けのベンチ。



プシュ、と缶のプルトップを開け口に含むと



気付かないうちに冷えていた体に温かさが広がった。




この間、約数十秒どちらからとも言葉はない。




「…ね、何か話あった?」



多分話があるから引き止めたんだろう。



私も話したいことがあるとはいえ、まずは慶くんの話を聞くことが先のような気がする。



「そっちこそあるんじゃない?」



え…?



私の驚いた表情がわかったんだと思う。



慶くんは缶コーヒーをほんの一口飲み、さらに続けた。




「不自然だから。チラチラ様子伺ってる、みたいな?」


「う…それは…」




そりゃあ不自然にもなるってば。



あんなこと言われて…平気でいられるはずがない。



だけどドキドキとか、そういう感情じゃないんだ。




「…あのね。この間のことっていうか…うん。



つまりあれはね…?えっと…」



上手く言葉が回らない。聞きたいこともあるのに空回り。



頭の中で言葉を探していると、なぜか隣から"くっ"と笑う声がした。




私ってもしかして挙動不審…!?




「あ、悪い。でも俺らって"この間のこと"の話ばっかりだな」



いつもと同じような態度。ううん。むしろ笑ってる。





「ねぇ。あれはどういう意味?私は…どうしたらいいの?」



真っ直ぐに相手の目を見て聞く。視線がぶつかる。



…不思議だけど、やけに落ち着いている私がいる。



あれほど言葉が見つからなかったのに、なぜかスッと口に出た言葉だ。




そして慶くんの口がゆっくりと開く。




「おれ冗談とか言わないタイプだから」



…わからない。それが私の質問に対する答え?



「かといって別に立花にどうしろなんて言わないし」



…何よそれ




「それって自分勝手じゃない…?」



慶くんは私の言葉の意味がわからない、といったような顔を向けている。



だけどそうでしょ?だって…




「じゃあ私はどうしたらいいの?そうやって自分だけで解決しちゃって…



あんなの誰だって考えちゃうよ…。じゃあ慶くんは何の為に言ったの?」




感情が高ぶってしまう。責めたいわけじゃないのに…




「…じゃあ何?"好きだから付き合ってくれ"って言えばいいわけ?」




急な射抜くような鋭い視線に私も視線が外せなくなる。



その鋭い視線の中に曇る瞳が見え隠れしている気がして…




「そういうわけじゃない…っ」



目線を下げてこう言うのがやっとだった。




駄目だ…。このままじゃ何の解決にもならない。



引き上げようと立ち上がった私を止めるように慶くんはさらに続けた。




「多分俺はこの先その言葉をいう事はない。壊すくらいなら手に入れない方がいい」




こわ…す?一体何の話…?



話の中身が見えない。立ち尽くす私を横目に慶くんは立ち上がり、カバンを片手で持ち上げた。




「でも立花の言った通り、言った俺にも非がある。だから忘れてくれていいから」




そして空き缶をすぐそばのごみ箱に投げ入れ改札へ向って歩き出した。



ゆるい放物線を描いて空き缶はごみ箱へ吸い込まれてゆく。




カラン、という音が…なぜだか寂しそうに聞こえた。

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