第五十話 タイミング
夕方の最寄り駅は制服姿の学生でいっぱいだ。
この駅には高校や中学が密集していて特に多いらしい。
沙希と別れたあと、私は改札へ入らず駅のロータリーへ向かう。
どの線に乗るにもここを通らなければならないので一番混んでいる場所だ。
ベンチに座り、流れていく人に目を凝らす。
…ここ通るでしょ?
あれから2日。話をしようと思って連絡先を知らないことを思い出した。
沙希に言って彰くんに連絡取ってもらうことも出来るし、
水嶋恭介から聞くことだって出来る。
でもそれじゃあ誰だって疑問に思うだろうし…
聞かれたら理由言わなきゃいけないから…正直困る。
で、ここで待ち伏せることに決めたんだけど…
人多っ!ここで本当に見つけられるの私!?
でも前に偶然アイツに会ったし…無理ではないと思う…
ってあの3人一緒に居たらどうするの!?
…だめじゃん。
がっくり俯いてしまう。出直そう…
ゆっくり顔をあげて立ち上がった瞬間
自分の間の悪さに呆れてしまった。
「あれぇ?立花さんだ」
彰くん!?ってことは…!!
「杏じゃん。今帰り?」
すぐ隣に水嶋恭介の姿。
そして…
「…連れは?」
そしてもちろん慶くんの姿もあった。
私どんだけタイミング悪いのよっっ!!
「あ…沙希とは今別れたとこで…」
嘘ではない。ほんの10分前くらいのことだ。
なんだぁ、と残念がる彰くん。…さすがバカップル。
「帰るんだろ?」
と改札口を指差すアイツ…
これって一緒に行くって…こと!?
何だかすごく居心地が悪い気がする…
3人のうち2人に緊張している。彰くんだけが唯一の癒しだ…
「…みんな何線なの?」
「俺たちみんな東條線だよ。地元同じだもん」
あ、そうか。考えてみればそうだよね。
つまり慶くんと話すチャンスはないってことか…
そうこうしている内にすでに東條線の改札に着いてしまった。
「じゃあね立花さん。また5人でどっか行こうねっ!」
手を振ってにっこり笑う彰くんには何の嫌味も感じられない。
「…だね」
私も手を振って答える。
「んじゃあな、杏」
続いてアイツも改札へ入っていく。
「ん…また」
…せっかく会ったのにほとんど話してないな。
そして最後に慶くんも改札に…
「俺本屋寄って行くわ」
入らない!?
「そう?んじゃ明日」
よくあることなのかもしれない。彰くんとアイツは軽く返事をして階段を上って行ってしまった。
…つまり今二人ってこと?
そう考えるとさらに緊張が襲ってきてしまう。
…話すって決めてたのに、いざ2人になると何から話せば良いかわからない。
「ちょっと時間いいか?」
え!?
思いがけない慶くんの言葉。
パッと顔を見上げるとバッチリ目が合ってしまった。




