第四十六話 支離滅裂なコール
そういえば私からは初めてだっけ。
アイツのメモリーを表示しながらふと考える。
そもそも数えるほどしかしてないんだよね。
発信ボタンを押して数コール。
『はい』
ドキン…
「あ…えと…杏ですけど…」
明らかに緊張している声になってしまう…
『それはわかってるから』
番号出てるし。と続けて聞こえる笑い声。
…前だったら絶対ムカッときてたところだけど
「一応よ、一応っ…!」
ついつい出てしまう反論の言葉。
どうやらまだまだ素直への道は遠いみたいだ…
『何?どうかしたか?』
アイツのこんな一言で嬉しくなってしまう。
…やだなぁ。これじゃまるで恋する女の子みたいじゃないか。
私が何も答えずにいるとアイツは続けた。
『…杏。お前もしかしてまだ例のこと悩んでんのか?』
アイツの言う、例のこと=慶くんのことだ。
「あ…違うの。っていうかそのことで電話したから違わなくはないんだけど…」
うわ…支離滅裂なこと言ってないか私?
『うん、とにかく落ち着け。何言ってるかわからん』
笑いを含んだアイツの声がする。
「ちょっと待って。一旦深呼吸するから」
そう言って電話を耳から離したのに、それでも聞こえる笑い声。
相当大爆笑をしているらしい。
…うん。落ち着いてきた。
「って笑いすぎじゃない?」
『別に笑ってないけど…ぶっ』
…完璧笑ってんじゃん!!
『で、何だよ慶のことだろ?つーかお前風邪は?』
え…?
「何で知ってるの!?」
『沙希ちゃん発、彰経由』
あぁ。そういうことか。
「えっと風邪はもう大丈夫…デス」
『…まだ引いてるだろ。語尾がおかしい』
あぁ、もうっ!全然話が進まない〜!!
「あのね、私謝った。慶くんに」
「うんと、とりあえずそれを言おうと思って…」
「水嶋恭介があぁ言ってくれたから…踏ん切りついたっていうか…」
アイツが何も言わないから、一気に話してしまった。
『うん。いいんじゃない?』
言葉だけ見ると関心なさそうに感じてしまう。
でも何だかアイツは電話の向こうで笑顔で答えてくれた気がする。
これって自分に都合のいい考えなのかな。
『おい杏聞いてんのか?』
「え!?あ…何?」
そんなことを考えていたらアイツの話を全く聞いていなかったらしい。
『杏から連絡なんて珍しいじゃん。つーか何回か会ってるけど連絡自体久しぶりか?』
「…ん。そうだね。」
電話越しに聞こえるアイツの声がやけに心地いい…
「杏」と呼ばれることも今じゃ全然嫌じゃない。
『…杏。寝てんだろ?』
え!?あ…また聞いてなかった!?
『やっぱお前面白いわ』
電話の向こう側で多分また爆笑されている。
それでも頭に来ない私は…
やっぱり好きなんだと再び自覚させられてしった。




