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君がいるから  作者: 柚果
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第四十四話 何でだろうな

今日も天気は良好。



チラホラ雪は降っているけれど吹雪にはならないようだ。





『謝りたいって思うのは自己満足なのかな…?』


『それは杏の気持ちの問題だろ?


謝りたいって思えば謝ればいいとおれは思う』





あの後、私が聞いた疑問にアイツはこう答えてくれた。




確かにその通りなのかもしれない。




ああだこうだと考ていても結局は自己満足な答えしか導き出せないんだ。




アイツを好きだと自覚してしまった私だけど



何よりも前にやらなきゃいけないことがある。




 

「…慶くん」



名前を呼んだ私に気付いてゆっくり顔をこっちへ向けた。




「何?」



「…あのね…昨日、ここで聞いたことなんだけどね…」




ここ=リフト



今は昨日と同じように二人一組でリフトに乗っている。



この時に言おうと思ったのは二人になれるからだ。




「ごめんなさい。私無神経だった」



リフトに座っていてあまり身動きがとれない



それでも私は精一杯に頭を下げた。




少しの沈黙が続く。



慶くんが何の反応もしないので私も頭を下げたままだ。




「…何で謝んの?なんかしたっけ?」



慶くんは、私が彼女と離れた本当の原因を知らないと思っている。




「…違うの。あのあと聞いちゃったんだ。言い訳したくないけど偶然…」



慶くんの表情はいつもと変わらないように見えるけど 



…違う。




どこか悲しげに見える。




多分。これから私が言うことに気が付いてるんだろう。




私は押し殺したい言葉をやっとの想いで吐き出した。




「…彼女が事故で亡くなったってこと」





バサッ



木に積もった雪が重さで地面に落ちた音がやけに大きく聞こえる。



リフトに乗っているせいもあるけれど



やけに時間がゆっくり流れている感じだ。





「恭介にでも聞いた?」



思いがけずあっさりとした返事だったので驚いた。




「…うん」


「そう。まぁ、聞いたことは大体合ってると思うけど」


「…ん」


「それで立花が謝る義理ないだろ」



ううん、あるよ。絶対にある。



「…確かに私が謝りたいって思うのはただの自己満足かもしれない。


でも、例えそう思われても言わないよりはいいから」



アイツに言われてこう思えたんだ。




「何て聞いた?恭介に」



え…?



「元彼女の話。何て聞いた?」


「…え、言うの?」


「そう、今」



慶くんの心理が読み取れない。



でも冗談じゃないってことだけはわかる。



私は観念してアイツに聞いたことを話し始めた。




「…えっと。多分慶の初めての彼女だろうって…


で、知ってるのは2歳上ってだけで名前も顔も知らない。



…それで、慶はあんまり話さないからこれくらいしか知らないけど、慶にとっていい影響を与えてくれる人だ、って…。それは慶を見てるとわかる、って」




これを聞いて思った。




慶くんと亡くなった彼女さんはとてもいい関係だったんだろう、って。




「…私が聞いたのはこれくらいだよ」



アイツから聞いたことをなるべくアイツの言葉で伝えたつもだ。



「…ふぅん」



言葉にすると陳腐かもしれないけど



この話を聞いて、やっぱりこの3人には固い絆があるんだと思った。





「俺より2つ上で違う高校に通ってた」



え?



「やけにおれに突っかかってきて、最初は何だこいつ。とか思ったけどな。


周りの空気をすごい読めるヤツで、おれと同じ作家が好きだった」



これってもしかして…




私が不思議な表情をしてたからだと思う。




「元彼女の話」




…やっぱりそうだんだ。でも…




「何で私にそんな話してくれるの…?」


「間もなく到着です。リフトお降りの際には足元にご注意下さい」



まただ。



いつも大事なところでリフトが着いてしまう。




そんな私の考えをよそに慶くんは、ふっと笑いながら言った。




「さぁ…何でだろうな」





リフトの到着地点はもうすぐそこだ。


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