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君がいるから  作者: 柚果
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第四十三話 特権だから

多分、ここ以外に会う場所なんてないと思う。




ベランダ同士が向かい合っていて、どちらからも人が出てきた場合


こうやって出合ってしまうのは避けられない構造になっているようだ。





「やっぱ星が綺麗だよな、山は」



ベランダの手すりに両肘を乗せ空を見上げているアイツ。



「…そうだね」



確かに思ったとおり星は綺麗だ。



「明日も吹雪かなきゃいいんだけどな」



「…そうだね」



シンと静まった空間。



2つのロッジ以外に回りにはいくつかの建物がある。



でも誰も外になんか出ていなくて



外にいるのは私とアイツだけのような気になる。




「…お前さっきから"そうだね"ばっかだな」




そんなこと…あるな。




「…水嶋恭介は何してんの?星の観察?」


「別に。外の空気吸いに来ただけ。そっちこそ?」


「…私は部屋で沙希が聞きたくもない会話してるからかな」


「あぁ。あの二人か」



おそらくそっちの部屋でも二人のラブラブ感は伝わってるんだろう。



アイツはくっ、と笑いながら言った。




澄んだ夜空に澄んだ空気。



ぼぉっと空を眺めていると吸い込まれそうな感覚になる。




「おれの元カノ話してやろうか?」


「はぁ?」




澄んだ空気にはまるで似合わないまぬけな声を出す私。



一体何言い出すんだこの人は!?



何で私はこんなヤツ意識してるんだ!?




「って言っても数ヶ月の彼女だけどな」


「…いらないしそんな話」



今じゃなかったら聞いてたかもしれない。


でも今は聞きたくないよ。




「告られて付き合ったらフラれた」



だから聞きたくない…って、えぇ!?




「…あんたがフラれたの?」



驚きのあまり思わず聞き返してしまった。



「そう。思ってたのと違うって、さ」


「…そんな返品みたいに」


「返品ってヤメテヨ。何気に傷付くノヨ」



水嶋恭介はわざとらしい言葉遣いだ。




…やっぱりこの人わかんないかも。




「ってまぁマジな話。見た目先行で告ってきて、中身違うから返品します。みたいなもんだな」


「…えらく自虐的だね」



もう少し気の利いた言葉言えないのかな。私は。



「今までそういう奴嫌って言うほど見てるからな」


「じゃあ何でそのコとは付き合ったのよ?」


「え?や…意外とタイプだったもんで」



あは、と笑うアイツ。




…まぁそういうこともあるか。うん。私にはないけど。




「俺は多分すんごい一途だから」




今までのトーンと違う声。



「え…」



思わず見上げてしまった。




「気になるコがいて、そのコが悩んでたら話聞いてやりたいし


困ってたら助けてやりたいと思うし」



淡々と言葉を続けるアイツ。




私はというと、何か返そうとするのに言葉が出てこない。




「ってな感じでおれの話は終了!」



パン、と手を叩いた音ではっとする。



「寒っ!部屋戻ろうぜ」


「あ…っ」


「んぁ?」





誰かに相談したいって…本当は今日ずっと思ってたのかもしれない。




「一つ…一つ聞いていい?」




目が合う。ほんの数秒の出来事。





「…ごめん、やっぱりいい。水嶋恭介にとって何の得にもならないから…」




それは"気になるコ"の特権なんだよね…




私がそんなことを思っていると頭上から言葉が振ってきた。




「何?」




え…




「何?聞くけど?」





ふっと視線を上げて顔を見る。




そこには何の曇りもない優しい笑顔が向けられていた。





私やっぱり好きなんだ。





その笑顔を見てなぜか泣きそうになった。

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