第四十二話 自分勝手なため息
カレーは恵麻ちゃんが絶賛しただけあって大盛況だった。
…自分で言うのもナンですけど。
私は食べ終わると、洗い物を理由にそそくさとキッチンへ引っ込む。
…こうやって逃げてもしょうがないんだけどね。
「…どっちが正解なんだろ」
謝るか。話題にしないか。
「独り言デカイ」
ガシャとお皿が置かれたと同時に声。
私が今一番本能的に避けていた人の声だ。
…うわぁ何か喋んなきゃ
「あ…私洗うから…そのまま置いといて」
…こんな言葉しか出てこないよ〜!!
「悪いな。よろしく」
律儀にお礼を言うとサッとキッチンから出て行ってしまう。
「あっ…」
…ってこんなとこで話題にしない方がいいよね。
…気まずいのって私だけなのかな
はぁ
私が原因なのにため息が出てしまう。
…やだなぁ。すごい自分勝手だ。
「洗い物手伝おっか?」
「彰くん…!」
やば。ため息聞かれたかな!?
ってみんな何で急に現れるのっっ!?
「疲れたでしょ?スノボ」
「…うん。あちこち痛いカモ」
「あはは。でも初心者にしたら上達早いよ」
「ありがと」
ため息は聞こえなかったみたいだな。安心。
「運動神経いいって得だよね。何でもこなせちゃうし」
にっこり笑うその顔にほっとする。
この人は確実に癒やし系だな。うん。
私が丁寧に手伝いの誘いを断ると、
「本当に?」と何度か確認したあとキッチンから出て行った。
せっかく言ってくれたのにごめんね。今は一人で洗いたい気分なんだ。
「杏、ベッド窓際でいい?」
ベッドが4つ並んだ本日の寝室に戻ると沙希がすでに寝転んでいた。
「いいよどこでも。恵麻ちゃんは?」
「お風呂。それより洗い物ありがと。朝は私するからね」
「当たり前っ。頼んだわよ」
RRRR
すると突然部屋の電話が鳴った。
「はい?」
電話に近い場所にいた沙希が出る。一体誰だ?
「あ、彰くん!え、明日?え〜とねぇ…」
どうやら相手は彰くんのようだ。
話の内容は明日の予定。そういえば時間とか決めてなかったもんね。
嫌でも耳に入ってくる二人の会話を聞いていると
明日の予定の確認は早々と終え、二人の世界突入モードだ。
…別に聞きたくないんだけどな。
私は厚手のコートを羽織りベランダへ出た。
寒いけどその方が星がよく見えるって聞いたことがある。
ガラリ、と静かに窓を開け外へ出た。
「お」
え?
「偶然。杏チャン」
…だから杏チャン…ってもういいや。
そこには白い息を吐きながらニッと笑うアイツがいた。




