第四十一話 ずるいよ
トントントントン。
トントントントン。
「…杏いつまで切ってるの?」
「…え?」
言われて手を止めれば、私の目の前にキャベツの千切りの山
…。
「ったく。なんかさっきからぼぉっとしてない?疲れた?」
「…ん。まぁ」
本日の夕食のメニューは、定番のカレー&サラダ。
ロッジがゲレンデに隣接している食堂より遠いため自炊だ。
彰くんのおばさんが冷蔵庫にたっぷりと食料を入れていてくれたので何でも出来そうだけど、やっぱり楽だから。という理由だ。
別々に作ると効率が悪いから夕食は男女一緒。
「それついでにあっち持ってくけど?」
突然の声に驚いて振り向くと、そこに水嶋恭介が立っていた。
片手にお茶が入ったコップを持っている。冷蔵庫に用があったんだろう。
「あ…じゃあお願い」
「了解」
…びっくりした。急に後ろから声掛けないで欲しい。
あの話を聞いてから今日はほとんど話してなかったから…
そんな私をよそにアイツはサラダボウルを神妙に眺めている。
…何?
「…確か6人分だよな?これ」
「いいのっ…!私が食べるから!!」
そんなことかいっっ!!
こっちはちょっと落ち込んでるっていうのに…!
「お前さ」
何!?
「あんま気にすんなよ。慶のこと」
「しゃあねぇ、俺も今日はベジタリアンだ」
サラダボウルをひょいっと持ってすぐにキッチンから見えなくなった。
…ずるい
ずるいよ。いつだってそういうとこは真面目なんだから…
…でもね
今の私はアンタのそんな言葉も心からは喜べない。
だって
『俺の浮気』
『死んだ人には二度と会えないんだから』
思い出したら自分の無神経さに腹が立つ。
何であんなことを聞いてしまったんだろう。
あれから運がいいのか悪いのか慶くんと話はしていない。
元からあまり話すタイプじゃないからかもしれないけど
避けられてるのかな…なんて思ったりする。
「これ味見しました?」
って何なのよ水嶋兄妹はっ!びっくりさせるなぁ!!
「…してないよ。ついでだから恵麻ちゃんどうぞ」
私は小皿にカレーを少し注いで恵麻ちゃんに渡した。
「何これ?おいしいんだけど!?」
リアクションが正解じゃない気がするけど…まぁいいか。
「ありがと。じゃあお皿に注ぐね」
今日の最初に
「扱いづらい」なんて失礼な発言をしたけれど
今は隣りにいて緊張しないうちの1人だな。
カレーを注ぎつつそんなことを思った。




