第三十九話 消えない存在
スキーは小学生の頃したことがある。
と言っても感覚なんてほとんど覚えてないけど。
だからリフトにも当然乗ったことがある。
…うん。顔が痛いよね。
「人によるんじゃない?」
私が初めてだと言うことを告げ、どうにかなるよね?って聞いたあとの反応。
…やっぱり?
6人全員がリフト前に集合した時のことだ。
「じゃあ先に行くね♪」
当たり前のように二人で乗る沙希と彰くん。
「じゃあ私は恭介とっ」
ブラコン全開の恵麻ちゃん…。
で、必然的に今私の隣にいるのは慶くんだ。
相変わらず素っ気ない感じだ。
「…うぅ。運動神経は良いほうだと思うんだけど…難しい?」
「まぁな…でもやってみなきゃわかんないだろ」
「だよね。なんか私出来そうな気がする」
「…どんだけポジティブなんだよ」
素っ気ないけどちゃんと返してくれる。
慶くんの雰囲気は何だか落ち着くな。私。
「ね、何回か着たことあるんでしょ?ここ」
「あぁ」
「キレイだよね。白銀の世界って」
「端っこはねずみ色だけどな」
…うん。まぁ。確かにね。
「慶くんってツッコミ体質だよね…」
「…何だそれ。言われたことねぇぞ」
あ、笑った。レアだ、レア映像。
「…お前って不思議だよな」
うん?
「似てるよな。アイツに…」
そう言った慶くんの横顔は…
私が今までに見たどの笑顔よりも、優しい笑顔だった。
「ね…?前にも言ってたけど…誰のこと…?」
そう聞いた途端、慶くんの顔はいつもの表情に戻ってしまった。
…聞かないほうが良かったかな?
ごめん。と言いかけたけれど
慶くんがそれを遮るように言った。
「元彼女」
え?
「中学の時に付き合ってた元彼女」
「そう…なんだ」
意外。彼女いたんだ。
それにこんなこと話してくれるなんて思わなかった。
「悪いな。"元カノ"に似てるなんか言って」
「ううん、別に?それって見た目がってこと?」
この際だから突っ込んで聞いちゃおう。もうすぐリフトも終わっちゃうし。
「…いや見た目は微妙。…なんとなく雰囲気だな。それも時々ってだけ」
「ふぅん…」
…ふと思った。
さっきのあの優しい笑顔。あれってまだ好きだってことじゃないのかな。
「何で別れっちゃったの?」
遠くを見ている慶くんの目が一瞬伏せられた気がした。
これは聞くべきじゃない。
空気がそう言っているような気がした。
「間もなく到着です。リフトお降りの際には足元にご注意下さい」
あと数m。もうすぐ降りなければいけない。
私は次の言葉が見つからなかった。
あと数cm。もうつま先が触れる時
「おれの浮気」
「へっ…?」
いきなりの言葉に気の抜けた返事をしてしまった。
「別れた原因」
慶くんはそう言ってリフトからすばやく降りると
手前で待つ彰くんの方へ歩いて行ってしまった。
…浮気?…本当に?
私は何とかリフトから降りると驚きのあまり少しの間動けなかった。




