第二十八話 偶然の一致
昨日は疲れた。
あのあといつもの5人+恵麻ちゃんの6人が集合。
言うまでもなく沙希と彰くんに怒涛の質問攻め。
彰くんは慣れていたようだし、沙希は何でも答える。
そして恵麻ちゃんは塾の為タイムアップ。ご帰宅した。
嵐が去ったかと思えば、今度は沙希がナンパ男Aの話を持ち出して
「一人で歩かせないでよ。危ないのわかるでしょ?」
と、水嶋恭介に突っかかっていく始末。
それに私が止めに入り、彰くんがなだめる。
慶くんは関心なさそうな顔で一部始終を見てるだけ。
たまにツッコむのは忘れずに。
ほら。もう自分で言っててもわけわかんないし。
…ま。思いの他楽しめたからよしとしようかな。
話は変わって私は今本屋にいる。
地元に大きな本屋がないので、学校がある駅だ。
定期あるから電車賃掛からないしね!
私は好きな作家の新作を手に取った。
この作家が好きになったのは死んだ姉の影響が大きい。
…今回はこういう作品かぁ。
あらすじを読んだ私の隣から手が伸びて来た。
するとその手は私と同じ本を手に取った。
この作家好きなのかな?
私は一歩横へずれながら、その手の主の顔を見ようと目線を上にあげた。
だって同じ作家好きな人がどういう人か気になるし。
「えっ?」
私の声に気付いたのかその人はこちらを向いた。
「…あ」
驚くのも無理はない。
その人、とは昨日会ったばかりの灘波慶くんだった。
「…確か昨日も会ったよな」
…だね。
すごい偶然だな。
でも学校が同じ駅だからあり得なくもないか…
「…それ」
え?
「その作家…読むのか?」
「あ、これ?うん好きだよ」
慶くんは少し目を見開いている。
何?そんな驚くこと?
「…ふぅん」
「慶くんもでしょ?新刊手に取るくらいだもんね」
「…あぁ」
…何だろう。表情がいつもと違う…?
「慶くん?」
「…お前見てると思い出すわ」
…え?何を?
「嬉しいような嬉しくないような…ってとこかな」
あ、笑った。見るのは2回目だ…
「…それって誉めてるの?けなしてるの?」
さぁね。と言って慶くんはレジへと向って行った。
もちろんあの本を買うために。
…さっきのってつまり私が何かに似てるってことだよね?
人?物?
「じゃあな」
レジを済ませると私に向って一言声を掛けて消えて行った。
うん、じゃあね。と言った私の返事は聞こえたんだろうか。
…何か不思議な人だな。慶くんって。




