512 名 優 4
「…………」
お~、悩んでる悩んでる……。ナヤンデルタール人かな?
お供の手代ふたりも、私から受け取った封書を手に、困惑している。
ま、ここで自分達が口を挟めるような状況じゃないよね。
「……いや、取引の承諾についての文書を……」
あ、まだ頑張るつもりか。
「それについては、お渡しした封書の中に書いてありますわよ」
「いえ、はっきりと私に回答し、書面で戴きたく……」
「商会主である私が雇われ人に過ぎないあなたと書面を交わして、何の意味が?
そんなもの、国王が敵国の城の門番と和平交渉の書面を交わすみたいなものでしょう? 何の意味もありませんわよ。ホ~ッホッホ!」
ちょっと、高飛車お嬢様風にキャラを変えてみた。
この方が、舐められにくくなるかと思って……。
ま、これで諦めてくれるだろう。
門前払いというわけではなく、ちゃんと封書を貰ったわけだから、一応の面目は立つだろうからね。
……伝書鳩扱いされて、番頭自身は交渉相手とはみなされなかったということを除けば、だけど。
そして、商会主が封書を開封するまでの間は、という、時間制限付きなのと……。
「受取人以外が開封すると文字が消えて白紙になるなど、そんなものがあるはずがない!」
あ、そっちを突いてきたか。
まあ、確かにそんなものはないよねえ。
でも……。
「え? あなたの国にはないのですか、女神の祝福を受けし神紙が……」
「……え?」
何だよ、『神紙』って……。
いや、私が言ったのだけど。
でも、神の存在が信じられている世界だと、『神の御力である』と言えば、何だって通る。
もし否定すれば、神を信じぬ神敵だからね!
「そもそも、途中で他の者が開封したりしなければ、何の問題もないでしょう?」
「…………」
そうなのだ。これに文句を付けるということは、自分達が商会主に渡す前に開封して中身を確認するつもりだと言っているも同然なのだ。表立って反論することはできまい。ふはははは!
「では、しっかりと届けてくださいましね。
イーヴェンさん達! お客様がお帰りですよ、お見送りして!」
「「「「「「はい、お嬢様!!」」」」」」
私の声に応え、奥のドアと玄関入り口からゾロゾロと姿を現した、6人の男性達。
……勿論、お隣の警備兵のおじさん達だ。
今日も、私の護衛役を無料で買って出てくれているのだ。
日頃の餌付け……いやいや、近所付き合いで築いた友好関係が役に立つよね、こういう時には。
まあ、おじさん達も、詰所のお隣で他国の貴族家令嬢が危害を加えられたなんて既成事実を作られると責任問題になりそうだから、職務の一環でもあるのだろうな。
とにかく、まあ、うちには無料の警備員がいて、その存在を充分に見せつけたわけだ。
そして黙って帰らないとどうなるかは、おじさん達の表情を見れば察することができるよね?
……あ、実力行使で摘まみ出される前に、3人揃って慌てて出て行った。
よし、これでもう来ないだろう。少なくとも、いったん国元に帰って商会主の指示を仰ぐまでは。
そして、護衛の人からの封書、番頭からの中身が白紙の封書、なぜ白紙なのかが分かるお供の手代からの封書の順で読んだ商会主が、またあの3番番頭を遣いに寄越す確率は、ほぼゼロだよね。
まあ、もしあったとしても、微レ存(微粒子レベルで存在するかもしれない)という程度の確率だろう。
他の者を寄越すという確率は、もう少し高いだろうけどね。
多分、護衛の人からの封書を読んで、諦めるだろう。そして、その怒りの全てを、私にではなく、原因となった3番番頭に向けて叩き付けるはず。
これで、攻撃は私に指向されることはないだろう。うむうむ……。
番頭があんな態度を取らずに普通に話を持ち掛けてくれば、こちらも穏便に対応したのになあ……。
とにかく、何かあれば、またその時に考えて対処しよう。少なくとも、隣国との往復日数プラス数日間は、何事もなく……、って、ああっ、しまった!!
「きょ、今日もありがとうございました! お礼は、後程!!」
慌てて警備兵のおじさん達を送り出し、玄関に閉店札を掛けて、カギを掛けて……。
転移!!
* *
「ご苦労さま! 何とかいったん片付いたから、今回の常時待機は終了だよ! お疲れ様でした!」
即応待機用の部屋でカードをやっていた4人と、カードのメンバーから外れて読書をしていたふたりの、計6人……隊長さんを含む……に労いの言葉を掛けて、今回の依頼の終了を告げた。
いや、拘束条件がキツい……待機中の飲酒禁止、お手洗いの間は交代要員を充てる、いつ敵の前に転移されてもいいように常に臨戦態勢でいること、等……し、交代要員込みでかなりの人数が必要だから、結構お金が掛かるんだよ! 必要なくなれば、すぐに解除しないと……。
敵がそう危険じゃない他国の商人だと分かった時点で解除すべきだったよなぁ。
余計なお金が掛かっちゃったよ……。失敗した!!
「片付いたのか?」
「う~ん、片付いたかもしれないし、また来るかもしれない。似たような別件が生起するかもしんないしね。
とにかく、今回の件はいったん終了、としか……」
うん、また同じようなことをお願いすることになるかもしれない。先のことは分からないけどね。
「遠慮はするなよ。こちとら、仕事なんだ。ちゃんと報酬は頂いているし、昔の仕事に較べればかなり安全な仕事なんだ、気軽に依頼しろ」
「「「「「そうだそうだ!!」」」」」
「いい小遣い稼ぎだものな!」
「違ぇねえ!」
そう言って、豪快に笑うみんな。
……助かるなぁ。
「じゃ、支払いとか色々は、後でね!」
転移!
* *
転移先は、『雑貨屋ミツハ』の2階。
3階に転移すると、サビーネちゃんはともかく、第二王女や第二王子がいたら驚かせちゃうからね。
口に飲み物を含んでいたりすると、大惨事だ。王族が着ている服は高いだろうし、ゲーム機に吹きかけられても堪らない。
そして、3階へ上がり……。
「ねえぇ~さまあぁ~……」
「ぎゃあ!」
しまった! 怒れる大魔神のことを忘れてたあっ!!
「第二王女と第二王子は……」
「いないよ。姉様が企みそうなことは、全部お見通しだよ……」
あああ、読まれてるうぅ!
「どうして参謀役のはずの私が、お手洗いの時の交代要員でしか出番がないのよ! それも、役目が終われば何の説明もなく王宮に戻されて、そのまま放りっぱなし! 何? 馬鹿にしてるの?」
「そ、そういうわけじゃあ……」
「じゃあ、いったいどういうわけ?」
あああああああ〜〜!!




