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05 野望の王国

「……しろろい天井だ」

 いや、言い間違いじゃないよ。『白い』と『知らない』を掛けただけだからね。本当だよ。


『言葉は分かるか、小さき者よ』

 いやだから、言葉を掛けただけだって! それと、小さい言うな!


『言葉は分かるか、小さき者よ』

 あれ、これってイエスを押さないと永久に進めないという伝説のクソゲー…


『言葉は分かるか、小さき者よ』

「は、はいはい、分かります分かります!」

『はいは一度で良い、小さき者よ』

 うるさいわ! それと、小さい言うな!


 夢で突っ込んでも仕方がないが、あまりにも現実感があるし、あんな夢みたいなことが続いた後だ。一応、現実として進行させよう。夢なら夢で問題無いし、もし違ったら後が怖いからね。


「あの、私、山野光波って言います。ミツハ、って呼んで下さい。で、あなたは? 神様ですか?」

『ふむ、驚かないのだな、ミツハとやら。まぁ良い。実はそなたに言っておかねばならぬ事があり参上した次第である。それと、我は神とやらではない。我に名は無い』


 『それ』が語ったのは、簡単にまとめるとこんな話だった。

 『それ』は古くから存在する生命体であり、滅多に出会わないが他にも同様のものもいくつかは存在するらしい。そして『それ』は本人も知らないが恐らくは太古の昔にどこかの世界で発生し進化した生物がそのうち肉体を超え精神的というかエネルギー的というか、そのような生命体へと昇華したものと思われる。そして肉体も死の概念も無い『それ』には欲望も目的もなく、ただ存在するだけであった。


 しかし、『それ』はある時世界を渡るということを知り、自分が知らないことを知る、ということに興味を覚えた。

 興味! 知りたい、という欲望!

『それ』の意識が震えた。何か、自分が存在するということの…


「あ~、はいはい、そのへんはカットで」

『だからハイは一度で良いと…』


 とにかく、『それ』は様々な世界を渡り、観察し、楽しみという概念を覚えた。そしてある時ある世界でゆったりと漂っている時、突然激しい不快感に襲われ混乱した。それが肉体を持つ生物の言うところの『痛み』という感覚ではないかと知ったのはそのしばらく後のことであった。

 痛み! 混乱! なんだなんだこれは! 興味深い! 興味深い!!


 だが、そもそもなぜ肉体のない『それ』に痛みが?

 調べてみると、色々なことが分かってきた。どうやら何者かに自分の一部が『引き千切られた』らしい。『それ』の影響範囲内、普通の生物でいうと体内、に入り、強力な思念エネルギーによって『それ』の精神エネルギーの一部を毟り取ったらしい。その後その何者かは他の世界に渡ったらしいが、初めて味わう激痛というものにより混乱に陥っていた『それ』はその行き先を確認することが出来ず、完全に見失ってしまったままであった、と。

 そしてそのままその世界に留まり観察を続けていたところ、再び自分の一部らしきものの存在を感知し、再度の世界転移を追跡して今に至る、ということらしい。


「え、犯人って、私?」

『うむ。そのようである。しかし、別に咎めるつもりはない。偶然の事故であるようだし、特に困ることもない。痛み、という新たな知識を得られたと思えば感謝しても良いくらいである』

 良かった。どうやら問題ないらしい。


「じゃあ、言っておかなければならない事、って?」

『うむ、それである。実は、引き千切られた我の精神エネルギー体の一部は、強烈な意識体であるミツハの精神に融合してしまっておる』

「ええっ、それってマズいこと?」

『心配することはない。別にミツハの身体や精神に悪影響があるわけではない。ただ…』

「た、ただ?」

『世界を渡る能力が付加されたようである』

 えええええ~~~っ!

 って、そのせいかッッ!!


 結局、引き千切ったから世界を渡れるようになったというより、世界を渡る、つまりあの時『死にたくない』というミツハの強い想いを叶えるために『それ』の一部を巻き込んで転移した、ということらしい。そして転移先であるこの世界は、『それ』が地球の前に滞在していた世界らしい。

 で、その一部はもう完全にミツハと融合してしまい、無理に切り離そうとするとミツハがただでは済まないらしい。

 …このままでお願いします。


『我はただ、礼代わりに状況と世界渡りのことを教えようと思っただけである。もし他に何か聞きたいことか要望があれば言うがよい。取り込まれた我の一部にはまだ幾分の余裕があるのでな』

 要望、要望ねぇ……、あ、そうだ!

「あの、言葉の習得とか、できます?」

『おお、言語であるか。うむ、世界渡りには必要であるな。良い。会話する相手の言語知識を走査しそれを転写出来るようにしよう。あくまでも言語知識のみであり、その他の知識や考えを読み取ることはやめておこう。あまりにも大量の知識転写は容量不足でミツハの脳が心配であるし、何でも読み取っては楽しくなくなるものである』

 よ、容量少なくないわ! アホちゃうわ!!


 …でもまぁ、ごもっとも。高次生命さんのお勧めには素直に従っておこう。

「是非それでお願いします。あ、世界転移って、エネルギー消費とか、負担とか制限とかあります?」

『負担は、そうであるな、ミツハが普通に隣りの部屋へ移動するくらいの負担であろうか…。連続して数百回とか行えば、少し疲れて息切れがするかも知れぬ』

 あ~、確かに隣りの部屋と数百回往復すれば息切れくらいするか。

 て、その程度かい!


『他にはないか』

「う~ん、特に無いですねぇ…」

『欲のないことよ。では、まだ少し力に余裕があるようであるから、その分で少しだけ治癒の機能を付けてやろうか』

「治癒の機能?」

『うむ、ごく弱いものであるから、その場ですぐに回復、とはとても行かぬが、じわじわとだが確実に回復する、というものである。つまり、部位欠損とか痕が残りそうな傷も、時間はかかるがそのうち綺麗に治る、というものである。それ、その左腕の傷跡とか、そのままだと残りそうであろう?』

 おお、確かにそれは助かる。充分すごい能力だ!

「お願いします!」

『うむ。不自由な身体になっての長い生は面倒であろうからな。任せるがよい。なに、大した手間でもない』

「へへ~~っ!」

『何やら態度が変わったような気がするのである』


 その後、『それ』はチョチョイと何か操作してから去って行った。

『この星が数万回回った頃、様子を見に来るのである。それまで壮健に暮らすのである』

 『それ』の最後の言葉、後で考えてみたら、数万回って100年単位かい! もう生きとらんわ! って、回るってまさか自転じゃなくて公転、ってことはないよね。まぁ、どっちにしても生きとらんけど。


 『それ』との会話は『それ』が寝ているミツハの精神に直接干渉したものらしく、『それ』が去ったあとは自動的に睡眠状態に移行する。意識が薄れる寸前にミツハはようやく気付いた。

「あ、私、死ななかったんだ……」



 ……知ってる天井だ。

 知ってるベッドに、足下に覆い被さるようにして寝入っている、知ってる少女。う~ん、またコレットちゃんが両親に連絡、輸送、のパターンかな。いつも済まないねぇ。

 なんか、体中に包帯らしきものが巻いてある。お金使わせちゃったかな…。


 で、これからの事だ。

 どうやら、途上国の田舎の小村だと思っていたここは、何と異世界らしい。ここの様子からみて、文明は地球よりかなり下。で、私は自由に、かなり簡単にここと地球を行き来できるらしい。

 ………、勝ったあぁぁ!!


 どうやらもう、進学や就職に悩む必要は無さそうである。

 この世界にも、多分金や宝石、その他の地球で価値の高いものはあるだろう。そしてその反対、地球のものはこの世界でどれだけの価値があることか…。

 だがしかし、ミツハには良識があった。あまり無茶なことをすると、この世界の正常な進歩が阻害される。一足飛びに進んだものを持ち込んで普及させると、基礎となる部分が抜けて、いつか崩れ去る。変なものを持ち込んだら既存の経済システムが崩れたり、ある業種が壊滅して失業者や自殺者が出たりして恨みを買うこともある。

 それにミツハがいなくなった時に大混乱が起こるような『ミツハの存在を前提としたもの』は絶対ダメだ。それに、あまり目立つと狙われる、間違いなく。余程の後ろ盾が得られるまでは地道に行くべきだろう。まぁ、いざとなったら地球へ逃げ帰れば済むけれど、それはあくまでも最後の手段。


 ミツハは、ぶっ飛んでいるのは頭の中での思考過程だけで、外に出る言動は極めてまともで誠実な女性であった。だから男女ともに友人も多く、人には好かれる方である。友人の大半が進学、就職した今、浪人状態の今は少し疎遠状態ではあるが…。

 そんなミツハは、人に迷惑をかけずにお金を貯めることを決意する。

 よく友人にも意外に思われるが、ミツハは普通の場合とても慎重である。必要に駆られれば大胆に危険も冒すが、その必要がない時には非常に慎重である。もしかすると兄を見て育ったせいかも知れないが。


 で、ミツハは考えた。もしかすると転移能力はいつか突然なくなるかも知れない。その可能性は全くのゼロではない。ならば、その時に地球とここ、どちらの世界に居たとしても困らないよう、両方に拠点と一生生活に困らないだけのお金を早急に確保する! 地球の価値にして、それぞれ10億円。合計20億円分の財産。10億あれば、多少の経済変動があっても100歳までそこそこ不自由なく暮らせるだろう。メチャクチャな贅沢はできなくても、年収1000万で100年分。充分だ。あとは、あまり儲からなくてもいいから趣味程度でのんびり楽しく自宅で好きな仕事を細々とやればいい。小説書きとかハンクラでネット販売とか。


 ここが王国か帝国か共和国か知らないが、20億稼いで人生に勝利する!

 ふはは、ふははははははは!!


 山野光波の野望は、ここに始まった。


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[良い点] コレットちゃん [気になる点] 主人公不老または長寿なんじゃないかと思う 根拠の1つ目欠損部位が直るということは自分の記憶などから元の肉体情報を入手して修復、復元、再生している訳でその範囲…
[一言] 四万➗365でようやく100ちょいでした。そんなもんかw 自転で数万回ってこんなもんかw
[一言] アニメ見てる時、「何を」数万回回ったかについて少し議論がありましたw ・自転→百年単位でおk ・公転→数万年(oh!) ・銀河系周回→約2億年?(人類の科学力では、未だ正確な測定は不可能・・…
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