495 健康ランド 3
「……むぅ、これは……」
垢すりを普通に終え、マッサージが始まった途端、イリス様が唸り声を上げた。
うん、勿論この世界にもマッサージくらいあるけれど、ここで行われるものは、それらとは一線を画すものなのだ。
日本では、マッサージはリラクゼーションとは違って治療行為であるため、国家資格がないと違法になっちゃうんだよね。
だから、国家資格がなければマッサージとは名乗れないし、治療を意味する言葉……治療、治る、効く、診断、完治とか……は使っちゃ駄目らしい。
なのでリラクゼーションでは、改善、緩和、整える、リフレッシュ、癒しとかの、『医療行為じゃありません』、という表現しか許されないんだよね、法律的に。
……でも、ここでは、そんなの関係ない。
日本の本やネットで仕入れた情報により、マッサージ、按摩、整体、リラクゼーション、その他諸々の技を合体させ、ジョグレス進化させたのだ。
資格やら区分やら既得権益やらは関係ない、この国で……。
人類数千年の知恵と工夫、研鑽の結晶!
それを、私が本と動画で学び、皆に伝授したのである!!
……多分、私のせいで、かなり効果が落ちているだろうけどね。
仕方ないじゃん! 別に私は、その道のプロってわけじゃないんだから!
半分でも効果があれば、十分でしょ。
あ、マッサージは、かなりの力と体力が要るから、普通の女性とか小さな子供にはできない。
女性でも、足を怪我して引退した元傭兵だとか、力仕事をしていた人とかなら問題ないし、子供も、成人間近の男の子とかなら大丈夫だけどね。
ここでは成人年齢は15歳だけど、欧米系の人種な上、豊富に供給される魔物肉のおかげで、それくらいの年齢でも日本人から見れば立派な大人だからね。
なので、男性の方はいくらでも人材が確保できるけれど、『力のある女性』というのが不足して、王都で募集したところ、入れ食い状態で大変なことになっちゃったのも、今はいい思い出だ……。
そういう状況だから、良い人材を選べたし、みんな、やる気満々で真剣に技術の修得に努めてくれた。
そう。コイツらは、私が育てた!!
……いや、本当に!
「…………」
お、イリス様が目を瞑って、黙り込んだぞ。
多分、気持ちいいのだろうな……。
マッサージは若い者にも効果があるらしいけれど、イメージ的にはやはり、こういうのは歳を取った人が……。
「……ミツハ、何か失礼なことを考えていませんか?」
「イエイエ、滅相モゴザイマセン……」
イリス様、勘が良すぎイィ!!
* *
そして、再び人力ジェットバスもどきや打たせ湯、蒸し風呂とかを巡回し、その後館内着に着替えて、娯楽コーナーへ。
お食事処、ヘアサロン、休憩コーナー、ゲームコーナーとかがある場所だ。
お風呂の熱気や湿度を避けるため、通路で繋がった別の建物になっている。
あ、館内着なのは、貴族の服はゴテゴテとしていて着付けに手間が掛かるし、ひとりじゃ着られなかったりするからね、コルセットの締め付けとかで……。
それに、苦労して着付けをしても、後でまた入浴するとかもあるし、風呂上がりであんな服を着たら、汗だく大盛りになっちゃいそうだし……。
ここは、簡単に着られて汗をかいても問題なく、締め付けられないから食事処でたらふく食べられる、館内着一択だよねえ。
気に入ったら買って帰れるよう、館内着もお土産コーナーで売ってるよ、勿論。
……金儲けのタネは、見逃さないよ!
そして食事は、こんなところへ来てまで普段と同じものを食べるのはつまらないだろうし、ありふれた食べ物だと暴利を貪れ……、いやいや、価格設定をあまり市井のものと変えられない。
なのでここは、ヤマノ料理の出番である!
庶民向けのリーズナブルなもの……うどんとかそばとか、オムライスとか……から、金持ち向けのコース料理まで、複数のお店がある。軽食やスイーツも充実している。
この建物は貴族と平民も、そして男女も分けていないので、皆、自分の懐事情に合わせて、好きな店に入ればいい。
みんな館内着だから、貴族も平民も関係ない。
ここでは、懐のお金……実際には、首から下げた小袋に入っている代用貨幣の量……のみで、入れる店、注文できるものが決まるのだ。それ以外には、身分もなにも関係ない。
平民が見栄を張って豪勢な食事をしても良いし、貴族が一度食べてみたいと思っていた庶民料理を注文するも良し……。
あ、例の、『船乗りが長期航海中に食べる食事』というのを出す店もある。
地球で、宇宙食やら戦闘糧食が割と高めの価格でも売れ、そしてマズくても文句を言われることがないのと同じで、とても良い商売になるのだ。
腐りかけた塩漬けの豚肉や、塩味だけの豆スープを高値で出しても、問題ない。
いくらマズくても、『船乗りの皆さんは、大変なんだなぁ……』と感心していただけるというわけだ。
……いや、さすがに腐った肉やコクゾウ虫が湧いたカンパンとかは出さないけれど、安い食材で作れるから、利益率がとても良いのだ。わはは!!
「何を食べようかしらね……。あら、あの船乗り……」
「『船乗り体験食』以外で!」
イリス様の言葉に被せるように、強く主張した。
……うん、私は既に試食済みだからね、メニューの検討段階で……。
あれは、何度も食べるものじゃない。
あくまでも、体験する、というだけに留めるべきものだ。
それと、船乗りの大変さを知り、感謝するためのもの。
決して、美味しくいただけるものじゃない。
「え? でも、造船所と船乗りの養成学校がある我がボーゼス侯爵家の者として……」
「体・験・食・以外で!!」
「……わ、分かったわよ……」
私のあまりの押しの強さに、イリス様が少し引いているけれど……。
しかし、ここは譲れん! 譲れんのだ!!
もし譲れば、サビコレベアートリオも巻き添えを食う。
何でも美味しく食べられるコレットちゃんは大丈夫だろうけど、サビーネちゃんとベアトリスちゃんには、ちょっと厳しいかもしれないからねえ……。
そして、イリス様自身にも……。
なのでここは、ヤマノ料理、一択だ!
あ、ここは男女混合エリアだけど、別にボーゼス侯爵様達男性組と待ち合わせをしていたりはしない。
男性と女性じゃあ入浴時間の長さも違うし、娯楽施設の好みも違うだろうし、そもそもここはあまり大人数でゾロゾロと動き回るような場所じゃない。
なので、今日は男女別行動なのだだだ!!




