488 メイドの装備 2
ベアトリスちゃんからの託宣……女神からのお言葉である宣託の告知……が行われた。
神官も平民も、そして貴族達自身も、みんな戦闘メイド計画はちょっと無理があるんじゃないかと思っていたらしく、特に異論や文句が出ることなく、概ね納得された模様。
そしてベアトリスちゃんは、メイド達から命の恩人だと感謝され、人々からも慈愛の大聖女様として益々人気と信仰心を集めることとなった。
……もう、ベアトリスちゃんは何をしても、何を言っても人気が上がるのだ。確変突入状態みたいなものなんだよ……。
今のベアトリスちゃんなら、猫を悪党呼ばわりしても受け入れられそうなくらいなんだ。
いや、ホント!!
そういうわけで、普通のメイドに護衛任務を、という風潮は、何とか収まった。
何しろ、それは神意に反することだと明言されたわけだから、強要すれば即ち女神に刃向かう者、ってことになっちゃうのだ。
だから、神殿や民衆からの反感を買いたくなければ、貴族も大店の商会主も、メイドに無茶は言えなくなったというわけだ。
なので、その後販売を開始した『メイ道具』シリーズは、戦闘メイド用じゃなく、汎用メイド用の装備が主体となった。
特に売れたのは、アルシャちゃんイチオシのラジオペンチ、ロングノズルの着火用ライター、小型懐中電灯、とげ抜き、ピンセットとかだった。
……そして、必要があって使用する時以外は絶対にその存在を他者に教えないこと、という誓約書を雇い主とメイド本人に書かせた上で、非公式に、密かに防犯スプレーを販売した。
これは、販売というより『有償貸与』というべきものであって、ちゃんとお金を取るけれど、有効期間の目安である2年後には返却してもらい、次のをまた有償で、ってことにした。転売や紛失を防ぐためにね。
返却されなければ、高額の弁償金と、『二度と貸与されない』というペナルティが付く。
まあ、ヤマノ家を敵に回したいのでなきゃ、おかしな真似をする者はいないだろう。
ヤマノ家からの信用を失うということは、王家、ボーゼス侯爵家、その他私が懇意にしている全ての人達からの信用を失うということだものね。
勿論、貸与する相手は厳重な審査を通過した家だけだから、そういう事態になることは、滅多にないだろうけどね。
防犯スプレーの存在を秘密にするのは、悪党共の手に渡るのを防ぐという意味もあるけれど、武器というものは、その存在と性能が知られてしまえば効果が激減するからだ。
いくら秘密兵器があっても、その数と設置場所、性能等が全て敵に知られていれば、どうにでも対処される。防犯スプレーの場合だと、まず一番最初にメイドを倒すとか、使用される前にスプレーを奪うとかね。
だから、秘密兵器や必殺技は、使う時まで内緒にしておかなきゃならない。
そして、それを使った相手、見せた相手は確実に捕らえ、正確な情報が拡散するのをなるべく抑えるのだ。
うむうむ……。
「……私のせいで姫巫女様にお手数をお掛けして、申し訳ありません……」
「いやいや、何言ってんの! アルシャちゃんは、女神様が感心して褒美をくれる程の偉業を成し遂げたんだよ!
それを、自分が雇用しているメイド達に強要しようとした馬鹿な主人達が叱られただけであって、アルシャちゃんの功績が否定されるようなことじゃないよ!」
「……そ、そうでしょうか……」
「そうそう! 女神様と懇意であると言われているこの私が言うのだから、信じなさい!」
「は、はい!」
私やメイド仲間に対して申し訳なさそうだったアルシャちゃんを、励ましておいた。
いや、嘘は一切吐いていない。
女神様と懇意であると言われている、であって、懇意だと言っているわけじゃないからね。
事実、市井ではそういう噂が流れているから、『言われている』というのは、客観的事実なのだ。ふはははは!
これで、長かったこの件も、ようやく一段落か……。
ティーテリーザちゃんとラステナちゃんの暴走から始まった、アルシャちゃんの負傷、孤児達の救済大作戦……。
いや、最初の引き金は、ふたりの焦りの原因となった、『ソロリティ』メンバー全員の功名心か……。
でも、ギラギラした名誉欲も何もかも、孤児達と共に頑張るうちに、そんなものはいつの間にか吹き飛んでしまい、全てが終わった後に残ったのは、悟りを開いたかのような穏やかな微笑みを浮かべた素敵な少女達だったよ。
……で、どうなったかというと……。
「ええっ! ネフィル様にも、婚約の申し込みが殺到しておりますの?」
「はい……。レラティス様、フィリナ様、マイリーゼ様達と同様に……。
ネシュリ様もでしょう?」
「え、ええ、まあ……」
「聞いておりますわよ。ネシュリ様、ロルトマイム侯爵家のベリーク様からのお申し込みが来たというお話……」
「ええっ! 誰からお聞きになりましたの! 駄目です、大きな声で言っては!!」
「あ~、ネシュリ様、以前言われておりましたわよね、意中の殿方暴露大会、『私のものだ、手を出すな!』の時に……。
夢が叶って、おめでとうございます!」
「え……、ええ、ありがとうございます……」
「ケッ!」
「「「ケッ!」」」
「「「「「「ケッ!!」」」」」」
余裕がある者は、祝福を。
そうでない者は、腹立ち混じりのやっかみを。
まあ、そんな感じで、多くの者がモテ始めているのだ。
……私を除いて……。
いや、別にやっかんでるわけじゃないよ!
最初から、私の弾避け要員を養成するために作った組織なんだよ、『ソロリティ』は!
嘘じゃないよ!!
……そう、計画通り、というヤツだ……。
* *
「ミツハ、何か、私への婚約申し込みが激増したらしいんだけど!!」
その後、ベアトリスちゃんが『雑貨屋ミツハ』に怒鳴り込んできた。
「ああっ、しまった! そう来たか!!」
ベアトリスちゃんは『ソロリティ』の3枚看板のひとりだから、『ソロリティ』の名が上がれば、当然ベアトリスちゃんの株も上がる。
そこに、『お付きメイドの救世主』の称号追加だ。
……そりゃ、人気が上がるに決まってるよね……。
「でも、既にベアトリスちゃんの株は連日ストップ高のはずだよね。今更多少の功績追加があっても、もうそんなに変わらないんじゃあ……。
沸騰している100度の熱湯は、いくら加熱しても、もうそれ以上には温度が上がらない、みたいな感じで……」
「姉様、物事には、閾値というか境界値というか、そういう『そこを超えると意味や条件、判定などが大きく変わる境界線』というものがあるんだよ。
だから、今までギリギリ踏み止まっていた層が、限界を超えて一挙に申し込み始めたんじゃないかな……。
他国からの申し込みも、堰を切ったかのように雪崩れ込み始めたんじゃない?」
「「え……」」
ストップ高、とかいう言葉は分からないはずなのに、話の流れから何となくニュアンスを理解したらしきサビーネちゃんから、そんな説明が……。
『ソロリティ』のメンバーを私への婚約攻勢に対する弾避けにするつもりが、ベアトリスちゃんを最大の弾避けにしちゃったという感じ?
……イカン、侯爵様とイリス様に、怒られる……。




