486 大聖女 2
今回、こっちの世界で録音した曲を地球で編曲、演奏してもらうのには、とある国を頼った。
……いや、音楽関係の伝手はないし、オーケストラなんか素人が飛び込みで依頼しても相手にしてくれそうにないもの……。
なので、異世界懇談会のメンバーである小国にお願いしたのだ。
採譜から編曲、オーケストラによる演奏、録音と、完璧な仕事をしてくれたよ!
勿論、お礼に草花や土をあげた。虫や細菌等は転移の時に完全除去したやつね。
念の為、大発見があれば利益を私にも還元することと、成果の独占は禁止、という条件は付けておいた。
ヘリは、今回もゲゲゲ姫の時にお願いした傭兵団に頼んだ。
今回は戦闘じゃないし、タイミングが重要な仕事だから、初対面のチームよりは少しでも気心が知れているメンバーの方がいいかと思ったのだ。
……それに、そもそもヘリを持っている傭兵団というのが、少ないらしいのだ……。
当たり前か。
維持整備にお金がかかり、操縦できる者が限られ、稼働率が低い。
そんなモノを持っているのは、普通は大きなトコだけだ。財閥系が絡んでいるとか、軍と繋がりがあるとかの……。
だから、ウルフファングの知り合いで信用できる、ヘリを持っていてあまり大手じゃないところ、なんて条件に合致するところなんか、他にはないのだとか……。
あまり同じところにばかり声を掛けると、色々と揉めそうで良くないらしいのだけど、ヘリが必要な場合には選択の余地がないんだよねぇ……。
そこはもう、頑張ってヘリを維持していたことに対する御褒美というか、運良く当たりくじを引いたとして、他の傭兵団には諦めてもらうしかないよね。
ま、そういうわけで、今回は『天の浮舟』、女神の眷属の乗り物としてヘリにご登場いただいたわけだ。
……今現在、この世界でヘリを見たことがあるのは、ゲゲゲ姫の国の王都民の一部と、潰走した帝国軍の兵士達だけだ。
でも、帝国兵は暗闇の中を逃げ惑うばかりで、夜空に浮かぶヘリの姿をきちんと視認できた者は少ないだろうし、そもそも神兵の乗り物だと思われているのだから、それが今、女神の配下として現れることには、何の問題もないわけだ。
* *
ヘリが帰投し……少し離れてから、私が転移で連れ帰った……、その後予定通り、仕込みの者達による『ベアトリスちゃんに手出しした場合の、女神と自分達の行動』に関するありがたいお話があり、一部の者達の肝を冷やしてあげた。
そしてその後は、決められた通りに粛々と儀式が進み、無事、この国ゼグレイウス王国に大聖女様が誕生したのであった……。
よしよし、これで周辺諸国に対するこの国の影響力が強まり、ボーゼス侯爵家の力も強まり、ベアトリスちゃんが加入している『ソロリティ』の権威も高まり、……そして私の権力基盤も強まる。
大司教様からの『巫女に登録してください! 名前を貸してくださるだけでいいですから!!』という懇願も、すでにしばらく前から攻撃の矛先が私からベアトリスちゃんに移っているから、これで私は完全に逃げ切れたな。
そして、サビーネちゃんのお兄さんや弟のルーヘン君以外の王族とか、上級貴族とかからの婚約攻勢も、王女3姉妹やベアトリスちゃん、そして『ソロリティ』のメンバー達に向かい、私への攻撃はその数が激減するはずだ。
……うむ。うむうむうむうむ!!
勿論、ベアトリスちゃんはいくら婚約の話が殺到しても、ボーゼス侯爵とイリス様、そして本人が全て断るし、神殿勢力が全力で婚約を阻止しようとするだろうから、安心だ。
ふは。ふはははははは!!
「……そううまく行くかなぁ……」
あ、スピーチを終えたサビーネちゃんが、戻ってきた。
「大丈夫! 全て、計画通り……」
そして私は、新世界の神のような、邪悪な笑みを浮かべるのであった……。
* *
メイドさん達に、地球の防犯グッズの一部を販売することにした。
その理由は……。
泣き付かれたのだ。
アルシャちゃん以外の、他家のお付きメイドさん達に……。
当然のことながら、二度に亘るアルシャちゃんの大活躍が、貴族界で大評判になった。
我が家は下級メイドが命を懸けて護ってくれる程、使用人達に慕われている。
そして、そのメイドが女神から御神器を賜った。
それはとんでもなく強力な宣伝材料であり、貴族界のみならず、平民達に対しても大きなアピールとなり、好感を抱かせることができる。
なので、アルシャちゃんの雇い主であるヴィボルト侯爵夫妻は、あちこちのパーティーでその話を広めまくったとか……。
その結果、どうなったかというと……。
そう。各貴族家において、お付きメイド達が当主夫妻からのねっとりとした視線を浴びせられることになったわけだ。『お前達も、私達を命懸けで護ってくれるんだよな?』という、視線を……。
既に、前回、つまりアルシャちゃんの1回目の活躍の後、私達『ソロリティ』が贈ったタクティカルベルトと装着用ポーチ、そしてその中に入れられた地球産の各種便利道具や護身用装備。
……いや、アルシャちゃんにベルトとポーチを贈った主目的は、筋電義手のバッテリーを装備できるように、ってことだったのだけど、そりゃ、また何かあった場合に備えて、色々とオマケを付けたよ。当たり前じゃん。
そしてそれを見て、そのカッコ良さと便利さに感心して、自分のお付きメイドに同じようなものを着けさせるようになったメンバーが、何人かいた。
勿論、ポーチの中に入れてあるものは、この国で作られたものだけどね。
あ、アルシャちゃんお勧めの日本産ラジオペンチは、みんなにもあげた。
でも、今回は『ソロリティ』のメンバーではない他の令嬢達も、自分のお付きメイドに同じようなものを装備させるようになったのだ。
そしてベルトやポーチは似たようなものを作れるけれど、その中に収められているものは、勿論、この国で作られているもの。
ナイフ、暗器、毒の粉、劇物入りの小瓶、呼子笛、その他諸々……。
……勿論、『これを持たせれば、命懸けで護ってくれるよね?』という、強い圧力と共に……。
そりゃ、泣き付くわ!
下級使用人は、別に命懸けで雇い主一家を護りたくて働いているわけじゃない。
生活費を稼ぐため。実家の両親と兄弟姉妹に仕送りするため。
その他諸々の、自分達の生活のために、働いているのだ。
なのに、特別な訓練を受けたわけでもない普通の少女が、貧弱な装備で、命懸けで戦えとか言われれば、……そりゃ、泣くよねえ……。
なので、私に縋ってきたわけだ。『姫巫女様があのメイドにお与えになっている装備があれば、何かあっても、もしかすると生き延びられるかも……』と。
そして勿論、『ソロリティ』のメンバーのお付きメイドも、状況はほぼ同じ……というか、アルシャちゃんが身近にいるため、更に厳しい立場のようだ。
さすがに、お仕えするお嬢様の面子を潰さないようにと、私に直接泣き付いてきたりはしないけどね。
……こりゃあ、無下にはできないよ……。
私にも、かなりの責任があるからねぇ、この件に関しては……。
そういうわけで、重さ、体積、効果、その他諸々を考慮して、『お付きメイド自衛用タクティカルベルトセット』を考案することにしたわけだ。勿論、アルシャちゃん用のものとはかなり違うものを……。
装備品の中には、劣化するから定期的に交換しなきゃならないものとか、あまり広めるのは良くないものとかもあるから、常に私が管理していられるアルシャちゃんの装備と、売りっぱなしになるであろうその他のメイドさん用のものとを同じにはできないんだよね。
防犯スプレーの有効期間は、一般的に約2年。中には3~4年とされているものもあるけれど、ガス圧の低下や化学成分の劣化等を考えれば、2年で交換した方がいいだろう。
せっかく装備していても、小金を惜しんだために肝心な時に役に立たなかったのでは意味がないからね。
防犯ブザーも、時々試験鳴動させた方がいいし、1年くらいで電池を交換すべきだし……。
スタンガンなんか、本体の寿命は合計スパーク時間が35~40分くらいだし、電池は使用していなくても2カ月に一度は交換しなきゃならないし……。
そんなの、あまり広めると管理が大変だよ。
テーザー銃……引き金を引くと圧縮ガスで電極とワイヤーが発射され、離れた対象に電撃を与える銃……とかは、アルシャちゃんにも与えられない。
そんなの与えると、アルシャちゃんが神兵扱いされちゃうし、何より、調子に乗ったアルシャちゃんが毎夜悪党狩りに出掛けそうで、怖い……。
日本では銃刀法に抵触するため、所持・販売が禁止されているんだよ、テーザー銃。
それくらい、普通のスタンガンより凶悪だってことだ。
……まあ、ウルフファングに頼めば、入手できるんだけどね……。
そして、維持整備もだけど、大きな問題として、それらが流出して他の用途に使われる、という可能性を看過するわけにはいかないんだよね……。
悪党が、駆け付けた警備兵に防犯スプレーを使ったりすれば、大事だ。
要人の襲撃とかにも使えそうだし……。
どうしても、防犯グッズには攻撃性を持つものが多いから、色々と難しいんだよねぇ。
地球の法律に縛られることはないのだけれど……。
うむむ、どうしよう……。
来週で、私が『小説家になろう』で執筆を始めてから、丁度10年になります。
『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』連載開始、2015年11月2日。
『ポーション頼みで生き延びます!』連載開始、2015年11月3日。
あれから、10年。
思えば、遠くへ来たもんだ……。(^^ゞ
ただの読み専だった私が、専業作家としてやって来られたのは、担当編集さん、イラストレーターさん、漫画家さん、その他大勢の出版関係者の皆様と、そして読者の皆様のおかげです。
ありがとうございます!
なお、連載開始10周年として、来週は1回お休みを戴き、のんびりと病院へ行ったり書籍化作業を行ったりする予定です。……〇| ̄|_
では、『12~13歳くらいに見えるちっぱい少女3部作』、引き続き、よろしくお願いいたします!(^^)/




