483 狼は狼を呼ぶ 16
ベアトリスちゃんやアデレートちゃん、その他『ソロリティ』のメンバー達の危機を後になって知らされ、私は激怒した。
……そう、『激おこぷんぷん丸』ってやつだ。
その時のメンバー……ベアトリスちゃん、アデレートちゃん、ティーテリーザちゃん、カトルナちゃん、アルシャちゃん、そしてみんなの危機を救ってくれたティノベルク侯爵家令嬢ミーシュアちゃんを呼び、説教した。
……ミーシュアちゃんとアルシャちゃん以外の4人に……。
アルシャちゃんは、使用人なのでみんなの行動に口出しすることはできないから、無罪。
ミーシュアちゃんは、みんなの行動に危うさを感じてフォローに回ってくれたから、同じく無罪……どころではなく、大殊勲だ。
勿論、アルシャちゃんも大殊勲。
有罪なのは、他の4人だ。
……特に駄目なのが、原因を作った張本人である、ベアトリスちゃん。
他の3人は、ベアトリスちゃんの突然の視察要求に、慌てて同行しただけだ。
ミーシュアちゃんとアルシャちゃんにちょっと横の方に離れてもらって、4人を責めまくり。
主に、ベアトリスちゃんに対して……。
みんなも、悪かったと自覚しているのか、反論することなく素直に叱られ、涙目になっていたけれど……。
これは、下手をすれば、……いや、下手をしなくても、みんなが攫われたり、怪我をしたり、……そして死んでいたかもしれない大きな危機だったのだ。
それも、冒す必要のなかった、無駄な危険行為のせいで……。
それが分かっているからか、普段なら私に強く出られたら色々と反撃してくるベアトリスちゃんが、神妙な顔をして素直に反省している様子。
勿論、ベアトリスちゃんを止めずに付き従ったアデレートちゃん、ティーテリーザちゃん、カトルナちゃんも……。
さすがにサビーネちゃんも、皆を叱りつける私を止めようとする様子はない。
……当たり前か。
サビーネちゃんも、みんなに怪我をされたり死なれたりするのは嫌だろうからね。
まあ、みんなもう既に自分達の失敗を十分理解していて、反省しているんだ。これ以上言わなくても、二度と同じような失敗はしないだろう。
……特に、自分だけではなく他のメンバーまで危険に巻き込むような真似は……。
叱るのは、この辺でいいか。
アレだ、アレ。
『今日のところは、この辺で勘弁しといたろか!』ってやつ……。
いや、本当は、アレは負けた方が悔し紛れに言う、負け惜しみなんだけどね……。
そして次に、ミーシュアちゃんとアルシャちゃんを褒めまくり。
いや、本当に、このふたりプラスミーシュアちゃんの護衛のふたりがいなければ、誰かが怪我したり、最悪の場合は誘拐されていたかもしれないのだ。
貴族の少女が、攫われて賊と一緒に数日間過ごす。
……そんなの、無事に助けられたとしても、貴族家令嬢としては、死んだも同然だ。
二度と社交界には出られないだろうし、もし婚約していたら、女性側有責での婚約破棄は間違いない。……多分、家を出て修道院へ入るくらいしか行き場がなくなるだろう。
毒を呷って自害しなかった場合は、だけどね……。
とにかく、本当に大ピンチだったわけだ。
私がいつも結構無茶をやっているように見えるのは、私は暗殺じゃなくて利用する方がメリットが大きいから、もし襲われても即死攻撃じゃなくて捕らえようとされるだろうことと、コンマ数秒あれば転移で逃げられるからだ。
それに、私はもし怪我をしても、時間はかかるけれど完全に治る。
だから、顔に傷が付こうが指が飛ぼうが、大した問題じゃない。即死さえしなければ……。
でも、それは私だけ、なんだ。みんなは、そうじゃない。
……そう、私以外の令嬢が無茶をやるのは、危険度が高すぎるのだ……。
その最大のピンチを救ってくれたふたりには、いくら感謝してもしきれない。
特に、アルシャちゃんは二度目だよ、二度目!!
また、ヴィボルト侯爵家では使用人を含めたパーティーかな……。
侯爵家でのアルシャちゃんの地位は、安泰だな。更なる厚遇、間違いなしだ。
* *
予想通り、あれからアルシャちゃんは、ヴィボルト侯爵家で英雄扱いだとか……。
そりゃそうか。二度も命を懸けてお嬢様を守り抜いたんだ。
侯爵家の者が危機に陥ったとき、自らの危険を顧みず、必ず助けてくれる使用人。
それを優遇しない貴族はいないだろう。
多分、報奨金も出たと思うよ。
……で、破損した、アルシャちゃんの義手だけど……。
あれ、僅か数日で直った。
修理のためメーカーに持ち込んで、破損時の状況を説明したのだけど……。
『雇い主の娘を護るため、斬り掛かってきた賊の剣を受けた。その後、賊は全員捕縛、当方被害なし』という、スーパー架空戦記のグラマン300機対スーパーゼロ戦30機の戦いの結果報告みたいな説明内容に、技術者や経営陣が感動して、滂沱の涙。
メイドが命を懸けてお嬢様を護ろうとしたことに涙し、自分達が作った義手がその役に立てたということに涙したとかで……。
そのため、他の仕事は保留して、最優先で修理してくれたらしいのだ。
何でも、新しいのを作って、この義手はこのまま会社に展示しようとかいう案も出されたらしいのだけど、『少女もこの義手も、そんなことは望んでいないだろう。どちらも、これからも共にお嬢様のために働き続けることを願っているに違いない!』という、社長の言葉で修理が決定したとか……。
アツいねぇ、漢だねぇ……。
そして、強度には影響のないキズはわざとそのまま残したり、汚し塗装をしたりと、色々と凝ったことを……。
ガンプラかッ!!
そして現在、『メイドの蛮用に耐えられる義手』ということで、チタン、カーボンナノチューブ、防刃性の高いパラ系アラミド繊維とかを使って、お金に糸目を付けない特殊な義手を作ろうとしているらしい……。
そんなの作って、採算取れるのかよ! そして、需要があるのかよっ!!
……いや、買うけどね。アルシャちゃん用に……。
クソッ!
パラ系アラミド繊維を使うなら、義手じゃなくて、防刃メイド服でも作れよっ!!
それと、義手に刃や銃を仕込んだりするんじゃないぞ。
……絶対に!!
* *
あれから日が経ち、子供達のための宿舎も概ね完成し、工場も稼働を始めた。
工場とは言っても、別に大型工作機械が並んでいるわけではなく、子供達が簡単な手持ちの工具で作業するためのテーブルと椅子がある程度だ。
……でも、この世界じゃ、それでも立派な工場なんだよ!
そして、今日の『ソロリティ』のお茶会には、欠席者はなくメンバー全員が集まっている。
その、みんなを前にして、私の演説を……。
「皆さん、今日まで、よく頑張ってくださいました。
あなた達が……、いえ、あなたが、何十人もの孤児達を救ったのです!
悪党に使い潰されたり、路地裏のドブに頭を突っ込んで死ぬ運命だった子供達の運命を、あなたがその手でねじ曲げ、未来を与えたのです。
……女神様は、きっとお喜びですよ!」
うむうむ、リップサービスで、みんなのやる気と達成感を……、って、あれ?
ここで、いつものように雄叫びが上がると思っていたのに、みんな無表情で、微動だにしないぞ……。
な、何事? 私、何かミスった?
……ん? みんなの目が……。
目が潤み、大粒の涙が、1滴、2滴、……次々と……。
そして、顔がくしゃりと歪み……。
「「「「「「あああああああああ〜〜っっ!!」」」」」」
……号泣。
お化粧が流れるのも構わずに泣きじゃくり、隣の子と抱き合い……。
おそらく、名を売りたいだとか、功績を上げたいだとかいう考えはとっくに吹き飛び、既になくなっていたのだろう。
今はただ、自らが為し得たことを、誇るでもなく、利用しようと考えるでもなく……。
自らが子供達を救ったこと、救えたことを喜び、女神に感謝するのみ……。
何事かと、血相を変えて飛んで来た護衛やお付きメイド、ライナー子爵家の使用人の皆さん、……そしてライナー子爵御夫妻。
最初は引き攣っていた皆さんの顔も、どうやら令嬢達の涙は襲われただとか恐怖だとかによるものではなく、喜びのあまり感極まって、ということらしいと察して、苦笑しながら戻っていった。
……うん、今はただ、好きなだけ泣かせてあげよう……。




