399 パーティーの開催 7
「72! 72です! お手元のカードに72の数字がありましたら、その部分を押して、数字を曲げてください!」
勿論、実際にはここの言葉での数字なので『ななじゅうに』ではないが、それに相当する言葉が、私の頭の中では自動的にアラビア数字に変換されている。
そして、透明のプラスチック製の箱から掴み出したピンポン玉を、数字の部分がお客さん達からよく見えるように頭上に掲げるサビーネちゃん。
「おお、あとふたつだ!」
「こっちは、あとひとつで揃うぞ!」
うむうむ、盛り上がってる盛り上がってる!
やはり、射倖心を煽るゲームは強いなぁ。その人気は、万国共通だよ!
ビンゴカードは、大人も子供も区別なく、全員に1枚ずつ配ってある。なので、今はアトラクションの大型遊具もテーブルゲームも、無人だ。ひとり残らず、ビンゴカードを手にして抽選箱を見詰めている。
今回、賞品は30個用意した。
ウイスキー1ダース入りの木箱、『雑貨屋ミツハ』では売っていない地球製の家具や日用品、ドレスの仕立て券……現物だと、サイズやら似合う・似合わないの問題があるから、仕立て券にした……、小粒の人造宝石……人造とはいっても、本物の宝石だ。小さいけれど、カット技術がこの世界とは桁違いなので、ここでの価値は高いはず。
その他、姫巫女様との30分間の会談権、ヤマノ料理のレシピをお抱え料理人にひとつ教えてもらえる権、『王様のアイディア』やハンズで売ってそうなもの、チョコやお菓子の詰め合わせ、亀の子タワシ、その他諸々。
『王様のアイディア』のやつは、ここでは『姫巫女様のアイディア』とかいう名で伝わるのだろうなぁ、多分……。
地球で買うのはそう高くないものばかりだけど、ここの人達にとっては、どれくらいの価値があるのやら……。
まぁ、こういうのは金額ではなく、『当たった!』という喜び、射倖心が満たされるというのが大事なんだよね。
そして、ここの人達にとっては何がどれくらいの価値なのかが分からないから、揉め事にならないように、1位はこれ、2位はこれ、というような決め方はせず、早い順に、好きなものを選んでもらう方式にした。
これなら、2位の方が1位よりいい賞品だ、とか、別のものが欲しかったのに、とかいうクレームが出る心配がなくなる。
……そして、絶対最後まで残るよなぁ、亀の子タワシ……。
勿論、最後に大勢が同時にビンゴになった場合に備えて、多めに用意してあるよ、亀の子タワシ。
というか、ちゃんとオマケも用意してあるよ、亀の子タワシになった人には。
さすがに、せっかく当たったのに残っている賞品が亀の子タワシだけじゃ、文句が出るだろう。
だから、これは笑いを取るための、ギャグネタだ。
亀の子タワシには、渡す時にG・SAKAIのナイフを付けてあげることにしている。
ガーバー、ラブレス、バック、ランドール等の海外の一流メーカーと張り合える、日本のナイフメーカーの作品だ。この世界じゃ、家宝になるんじゃなかろうか。
残り物には福がある、っていうのの実践と、もしもまだ他の賞品があるのに亀の子タワシを選んだ勇者がいた場合、その勇気に対する御褒美みたいなもんだ。
……勿論、勇者には当たった時ではなく、最後に渡すよ、オマケのG・SAKAIのナイフ。
でないと、最後に残ったタワシしか選択の余地がない30位と同着の人達に対するサプライズ効果がなくなっちゃうからね。
そしてオマケのナイフの中には、猫のマークが入った、『ニャイフ』シリーズとか、包丁とかも交ぜてある。
……あ。
新大陸で軍人君にあげたやつ、大丈夫かな? あれ、結構いいナイフなんだよね。一度、上官に取り上げられそうになった、って言ってたし。
その時は艦長が通りがかって難を逃れた、って言ってたし、その後は艦長が興味を示したから『このナイフは軍人くんのもの』と大勢に認知されて、誰も手出しできなくなったらしいけど。
でも、同じ艦の乗員以外の、悪い奴に狙われたりしないかな……。
後で艦長や戦隊司令、艦隊司令官達に売ったやつはそういう心配はないだろうけど、自慢して大勢に見せびらかしたりされると、俺にも売れ、って言い出す奴が増えそうな気がするなぁ。
私には直接連絡する手段がないだろうけど、軍人君が矢面に立つことに……。
って、それはまた後でゆっくり考えよう。
今は、パーティーを成功させることに集中しなきゃ……。
「はい、12! 今度は12です!!」
サビーネちゃんに代わり、今度はベアトリスちゃんがピンポン玉を掴み出して、大きく頭上に掲げている。
大聖女様が掴み出した数字だ。ありがたみが何倍にも!
これでビンゴになったりすれば、感動数千倍だよ!
……『感度3000倍』じゃないよ?
いや、何のことか分からないけど、最近ネットでよく目にするんだよね、『感度3000倍』って言葉……。
写真フィルムの露光感度のことかな?
とにかく、サビ・コレコンビとベアトリスちゃんによって次々と箱から掴み出され、頭上に掲げられる、番号が書かれたピンポン玉。
番号の聞き落としがないように、ちゃんと前方に用意されたボード2枚に貼り付けられた大きな紙……勿論、日本製……に全ての数字が書かれ、箱から出た数字は赤いマジックで印を付けている。虚偽申告がないよう、ビンゴになった人のカードは確認しなきゃならないしね。
そして……。
「当たった! 1列、揃ったよ!!」
「「「「「「おおおおおおお〜〜っ!」」」」」」
遂に、最初のビンゴが出た。
当たったのは、10歳くらいの男の子だ。
「おめでとうございます! あなたが、この大陸で史上初のビンゴ当選者です! 歴史に名が残りますよ!」
「やったあああああ〜〜っっ!!」
……勿論、そんなことはない。
いや、もしビンゴゲームがこの世界で流行ったら、後世に『世界初のビンゴゲーム当選者』としてこの子の名が歴史に残る確率が、微レ存(微粒子レベルで存在するかもしれない)……。
「では、こちらの賞品の中から、お好きなものをお選びください」
「じゃあ、姫巫女様との会……」
「宝石で!!」
男の子の父親らしき男性が、大慌てで後ろから男の子の口を塞ぎ、大きな声でそう叫んだ。
「……お、おぅ……」
多分、領地の運営が苦しいのだろう。
だから、賞品の中で一番高く売れるもの、換金性が良いものを選んだ、と……。
私との30分間の会談権も、人によっては価値があるかもしれない。
でも、こういう『権利モノ』は私が他人への譲渡を認めないだろうというのは容易に予想できるだろうし、当主である自分ならばともかく、幼い息子が姫巫女様と30分間お話ししても、ただ一緒に遊んで終わるだけだと考えたのだろう。
これも、もし財政的に余裕のある貴族であれば、息子が姫巫女様と懇意になるチャンスの方を選んだかもしれない。
……でも、それよりも目先の宝石を優先しなきゃならない状況なのだろうな。
自分で権利を勝ち取った息子の望みを踏みにじり、他の貴族達の前で恥を晒すことに耐えてでも……。
だけど、私は自分が開いたパーティーでそんなのは見たくないし、ビンゴゲームは父親が息子からの信頼と尊敬を失わせるためのものじゃない。
パーティーゲームは、みんなが笑顔で楽しまなきゃ駄目だ。
だから……。
「ハイ、あなたが選んでくれた、私との30分間の会談権のチケットと、副賞の宝石だよ!」
「「「「「「えええええええっ!!」」」」」」
うん、みんな驚いているけど、これはただのゲーム、余興であり、お遊びに過ぎない。
だから、主催者の好きにしていいだろう。
そして、子供達の夢は、壊しちゃいけない。……たとえ、どんなことがあっても、だ。
パチパチ……
パチパチパチパチパチ……
そして、会場中から拍手が巻き起こった。
……うん。何の不思議もありはしない。
ここは善良な貴族が多い素敵な国、ゼグレイウス王国なのだから……。
「さあ、賞品は、残り29個! 皆さん、勝利を目指して、頑張りましょう!」
「「「「「「おおおおおおお〜〜!!」」」」」」
賞品がひとつ減ったから、残りは28個じゃないのか、って?
いや、亀の子タワシは、予備があるからね!
11月9日(木)に、拙作『ポーション頼みで生き延びます!』のコミックスである、『ポーション頼みで生き延びます! 続』の2巻が刊行されました。
これは、九重ヒビキ先生によるコミックス『ポーション頼みで生き延びます!』1~9巻の続きであり、実質的には本編コミックスの11巻に相当するものです。
園心ふつう先生による、本編コミカライズの続き。
よろしくお願いいたします!(^^)/
そして、現在発売中である、小説版のイラストを担当していただいております、すきま先生によるスピンオフコミック『ポーション頼みで生き延びます! ハナノとロッテのふたり旅』1巻も、併せてよろしくお願いいたします!(^^)/