396 パーティーの開催 4
「「「……」」」
口をあんぐり、という様子のボーゼス家一同であるが……。
「料理の方は、どうなっておる?」
パーティーでは、料理が重要である。
それも、ヤマノ料理が有名であるため、ヤマノ子爵家のパーティーとあらば、皆が期待するはず。
そのため、ボーゼス侯爵がそれを気にするのは当然のことであった。
そして、近くのテーブルへと歩み寄り、並べられている料理を確認したのであるが……。
「……茶色い、な……」
そう。
普通は、料理は味と香り、食感だけでなく、見た目も重視される。
そのため、器は勿論、料理自体も色合いや盛り付けを考えて作られる。
しかし……。
……茶色かった。
ボーゼス侯爵の呟きの通り、料理が全般的に茶色く、見た目が地味であった……。
「……あら? これは……」
「ん? 何かあるのか、この料理に?」
何かに気付いた様子のイリス夫人に、侯爵が尋ねると……。
「ええ。なるほど、そういうわけですか……。
貴族にとり、パーティーは仕事の場。確かにそう教えはしましたが……。
やり過ぎですよ、ミツハ……」
「え? どういうことだ? この地味であまり美味しそうにない料理に、何か意味があるのか?
予算を抑えすぎたミツハの、大ポカではないのか?」
「……何か、それぞれに説明書きが付いているわね。どれどれ……」
それぞれの料理の皿の後ろには、食材の名、使われている主な調味料、そして簡単な調理法が書かれた、小さな説明板が立てられていた。
そして、それを読み、それぞれの料理を少しずつ試食してみるボーゼス夫妻。
次男のテオドールは、地味な料理はパスして、隣のテーブルにあるお菓子コーナーへと向かった。
そこには、水あめ、ガレット、クレープ、ケーキその他様々な種類の、この世界で、いや、ヤマノ子爵領で採れるものをメインとして作られたお菓子が並べられていた。
中心となる素材はこの世界のものであっても、調理法は現代地球の知恵と技術と歴史によって生まれ、磨かれ、育まれてきたものである。
様々な料理が考えられ、そして淘汰され、その中で生き残った、選ばれしお菓子達。
そして、この世界では高価な砂糖や香料、甘味料等は地球から持ち込んだため、惜しむことなく豪快に使ってある。
「甘い……。美味しい……」
テオドールより先にお菓子のテーブルに群がっていた子供達や御婦人方も、うっとりとした顔で味わっている者、貴族にあるまじき態度でガツガツと貪り食う者と、様々である。
お菓子のテーブルはここだけではなく、会場のあちこちにあり、そしてそれぞれ異なるお菓子が並べられている。少しずつ味見をするだけでも、とても全てを食べることはできそうになかった。
料理が足りないわけではない。料理の種類は多いし、中身が減った皿にはすぐに補充されるか、次の皿と交換されている。
なのでそれは、胃袋の容量と、コルセットの締め付けと、お腹がぽっこりと出たり太ったりすることへの恐怖心のためである。
幼い子供達であれば、お腹の容量以外は気にしていないようであるが、さすがに12~13歳くらいになった少女は、妙齢の御婦人方と同じく、色々と気になっているようであった。
別に珍しくもないクッキーひとつを取っても、素材の質や配合比率、惜しみなく投入された砂糖や香料、そして一定の温度で焼かれ、口の中で味わえるサクサクとした食感。
もはやそれは、『ヤマノクッキー』としてブランド化されてもおかしくないものであった。
勿論これは、ミツハが焼いたもの……ではない。
ミツハに知識と食材を与えられ、寝食を忘れて研究に励んだ、ヤマノ領のパン屋一家によるものである。
ミツハはただ料理本を読み聞かせたり食材を渡したりしただけなので、自分で焼けないことはないが、ここまでのものは作れない。
……そしてテオドールがふと気が付くと、別のお菓子テーブルで、第一王女殿下、第二王女殿下、第三王女殿下、そして第二王子殿下が、お菓子を貪り食っていた。
普通であれば、お近づきになりたい者達が群がり寄るはずなのであるが、あまりにも楽しそうな姉弟の様子に遠慮したのか、そのテーブルには何の邪心もない幼い子供達以外は近寄る様子がない。
貴族達も、一応は配慮とか子供達への心遣いとかいう概念を知っていたようである。
「……何となく、ミツハの魂胆が読めてきたぞ……」
そう呟くボーゼス侯爵であるが、イリス夫人はとっくに気付いていたらしく、驚いた様子もない。
「掛かった経費の、元は取る。ミツハが考えそうなことね。
自領の特産品の宣伝と、試食。それらを作るのに使った作物や加工品の紹介や、売り込み。
そして、あの怪しげな遊具の数々は……」
「うむ。子供達の心をガッチリと掴み、将来領主となる者達にヤマノ子爵家に対する好感と憧れを植え付けようとする、調略行為だろうな……」
「いえ、そこまで考えてはいないでしょう。ミツハですから……」
「あ、ああ、そうか。ミツハだからな……」
* *
よし、招待客は概ね揃ったな。
ボーゼス侯爵御一家も到着したし、王様御一家は、……とっくに各テーブルを回って料理を食べたり遊具を見たりしているし。
……普通、来客が揃った頃を見計らって登場するものじゃないの?
いや、まぁ、毒味役なしで温かい料理を食べられる機会なんか滅多にない、ってのは分かるよ?
でも……、いや、いいか。好きにしてよ、もう!
そして、その料理なんだけど……。
今回用意したのは、今まで私が担当したパーティの料理とは、全然違うのだ。
だから、お客さん達の期待を裏切ることになったかもしれないんだよね。見た目とかで……。
でも、食べてもらえば、分かるはず。
そして……。
色合いが地味に見える今日の料理の数々は、味の深みで皆さんを驚かせた模様。
それも当然だ。何しろ、料理には味噌や醤油を使ってるからね。
……ヤマノ領産の。
そう。地球から持ってきたのではなく、うちの領地で作ったやつだ。
ろくな知識もなく、裸一貫で異世界に飛ばされたなら味噌や醤油を造るのは大変だろうけど、ネットでいくらでも調べられる上、器材や麹とかを持ち込めるなら、そう難しいわけじゃない。
いや、そりゃ、伝統の技術や熟練者の知識や経験には到底敵わないよ?
でも、そんな、品評会で金賞を貰えるような凄いのを目指してるわけじゃないんだ。
とりあえずは、そういうのの7~8割の味が出せれば充分だよ。
そして、その後はここの人達の努力によって、上を目指してもらえばいいんだ。
なので、今回の料理は、食材の大半がヤマノ領産だ。
でないと、宣伝する意味がない。
地球産のものは、あまり派手に売るつもりはないんだ。宣伝したいのは、ヤマノ領で生産できるもの、なんだよ。
今日のパーティーは、ヤマノ子爵領の未来に繋げるためのものだ。
もし、私が明日、事故や襲撃で即死したとしても。
もし、ヤマノ子爵領が他の貴族の手に渡ったとしても。
領民達が飢えることなく、幸せに暮らしていけるように。
ヤマノ領産の特産物を作り、そしてそれが他領や他国に広まったとしても、『やはり、〇〇はヤマノ領産のものでなきゃな!』と言われるように、ブランド化しておくのだ。
そのためなら、ピエロ役だろうが客寄せパンダ役だろうが、何だってやってみせるよ!
それが私の、貴族の義務の果たし方だ!!




