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386 ベアトリス 3

 一通りの説明をした後、ベアトリスちゃんが要求したのは、『にほん』への訪問だった。

 ……まぁ、あれだけみんなから料理やスイーツの話を聞かされちゃねえ……。


 しかし、仲間には入れても、ベアトリスちゃんには大きな弱点がある。

 そう、ここ以外の、どこの言葉も喋れない、ってことだ。

 日本語も、英語も、新大陸の言葉も、何も喋れない。

 常に、私かサビーネちゃん、コレットちゃんに通訳してもらわなきゃならない。

 そして、アニメも漫画も小説も楽しめない。


 いや、ベアトリスちゃんは決して頭が悪いというわけじゃない。

 それどころか、大勢の貴族令嬢の中で、唯一『相手に合わせる』ということを覚える前の、幼女期のサビーネちゃんとまともに会話ができていた、才女なのだ。

 だから、時間を掛けて勉強すれば、ちゃんと覚えられるだろう。


 ……でもベアトリスちゃんは、天才小悪魔サビーネちゃんのような異才じゃないし、私と一緒に行動し、私の役に立つために殆ど眠らずに語学の勉強を続け、言葉を教えてもらっていた元捕虜の船員達に『お願いですから、寝てください、休んでくださいぃ!』って泣き付かれたという、ちょっと、いや、かなり異常なコレットちゃんとは違う。

 ……うん、元捕虜達から直訴が来たんだよ、私のところへ……。『頼むから、あの少女を休ませてくれ、寝させてくれ』って……。

 それで、雇用主権限で命令して、勉強の時間を制限したんだよ……。


 それに、ベアトリスちゃんも、毎日遊んでいるわけじゃない。

 将来は、王族か上級貴族、それもおそらくは爵位を継ぐであろう長子に嫁ぐ可能性があるベアトリスちゃんは、礼儀作法や社交術だけでなく、この国や周辺諸国の貴族の名前や家系、派閥構成、各領地の位置や特徴、財政状況や特産品、領主や跡取りの人柄、他国の言語、その他諸々を覚えなきゃならないのだ。


 貴族の正妻は、お飾りじゃない。

 夫の戦友であり、支援職なんだ。

 そういうのができないなら、国際的な活動や派閥間の交流が少ない男爵家とか準男爵家、騎士爵あたりの妻か、側妃や愛人で我慢するしかない。


 あ、ボーゼス侯爵様やイリス様は、ベアトリスちゃんは他家に嫁に出さない、って言われているし、私もそれに賛成してはいるよ?

 おそらくボーゼス侯爵様は、子爵あたりの爵位を手に入れて、それをベアトリスちゃんにあげて婿取りをさせて、とか考えているのだろう。

 小さな、財政が赤字の領地であっても、貴族は貴族だ。


 領地は代官に任せて、ベアトリスちゃん夫婦はボーゼス領で過ごし商会経営に専念、という手もあるし、王様にお願いして、ボーゼス領に隣接した領地を貰うという手もある。

 今の領主さんには、もっといい領地に国替えしてあげたり、お金を払ったりして……。

 国から預かっている領地を勝手に売買することはできないけれど、王様の命令ならば大丈夫だろう。前の領主さんや領民達に恨まれないよう、向こうに有利な、充分な交換条件で……。


 まあ、王様と、今、飛ぶ鳥を落とす勢いのボーゼス家と、雷の姫巫女からの頼みは断れないだろうけどね!

 でも、その3者に大きな恩を売って、以後色々と便宜を図ってもらえるんだ。国の端っこ、ド田舎の弱小貴族にとっては、飛び付きたくなる滅茶苦茶いい話なんじゃないかと思うんだよね。

 神殿勢力とかも、下手にベアトリスちゃんが他国の王族と結婚したりしてこの国から出て行くことに較べればずっとマシだから、後押ししてくれそうだし……。

 大司教様とかが、前の領主さんに『大聖女様に領地を譲るとは、何たる忠義、何たる敬虔なしもべであることか! 神はそなたの行いに感心されておりますぞ!!』とか言ってくれれば、くっコロ、……いやいや、イチコロだよね、多分。ベアトリスちゃんが真珠の涙を浮かべるまでもないな、ふはは!


 そして、ベアトリスちゃんにはボーゼス家の愛娘だというだけじゃなく、ベアトリス商会の商会主という立場と、正式なものじゃないけれど『大聖女』という肩書きと、私とサビーネちゃんというかなり強力なコネがある。それらを目当てに、三男や四男を送り込みたい貴族はたくさんいるはずだ。

 もう、り取り見取りだよねぇ……。うらやまけしからん!!


 でも、じゃあ王族や上位貴族に嫁入りするための勉強はしなくていいかというと、そういうわけにはいかないだろう。

 物事、先のことはどう転ぶか分からない。

 ならば、どういう場合でも乗り切れるよう、最大限の準備はしておくべきだ。

 だからベアトリスちゃんは、最高の教育を受け、最高の輝きを発することができるように磨き上げられているのだ。最上級の宝石のように……。


 ……で、まあ、結論を言うと、ベアトリスちゃんには時間がないのだ、日本語と英語と新大陸の言葉を学ぶだけの、時間が……。

 アレだ、アレ! 『私達には、時間がないの!!』ってヤツだ。

 乙女の時間は短いのだ……。


 ……で、まぁ、本人に確認したわけだ。

 それらの言語を学ぶのは諦めて、私達3人の通訳に頼るか。

 それとも、どれかひとつを選んで勉強するか、って。

 そうしたら……。


「にほんご! 私は、にほんごを勉強します!」

 キラキラとした瞳で、そう即答するベアトリスちゃん。

 ……どうやら、事前にサビーネちゃんからの仕込み(・・・)があったみたいだ。


 まぁ、日本語が分からないと、アニメや漫画を楽しめないからねぇ。

 そうすると、当然、サビーネちゃんの日本語でのギャグや駄洒落、蘊蓄話が理解できないし、気に入ったアニメや漫画の話もできない。

 なので、日本語、英語、新大陸語のどれかを選ぶなら日本語を選ばせようと考えたサビーネちゃんが暗躍するのは当たり前だ。

 多分、日本ヨイショの美味しい話を聞かせまくったのだろう。


 そして、とにかく日本に行きたい、というベアトリスちゃんに、今までのお詫びの意味も込めて、とりあえず日本へ連れて行ったのだ。

 私はあまり出しゃばらず、説明や通訳は全部サビーネちゃんに任せた。

 ふたりの関係や今までのことを考えたら、他の選択肢なんかないよね。

 勿論、サビーネちゃんは嬉しそうにベアトリスちゃんの案内役を務めてくれたよ。


 ベアトリスちゃんの初めての日本訪問は、お馴染みのデパートの食堂でのオムライスとスイーツ、遊園地、100均ショップ、洋服店、焼肉店(高いところ)、その他諸々。

 デパートの下着売り場では、固まっていた。

 まあ、サビーネちゃんとコレットちゃんも、初めて来た時には固まっていたからなぁ、下着売り場の前で。


 あの時は、サビーネちゃんでもフリーズすることがあるんだと、驚いたっけ……。

 そして、コレットちゃん。

 アンタはド田舎出身で、ヤマノ家(うち)に来るまではパンツ穿いてなかったじゃん!

 ……まぁ、日本の女性用下着は、ノーパンよりエロいからねぇ……。


 ま、今はポケットに入る自動翻訳機がある時代だ。日本語だけでもマスターすれば、あまり不自由はしないだろう。

 それに、ベアトリスちゃんだけが地球に置き去りに、というシチュエーションは、ちょっとありそうにない。

 うん、ベアトリスちゃんには、あまり無理をさせないように気を付けて、ゆっくりと日本語を勉強してもらうか……。


     *     *


 ……そんなふうに考えていた時期が、私にもありました。


 いや、何だよ、ベアトリスちゃんの、この日本語の上達の早さは!

 あ、サビーネちゃんに名作アニメのハイライトシーン集を見せられて、キャラが何を喋っているのかが知りたくて堪らず、毎日遅くまで勉強した、と?

 男性キャラ同士の掛け算? 学習アニメか何かかな?


 とにかく、ベアトリスちゃんが片言の日本語を喋れるようになるまでは、あっという間だったよ。

 ……私が中学・高校時代に苦しんだ、英語の授業。

 あれは一体、何だったのか……。

 くそっ、天才と秀才と努力家め……。



お知らせです!(^^)/

『のうきん』リブートコミックス第4巻、8月10日(木)、発売です。

よろしくお願いいたします!


そして、『ろうきん』一挙放送のお知らせです。

『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』全12話一挙放送

AT-Xにて、

放送日時:8月19日(土)25:00~30:00

……でも、別にBD-BOXを買って観てもいいんですよ?(^^ゞ


そして、来週、再来週の2週間、夏期休暇を取らせて戴きます。

この2週間の間に、書籍化作業と、新規に受けたお仕事を進めねば……。(^^ゞ


引き続き、よろしくお願いいたします!(^^)/

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― 新着の感想 ―
ベアトリスちゃん、腐化しちゃったのね(w
[気になる点] >日本では、明治以前は女性はパンツを穿かないのが普通でした。 >普及し始めたのは、昭和の初期になってから。 >白木屋火災(1932年)が後押ししたという説もありますが。(これには批判的…
[気になる点] >ベアトリスちゃんの初めての日本訪問は、(略) >デパートの下着売り場では、固まっていた。 >そして、コレットちゃん。 >アンタはド田舎出身で、ヤマノ家に来るまではパンツ穿いてなかっ…
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