378 樫の木 5
ふたりが何を言っているのか、そして何をしているのか分からず、ぽかんとしている先生とクラスメイト達。
見張り達は、異国のお嬢様が何やら儀式か演劇を始めたらしいと、苦笑しながら眺めている。
それが自分達にとり何の不都合もない限りは、子供達のお遊びくらい温かく見守ってやるつもりなのであろう。
泣き喚かれるよりは、よっぽどマシである。
そしてそれらを意にも介さず、サビ・コレコンビの手続きが進む。
サビーネの合図で、コレットがナレーションを始めた。
「王女サビーネがまだ貴族と名乗っていた頃、ステラ・マリス女学院に怪しいテロリストが蔓延っていた。
その正体は何か。サビーネはその秘密を探るため、本国から仮免の特別奇襲隊員を呼んだ……」
そして、サビーネが腕時計型の通信機を口元に寄せて、命令を発した。
「……跳べ、リトルナノハ!」
『ま゛っ!』
そして次の瞬間、ガラガラッと引き開けられた、教室の前方側ドア。
そこから現れた少女と、ヌッと突き出された、ちょっと変わった形のアサルトライフルのようなもの。
「私、登場!」
その、『冒険仮面』の登場シーンのような口上と共に顕現したのは、勿論、迷彩服に防弾チョッキと弾帯を身に着け、構えた銃の他に、更に5挺もの銃を負い紐で肩に掛けた、ミツハである。
……大分、重そうであった。
呼ばれてから、僅か1〜2秒で出現した、ミツハ。
超常現象を皆に見られないよう、直接教室内に現れるのではなく、廊下に出現し、ちゃんとドアを開けて入ったのである。
弾帯には予備の弾の他に手榴弾やらナイフやらがくっついており、ヒップ・ホルスターには予備武器である拳銃が。
ミツハは手榴弾を投げる才能が皆無であるが、『自分が相手のところへ転移し、手榴弾をそっと置いて戻ってくる』という方法を編み出すことによって、その弱点を克服したのである。
勿論、念の為に、ミツハが装備しているのは破片手榴弾や攻撃型手榴弾ではなく、音と閃光で相手の行動の自由を奪う、スタングレネードである。
バスバスバスッ!
そして玩具のような小さな音と共に弾丸が発射され、3発中2発が、見張り役のひとりに命中。
子供と老女しかいないため油断しきっていたため、銃を負い紐で肩に吊ったままであった見張り役は、ふたりとも、急なことに対応できなかったばかりか、愚かにも棒立ちであった。
おそらく、プロの戦闘員ではなく、ただ銃を持っているだけの素人なのであろう……。
尤も、もし反応して撃ち返されたとしても、既にミツハが瞬間往復転移により薬室内にある弾丸と弾倉の1発目の火薬を抜いているから、弾は発射されないが。
2発に細工しておけば、引き金を引いても弾が出ず、手動で排莢して再度撃とうとしても、やはり弾が出ない。
ここまで時間が掛かれば、ミツハが相手を倒す前に撃ち返される可能性は、ほぼゼロである。
2発しか細工しなかったのは、もし全弾に細工した場合、後で警察が調べた時に『銃には実弾が装填されておらず、人を殺傷する意図はなかった』とかいうことになって罪が軽くなったりしないように、である。
ミツハは、そういうところには厳しいのである。
バスバスバスッ!
そして再び発射された3発の弾丸がもうひとりの見張り役に全弾命中し、ふたりは声を上げる間もなく床に崩れ落ちた。
いくらミツハであっても、こんな超至近距離だと、そうそう外すようなことはない。
「「「「「「ぎゃああああああぁ〜〜!!」」」」」」
そして、驚いて悲鳴を上げる、サビーネのクラスメイト達。
小学生の少女達なのである。目の前で人が殺されれば、悲鳴を上げて当然である。
しかし……。
「死んじゃいないよ。これは銃じゃなくて、低致死性のランチャーだよ」
そう言って子供達を安心させようとするミツハであるが、『低致死性』であって、死なないとは言っていない。ただ、死ぬ確率が低いというだけのことである。
FN303Mk2。低致死性セミオートランチャー。
弾倉は15発入りのドラムマガジンを使用。標的に当たると砕け散る専用の樹脂製サボット弾を使用するため、『低致死性』と名乗っている。
そしてエアタンクの圧縮空気(CO2)を利用して弾を発射するからか、『ライフル』ではなく『ランチャー』と呼称するらしい。
発射音は、バシュッ、という、まるで玩具の銃のような、小さな音。閃光も反動もない。
火薬の爆発ではなく圧縮空気で撃ち出すのだから、それも当然か。
「ほい!」
ミツハが肩から下ろして投げた銃を1挺ずつ受け取る、サビ・コレコンビ。
「サビーネちゃんは、猪鹿。コレットちゃんは、鳥。弾倉に8発。
肩に吊っておいて、危険を感じた時以外は使わないで。
敵の武器は、戦闘の前に無力化するから。
弾と刃物、その他武器として使えそうなものや毒物は戦闘直前に抜くからね。
……でも、少しでも危険だと思ったら、躊躇なく撃って。
テロリストなんかの命は、ふたりや他の人達の命に較べれば、1万分の1の価値もないよ。
人の命の重さは皆同じ、という説があるけれど、……あれは嘘だ!!」
「「了解!」」
元気に答える、サビ・コレコンビ。
猪鹿というのは、それらを狩るための弾薬、通称鹿撃ち弾のことである。
今回使っているものには、9粒の鉛玉が入っている。
鳥というのは、もっと小さな鉛玉がたくさん入っている、鳥撃ち用の散弾のことである。
……勿論、さっきの台詞は『猪鹿蝶』に掛けてある。
この2挺は、散弾銃である。
暴徒鎮圧銃。その中の、取り回しが楽なように銃身を短くした、暴徒鎮圧用短銃身銃である。
正確な狙いはつけず、腰だめで適当に撃てば良く、相手を即死させる確率が他の弾種より少し低い。
但し、大物用の一粒弾などを使うと、簡単に死んでしまうだろうが……。
その2挺を、サビーネとコレットに1挺ずつ投げ渡したわけである。
散弾の撒布界が広がりきる前に当たると、威力絶大。
サビ・コレコンビの腕だと、適当に構えて腰だめで撃てば当たるだろう。
跳弾による危険性も小さい。壁に当たってもあまり跳ねないし、もし跳ね返ったペレットに当たっても、威力の減衰が大きいからダメージが小さい。余程マズいところ……眼とか……に当たらない限り、大怪我をする確率は低い。
ミツハの散弾銃に装填されている一粒弾だと、弾頭部の質量が大きいことと、剥き出しの鉛玉だから当たれば弾頭が潰れて大きく変形するので、肉体破壊の面からも、そして運動エネルギーが弾と共に突き抜けてしまわないからストッピングパワーが大きいという面からも、敵の突撃を防ぐ効果が大きい。
軍用の小銃弾として使われる完全被甲弾とかだと、弾頭部が人体を貫通してしまい、そのエネルギーの大半が弾頭部と一緒に逃げてしまい、人体の破壊とか突撃を防ぐ制止力としてはあまり役に立たない。
ミツハが、なぜサビーネとコレットに散弾銃を持たせるのか。
それは、低致死性弾だけだと、当たり所によっては敵へのダメージが小さく、ふたりへの敵の接近を許すかもしれないのが怖かったからである。
以前の戦いとは違い、屋内での戦いは超至近距離での戦闘となるため、数発撃ち込んでも止められなかった場合、敵の接近を許すことになる。
……そして敵は成人男性、こっちはか弱い少女だ。いくら敵の武器を封じていても、接近を許してしまえば、下手をすれば一瞬で首の骨を折られる。
『低致死性』などという甘っちょろい武器だけに命を託すことはできない。
それは、自分達の身の安全が確保できている時にだけ使える、『余裕がある者の武器』であった。
……しかし、散弾銃であれば。
散弾の集弾が開ききる前に目標に着弾し、その鉛粒の大半が命中した場合。
……一発の被甲弾が身体を貫通するだけの場合より遥かに多くのエネルギーを相手の肉体に叩き込むことができる。
そして、碌に狙いをつけずに撃っても、鉛粒が全弾外れるということは、まずない。
散弾銃というものの特性さえ知っていれば、使用経験が少ない素人にも効果的に扱える武器であった。
……低致死性弾より相手に与えるダメージが大きい?
当たり前である。敵の身を案じて味方を危険に晒すような間抜けは、戦いの場に出てくるべきではない。
自分が死ぬだけであれば本人の勝手であるが、多くの味方を巻き添えにするような者は……。
背中に受けた弾丸により戦死する者が、たまにいる。
……そういうことである。
ミツハは一応、なるべくふたりには散弾銃を使わせないつもりではある。
サビーネとコレットはともかく、先生とクラスメイト達には、超至近距離で散弾の撒布界が開ききる前に命中した人体を見るのは、少しばかりキツいかもしれないので。
しばらく食事ができなくなるとか、肉が食べられなくなるとか、毎夜うなされ続けたり深夜に何度も飛び起きるようになったり、一生トラウマになったり、とかいう方向で……。
勿論、それでも殺されるよりはずっとマシであるが。
しかし、これはあくまでも『万一の時のための、予備武器』である。
アレである。
『馬鹿、撃つ奴がいるか! 散弾銃は、最後の武器だ!!』というやつ……。
本命は勿論、もう1挺の方であった。
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