359 留 学 1
「えええええええええ〜〜っっ!!」
サビーネちゃんからの、突然の爆弾発言!
ヤマノ子爵家領地邸に、私の叫び声が響き渡った。
「サ、サビーネちゃん、そ、それって……」
そしてサビーネちゃんが、ずいっと私に詰め寄った。
コレットちゃんは、固まったまま、動かない。
「うん、ふたりで数カ月間、短期留学してみるのはどうかな、と思って……」
「行く!」
そしてサビーネちゃんの言葉に、我に返ったコレットちゃんの言葉が続いた。
「……貸し、だいぶ貯まってるよね? テープ起こし、技術者さんの入院付き添いと通訳、その他諸々……」
先日のエスノール領の件とコレットちゃんの入院の件は、さすがに『貸し』にはカウントしていないか。
サビーネちゃんは、そのあたりは厳格なんだよねぇ……。
そして、これはエスノール領の件でコレットちゃんをハブったことに対する埋め合わせの意味もあるのだろうな。
だから、サビーネちゃんの私への『貸し』を使ってコレットちゃんも一緒に、ってわけだ。
確かに、日本への留学は、ふたりの将来にとって大きな糧となるだろう。
そして、貯まりまくったサビーネちゃんへの借りをそろそろ精算しておかないと、このままだと後が怖い。
仕方ないか……。
斯くして、ふたりの日本留学が決定したのであった。
* *
よし、サビーネちゃんとコレットちゃんの留学が決まった。
いや、実は、前々から考えてはいたんだよね。
ふたりの日本語は、まだ発音や言い回しがちょっと怪しいけれど、小学生の日常的な意思疎通には全く支障がない程度には上達している。
しかし、主にブルーレイディスクや本、漫画等で勉強しているから、聞いたり読んだりする方はかなりできるのだけど、自分が喋ったり書いたりする方が今ひとつなんだよねえ……。
だから、日本語に慣れさせることが必要だと思うのだ。
……語学留学だね。
それと、本には書かれていない……わざわざ書くまでもないくらいの……常識的なことの勉強。
日本のことに関しては、本やテレビで仕入れた、子供らしからぬ知識があるかと思えば、幼稚園児でも知っているようなことを知らない。
これじゃ、万一の時……この国が滅びて、地球に移住することになった時とか……に困るからね。
そして、一番の目的として、……ふたりに、楽しんでもらいたい。
いつも王女教育やら家臣候補の勉強やらで多忙なふたりに、少し日本の学校生活というものを楽しんでもらいたいと思ったのだ。留学という名を借りた、数カ月間の休暇をね。
問題は、サビーネちゃんが王様からの許可を貰えるかどうかなんだけど……。
「承認!」
……貰えたらしい。
まあ、王様には、留学先は私の母国の友好国だから絶対安全、って言ってあるからね。
サビーネちゃんとコレットちゃんにも、『日本は、私の拠点があるいくつかの国のうちのひとつ』だと言ってある。
でないと、日本が私の母国だと今までの説明と色々と齟齬や矛盾が出るんだよねぇ……。
サビーネちゃんには既にバレてる可能性もあるけれど、ま、一応、建前として……。
日本で勉強すると、この国と日本が存在するのが同じ惑星じゃないとバレそうだけど、まぁ、私達3人にとっては、大した問題じゃない。
違う惑星にも移動できるなら、私の本当の母国は更に別の惑星に、とかいう説明もできるしね。
それに、サビーネちゃんは、私が本当に困ると思ったことには、突っ込まずにスルーしてくれるからね。
空気が読める子は、大好きだよ!
まぁ、そういうわけで、ふたりの留学計画が開始されることになったわけだ。
国籍は、私に子爵位をくれた異世界懇談会の参加国のひとつにお願いして、ふたりを私の妹として籍を作ってもらった。私のも、今までのとは別に、追加作成。
……なので、ふたりも貴族というわけだ。地球での爵位持ちは私だけだけどね。
但し、『ヤマノ』という家名は日本人っぽくてちょっとマズいから、家名はサビーネちゃんの方、『ゼグレイウス』を使わせてもらってる。
……勿論、王様の許可は得てるよ。
まぁ、向こうの世界には何の影響も与えないからね。
別に全くの架空の家名でも構わないのだけど、サビーネちゃんに無意味に嘘を吐かせたり偽名を名乗らせたりはしたくなかったんだよね。
……コレットちゃん?
コレットちゃんには元々名字がないから、どんな家名を名乗ろうが全部嘘になっちゃうから、どの家名でも変わらないよ。
それに、姉妹ということにした方が、手続き上、色々と楽になる。
姉妹じゃなければ、親のサインだとか保護者の委任状だとか、そういった書類手続きが2倍になっちゃうからね。
……それに、かなりのゴリ押しで日本の学校……私立の女子校。私立の方が無理が利くのと、サビーネちゃんとコレットちゃんに悪い虫が付くのは許せないので、女子校一択!……に入れるためには、外国の貴族の子女という肩書きが効きそうだからね。
国籍をくれた国の王宮からの正式文書で依頼されちゃあ、断れないだろう。
何しろ、封蝋で封印された上から印璽で刻印されたマジモンの古風な外交文書と、王様直筆のお願いの手紙付きだよ。
多分、学校に箔が付くからと、大喜びで引き受けてもらえると思う。
うん、コネは、使ってナンボ、だよ!
そうして選んだのが、とある国際的な港町にある、幼稚園から大学までの一貫校である、某女学院だ。
私立のお嬢様学校で、徒歩通学なのはクラスで3~4人くらいらしい。
他はみんな、自家用車での送り迎えか、親が付き添っての電車通学らしい。
徒歩通学の者達も、別に貧乏だから徒歩、というわけじゃない。
子供を安全にこの学校に通わせるために、わざわざ学校のすぐ側に引っ越してきたという人達なのだ、地価の高い、高級住宅地に……。
なので、まぁ、何だ。
……お嬢様学校だな、うん。
* *
「え、密教系の学校?」
「ミッション系! どこの仏教系学校かッ!」
学校の説明を開始した途端、コレットちゃんがボケをカマしてきた。
でも、どうして密教なんて知ってるんだ? そういう漫画かアニメでも観たのかな?
「任務系? 特殊工作員の養成所か何か?」
サビーネちゃん、お前もか……。
「クルマの変速機について教えてくれる……」
「それは、トランスミッション系! 今の時代、オートマだけで充分だよっ!」
* *
「留学生の、サビーネ・フォン・ゼグレイウスさんと、コレット・フォン・ゼグレイウスさんです。
皆さん、仲良くしてあげてくださいね!」
「「「「「「は〜〜い!!」」」」」」
教師の紹介に、大きな声で返事をする子供達。
シスターとはいっても、別に『お姉さん』というわけではない。
ミッション系の女学校なので、教師の多くは尼僧、修道女なのである。
なので、年齢的には『おばさん』から『おばあさん』くらいの教師も多い。
……勿論、二十代の若い教師もいる。
その何割かは、この学校で幼稚園から大学までを過ごした、純粋培養のお嬢様である。
ここは、とある港町にある、幼稚園から大学までのミッション系の私立一貫校、ステラ・マリス女子学院である。
勿論、名前の通り、女学院。少女のみの花園である。
そしてここは、初等部六年生の教室。
国外からのふたりの短期留学生を迎えての、教師による紹介なのであるが……。
ここは日本であり、そしてミッション系の学院である。
なので、身分や親の職業等で子供を差別するようなことはない。教師も、そして子供達同士でも。
そのため、親の職業などに言及することはない。
……まぁ、この学院に通っているということ自体が、『ある程度以上、裕福である』ということの証であるため、あまり関係ないのであるが……。
しかし、紹介なので、名前を言わないわけにはいかない。
日本とは違い、外国の名前には、色々とある。名と姓の間に洗礼名が入っていたり……。
……そして、『フォン』。
名前の一部なので、勝手に省略したりすれば、それは酷い侮辱行為になる。それも、一族の誇りである、『フォン』の文字である。
……言わないわけにはいかない。
そしてそれは、このふたりが貴族であるということを明言することになるのであった。
「「「「「「…………」」」」」」
そして小学六年生とはいえ、皆、良家の子女である。昔のヨーロッパを舞台としたロマンス小説なども嗜んでいるため、外国人の名前に『フォン』とか『ド』とかが付いているのが何を意味するかということを理解している者が、何人もいた。
……勿論、ふたりの母国においては、貴族を表すその単語は『フォン』ではなく、別の言葉である。
しかし、地球ではその単語は意味がないため、ミツハが本人の了承を得て『フォン』に言い換えている。
というか、元々サビーネは貴族ではなく王族であるため、『フォン』に相当する単語は付いていない。そのまま、『サビーネ・ゼグレイウス』であり、正式にはその間にたくさんの単語……母方の家名やら信徒としての名やら色々……が挟まり、メチャクチャ長いのである。
なので、ミツハは深く考えなかったのである。
「サビーネです!」
「コレットです!」
「「よろしくお願いしマ〜ス!!」」
そう、子供の名前は、これだけで充分であった。
こうして、ふたりの留学生活が始まったのであった……。
拙作のふたつめのアニメ、『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』が、1月7日の2600(8日の0200)からTV放送が始まっています。
朝日放送系、全国24局ネット。
その他も、BS11、ネット配信等、手広くやっています。
観ていただけると、嬉しいです!(^^)/