357 敵 4
「……来ました。40人前後、統制が取れています」
警備兵のひとりが、そう報告してきた。
ちなみに、見張りには私の双眼鏡を貸してあげている。ニコンの高いやつ。
「40人前後ということは、一個小隊かな。
小隊なら、普通は指揮官は少尉相当の士官だろうけど、高度な判断力が求められるこういう部隊の場合は、大尉や少佐相当の者が上位存在として付いていてもおかしくはないか……。
ま、こっちにとっちゃあ、所詮『盗賊団のボス』に過ぎないから、大差ないか」
私の独白に、こくりと頷くみんな。
私が殊更に連中を盗賊扱いするのは、アレだ。
正規兵扱いだと、捕虜の待遇だとか、色々とある。虐待禁止、とかね。
……でも、領主邸を襲った、ただの盗賊団なら?
貴族を襲った、平民の凶悪犯罪者達。
うん、拷問だろうが縛り首だろうが、どこからも文句を言われることはない。
そちらの国の貴族を襲った盗賊はうちの者なので返してくれ、とか言ってくる者はいないよね。
だから、何をしても構わない。
人道的であろうがなかろうが、全兵装使用自由。
うん、そういうことだ。
皆、用意はできている。
装備も、そして心の準備も。
皆、既に配置に就いている。
……盗賊団撃退の、準備はできた!!
* *
敵は、予想通り、正門から堂々と入ってきた。
門には、鍵は掛けていない。どうせどこかから入ってくるのだから、侵入地点を局限した方が都合がいいからね。
向こうも、こちらの人数が少ないということは承知しているから、堂々と真正面から入っても何の問題もないと考えたのだろう。
というか、正面から入って自分達の戦力を見せつけ、降伏させるつもりかもしれない。
降伏させれば、自分達も無駄な被害を出さずに済むし、金貨や宝石の隠し場所を探す手間もかからない。
おまけに、領主に対して勝利宣言をして悦に入るという、小悪党が好みそうなシチュエーションが期待できるからねぇ。
まあ、その後に領主一派を皆殺しにしないという保証はないから、常識的に考えて、領主が降伏する可能性はほぼないだろう。
皆殺しにすれば、詳しい事情を知る者がいなくなり、代官の犯行がはっきりしなくなる。
そりゃ、状況や生き残りの証言、そして領民達の証言から、代官の犯行だということは露見するだろう。
でもそれは、あくまでも『状況的に、そうであろうと思われる』ということであって、領主や家臣達が直接証言するのとはわけが違う。
ま、結局、向こうはこっちを皆殺しにするつもりだってことだ。
隠れている、何も知らないメイドや料理人くらいは見逃されるかもしれないけれど……。
軽機関銃は、2階の窓の手前に台になるものを置き、そこに二脚を立てて窓から撃てるようにしている。
伏射じゃなく立射になるから、ちょっとおかしな体勢になっちゃうけど、こんな超至近距離なら問題ないだろう。
サビーネちゃんは、別の窓から狙撃銃を構えている。銃身を窓枠に載せているから、バイポッドは必要ないみたいだ。
腕の方は、以前ウルフファングの本拠地で色々な武器の特訓を受けた時に狙撃の練習もしたから、大丈夫だ。
私とコレットちゃんも一緒に訓練したのだけれど、……私の狙撃の才能はゼロだったよ。
ちなみに、サビーネちゃんは私と違って、ちゃんと手榴弾を前方に投げることができる。
門から玄関までは、見通しがいい。人が潜めるようなところはない。
なので40人前後の敵は、一応は周囲を警戒してはいるものの、その注意力の大半は邸の方に向いている。
なので、庭にはあまり注意を払わずに、ぞろぞろと進んでくる。
そして一番後ろにいる代官が、降伏勧告か何かのために声を上げようとして両手を口の側に当てた瞬間……。
右手の中にある起爆スイッチを押し込んだ。
バン!
左右60度、上下それぞれ18度の範囲に撃ち出される、700個の鉄球。
クレイモア1個、250ドルなり。
武器の中では、お安い方だ。
ま、普通の埋設型地雷は3ドルから30ドルとすごく安いから、地雷の中では高い方か。
埋設するのは安く、撤去作業には高額の費用と危険を伴う。
地雷は面倒だよねぇ……。
地上設置型のクレイモアは、その点、ちょっとマシか。
その攻撃対象となった者達以外にとっては。
「「「「ぎゃあああぁ〜〜!!」」」」
「あ、足が、俺の足がああぁ〜〜!」
「ひいいいぃ〜! 痛ぇ、痛ぇよおぉ〜〜!!」
転げ回り、悲鳴を上げる数人の男達。
ま、悲鳴を上げられるだけ、よかったよね。
何人かは、無言で地面に横たわってるからねぇ……。
せっかく用意した開幕花火が無駄にならなくて、よかったよ。
クレイモアは、侵入者の進行方向に対して側面から襲い掛かるように設置していた。
正面から迎え撃つように設置しておいた方が、倒せる敵の数は多かっただろうと思う。
……でも、そうするとその一発で大勢を倒しすぎちゃうかもと心配したのだ。
下手をすると、代官やら部隊……、いやいや、盗賊団のお頭とかも殺しちゃわないかと……。
なので、側面からの攻撃となるよう設置したわけだ。
別に、舐めプをしているというわけじゃない。
ただ、そうするだけの余裕がある、というだけのことだ。
「狙撃開始!」
「了解!」
私が指示する前に、既に第一目標をスコープ内に収めていたらしいサビーネちゃんは、そう返事した数秒後に引き金を引き絞った。
バン!
「ぎゃあああぁ〜〜!!」
屋内射撃場で撃った時のような反響音はなく、一瞬の発砲音が聞こえただけ。
そして、それに続く、被弾者の悲鳴。
バン!
「ぐわっ!」
そして、サビーネちゃんによる狙撃が続く。
標的は、代官と、兵士……盗賊達の指揮官らしき者。
指揮官は、服装や位置、指示を出しているらしき様子とかから類推して、それらしき者を数人、適当に選んでの攻撃だ。偉そうに見えただけでただの下っ端だったら、ごめん。
……あ、殺さずに捕らえるために、逃げられないように足を撃っているわけだから、殺されずに済むのでラッキー、ってことか。謝る必要、なかったな。
とにかく、指揮官の可能性がありそうな者を一通り足を狙って撃った後は、肩とか腕とかを適当に撃つよう頼んである。
先頭にいた数人が、謎の爆発で吹き飛び。
最後尾の、最も安全であるはずの位置にいた指揮官と代官、他数人が手足を撃たれて転げ回っている。
……想定外の事態。
指示を出すべき者が、指揮官や次席、三席らしき者達まで、全員が地面を転げ回っている。
これが本当の盗賊団ならば、倒れた連中は放っておいて全力で逃げ出すところなんだろうけど、軍に所属している、……もしくは、所属していた兵士なら、同僚や上官を見捨てて逃げることができるかな。
もしまだ組織として機能している場合、上官や仲間を見捨てて敵前逃亡した者がどういう扱いになるか、分かっているだろうし……。
まぁ、あまり困らせるのも気の毒だから、私が何も心配する必要がないようにしてあげよう。
……そう、この、5.56ミリの完全被甲弾によって……。




