335 婚 約 4
とにかく、とりあえずはサビーネちゃんに情報収集を依頼した。
場合によっては、その後、破壊工作を依頼することになるかもしれない。
……サビーネちゃんは、『情報だけならお安くしてあげるけど、破壊工作の場合は、ちゃんと相応の対価を貰うよ?』って言ってきたけど、まぁ、それは仕方ないか……。
ちゃんと、『それに見合う働きをしてくれたらね』と言っておいたから、真面目にやってくれるとは思うけど……。
貴族の、それも雷の姫巫女の婚約や結婚に絡む話を、王様の許可なくボーゼス侯爵様だけで勝手に進めるとは思えない。なので、サビーネちゃんには王様方面からの調査をお願いしたのだ。
いざとなれば王様に強権を発動してもらうべく、サビーネちゃんには、情報収集に続いて、王様の調略もお願いしておいた。
王様に甘えてサービスし、『私、ミツハ姉様と一緒に結婚式を挙げるぅ~!』とでも言ってもらえば、最低でもあと4~5年は保つだろう。
* *
「ミツハ姉様、パーティーのお話はなくなりそうだよ」
「……早っ! 仕事、早っっ!!」
待ちに待った、サビーネちゃんからの報告!
しかも、情報収集だけでなく、何と、予想外の大戦果!!
「ありがとう、サビーネちゃん! 助かったよ……。
……で、どういう経緯でそうなったの?」
うん、次回のためにも、それを聞いて参考にしたい。
「私がおとうさまに、ボーゼス侯爵が何やらミツハの婚約のことで企んでいるらしい、って耳打ちすると、色々と調べてくれたんだけどね。それによると……」
「うんうん」
「何でも、ボーゼス侯爵がパーティーを開こうとしたのは、自分の息子をミツハ姉様の婚約者として皆に紹介して、既成事実を作るのが目的だったみたいなのよね。
だから、名目上の主催者がミツハ姉様であり、ミツハ姉様の意思で開かれたパーティーだということ、そして実際の差配は自分がすることによって、招待する者のリストやパーティーの進行、司会、その他諸々を自分の都合の良いものにしようと企んでいたみたいなんだよね……」
「ええっ、私とアレクシス様を?」
「ううん、下の方の子と、だって」
「えええええっっ!!」
何と、テオドール様と!
……ボーゼス侯爵様、いったい何を考えてるんだ?
「……それで、珍しくおとうさまが怒っちゃってね。『ミツハはうちが狙っているのだ、抜け駆けするなど、許さん!』とか言って……」
「ふむふむ……、って、何じゃ、そりゃあああ!」
「そして、それを聞いたアイブリンガー侯爵が、『いや、ミツハ殿はうちの息子に!』って言い出しちゃって……。
アイブリンガー侯爵、第二夫人に産ませた末っ子は、まだ20歳前後なんだって」
「いや。いやいやいやいやいや!!」
「それで、おとうさまとボーゼス侯爵とアイブリンガー侯爵が話し合うことになってね……」
ああ、だいたい、落ちが見えてきたぞ……。
「怒鳴り合い、掴み合いの大喧嘩。衛兵達を遠ざけていなければ、大変なことになってたかも……」
「いやソレ、充分『大変なこと』だよね……」
まぁ、アイブリンガー侯爵は王様とは昔からの親友同士らしいから、それでも『友達同士の喧嘩』で済むらしいのだけど、これって、他の貴族だったら大変だよねぇ……、って、ボーゼス侯爵は大丈夫なのか……。
「まあ、アレクシス様は上姉様が狙ってるからなぁ。そして王太子殿下は、……私、前に言ったよね、キラキラした方はちょっと、って……。
それに、そもそも私は王妃様とか、向いてないよ……」
「うん、知ってる」
何じゃ、そりゃ!
……いや、その通りだし、自分で言ったのだけど、そうあっさりと肯定されるのも、ちょっとイラッとするよ。
「ミツハ姉様は、作り笑顔で椅子に座りっぱなしとか、パーティーで大勢の奥様方からの攻勢を上手く捌いたりとか、外交の席でホホホ、って微笑んだりするのは苦手そうだもの。
会議や社交の場をぶっ潰して滅茶苦茶にするのは得意そうだけど……」
「う、うるさいわっ! ……でも、まぁ、その通りなんだよねぇ……。
私は、みんなと一緒に現場で働いている方が合ってるよねぇ……」
「うん、知ってる」
「あはは……」
「あ、おとうさまがミツハと婚約させようとしているのは、お兄様じゃなくて、ルーヘンの方だからね」
「え……」
くそっ、私の渋いおじさま好きと可愛いもの好きを見破られたか?
いや、ルーヘン君はまだ10歳だけど、私が12歳前後に見えるから、政略結婚の相手としては、そんなにおかしくはないのか。10歳、20歳離れているというのも別に珍しくはないそうだし。
……まぁ、普通、年上なのは男性の方らしいけれどね。
ルーヘン君が臣籍降下して公爵か侯爵になって、ってことかな。
第二王位継承権者だから、お兄さんが子供を作る前に何かあった場合の予備、って立場だろうし……。
そして私の子爵位はそのままで、将来、第二子に……、って、真剣に考えてどうするよ!
「……なし! 私がちゃんと適齢期になるまでは、なし!!」
そう、日本人としては、まだまだそんな年齢じゃないよ!
「……で、それは何歳になれば? 姉様、今、何歳だっけ?」
「年齢の話を蒸し返すなああぁ~~!!」
* *
「そうだ、爆発反応装甲だ!!」
久し振りに雑貨屋ミツハを開けて店番をしていたミツハが、突然何やら大声を上げた。
客もサビーネちゃんもいなかったのは、幸いであった……。
「そうだよ、装甲板を張ればいいんだ!
今回は敵の仲間割れによって無事に危機を回避できたけれど、いつまたピンチに陥るか分からない。そしてその時には、敵が仲間割れせずに共闘してくる可能性もある。
ここは、安全措置を講じておくべきだ。
……そして、こちらから攻勢に出られない以上、守りを固めるしかない。
要塞に閉じ籠もったり迎撃したりはできない以上、私がとれる効果的な方法は、……デコイか爆発反応装甲しかないよね! それも、戦闘証明済みのものが望ましい。
ということは……」
ミツハは、にやりと笑みを浮かべた。
……邪悪なやつを。
そして……。
「弾避けと、圧力団体を作ろう!!」
何やら、良からぬことを企んでいるようであった……。
* *
「……というわけで、『ベアトリス商会』の取引範囲を拡大して、近隣各国に提携店を作ろうと思います!」
「えええええ!」
私からの突然の宣言に、驚くベアトリスちゃん。
うん、新大陸のレフィリア貿易のように、この国の商業界と貴族界に影響力を持つ商会に育て上げるのだ!
旧大陸じゃお酒や摘まみ、甘味とかは雑貨屋ミツハで少し売っているだけで、そんなに大規模に扱っているわけじゃない。
……祖国から友人達がこっそりと運んでくれた、私が使うためのものの余り物という建前上、お酒がたくさんあるのは不自然だからね。化粧品とかも。
まぁ、もう誰もそんな建前は信じていないだろうけどね!
そういうわけで、少し嗜好品に力を入れて、流通量は少ないながらも、強い影響力を持つ商店にするわけだ。
……影響力なら、『雷の姫巫女様』のネームバリューだけで充分?
いやいや、実利のない、ただの名前だけの影響力と、お金や現物がある影響力は違うよ!
そして……。
* *
「アデレートちゃん、貴族令嬢の親睦会を主宰するつもり、ない? 一応、名前は『ソロリティ』なんかいいんじゃないかと思うんだけど……」
「えええええええええっ!!」
あ、ちょっと唐突だったか……。
でも、これをサビーネちゃんに任せるわけにはいかないんだよなぁ。
……年齢が低すぎるし、そもそも、王女様だもんねぇ……。
まぁ、サビーネちゃんには、名誉会員として、マスコット役を務めてもらおう。
箔付けは大事だからね!




