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33 子爵領の改革

 使用人の大掃除が終わったあと、ミツハは一挙に行動に出た。

 まず、ミツハの私室への絶対立ち入り禁止令。

 普通の書類仕事をしたり、使用人やそのうち雇用するであろう部下に指示を出したりするために、執務室は勿論そのまま使い続ける。しかし重要な書類仕事や、持ち込んだパソコンで行う作業等を考えると、保全環境は必要だ。


 それに、身の安全のこともある。

 6人の「害を成す者」を追い出したが、それはまた「6人の、ミツハに恨みを持つ者を野に放った」ということでもある。逆恨みで賊や間諜の手引きをしたり情報を流したりするかも知れない。

 また、残った使用人も、今は裏切っていないというだけで、今後、お金や、家族を人質に取られたりして、ということもある。

 そのため、私室にパソコン他の秘密にするものを置き、防犯設備でガチガチに固める。夜も安心して眠れるように。

 そうすると、必然的に誰も入れることはできなくなるわけであった。

 自室の掃除くらい自分で出来る。メイド達にかなり食い下がられたが。


 そして、住環境の楽ちん化。

 しかし、風呂も調理器具も貯水タンクもポンプも、日本から持ち込む必要が無かった。

 うん、全部使用人がやってくれるからね。

 え、持ち込んでもいいのでは、って?

 そしたら、それを担当してる使用人が不要になってクビになっちゃうでしょ。それこそ、『何も悪くない、真面目に働いていた人』が。

 自分の我が儘で、自分の領地に失業者を増やしたくないよ。

 で、結局、自室の防犯設備にAV機器と小型冷蔵庫、LEDのライトスタンド等のための発電システムを設置するぐらいに終わった。


 そして、人員の補充。

 使用人の3分の1を解雇したので、人員不足。防衛要員も必要だし。

 雇用は領内からかな。他領の領民を勝手に引き抜くわけには行かないし、王都とかの自由民だと単身か家族ごと…、って、すぐには間に合わないか。執事さんと相談してみよう。とりあえず、信用できそうな者を数名。そのうち増やしていく予定。色々と手を広げていくからね。王都でも専門知識のある人とかを募集しよう。


 食事の方は、追い出した料理長の他に若い料理人がひとり残っているから、それで良し。

 前領主の時は料理長が領主家族の料理を担当、若い料理人さんはその下拵えや使用人の食事を主に担当していたらしい。

 いや、ひとりでいいよね、料理人。使用人は一度に食事するのではなく交代で食べるから、対処できるはず。私は豪華で品数の多い、大半を残すような食事は要らないからね。


 と、あれこれしていたら、来客。

 うん、傭兵さんと商人さんだ。

 忘れていたわけではない。多分。



「長い間待たせてごめんなさい。商人や傭兵にとっては『時は金なり』なのに…」

「いえいえ、滅相もございません。これからの事を思えば、数日お待ちするくらい…」

「ああ、その通りだ」

 私の言葉に、そう返してくれるペッツさんとヴィレムさん。

 では、仕事の話と参りましょうか…。



 ペッツさんとは、取り扱い品目や税について相談。

 税は領地によって異なる。交通の要所とド田舎では条件が異なるから、当たり前か。

 ここは、条件が近くて善政と言われているボーゼス領を参考にして、それよりちょっぴり優遇、というのがいいかな。販売額の2割、ってとこか。遠隔地ほど輸送費がかかって商品価格が高くなるし、まだ領民の購買力が弱いし…。


 交易ルートは、王都からボーゼス領、そこからヤマノ領に回って、王都へ。当然、その途中にある町や村にも寄るから、うちに来た時には王都からの商品のうちめぼしい物は売れてしまっており、売れ残りと、空いたスペースを埋めるために途中の町で仕入れた物が少しある程度、という状態。

 帰り道でも同じ町を通るので、王都用の物を仕入れるのは帰り道になる。無駄な距離を運ぶ必要が無くなるし傷みも少なくなるし盗賊に襲われた時の被害も少なくなるので、当たり前。

 いい品をうちの領まで持って来て貰うには、『その方が儲かる』ということにならないと難しい。高くしても売れる、とか、税がかなり安い、とか。

 税はあまり安くすると領の税収が上がらないし、一応は他領との兼ね合いもあり、あまり無茶なことも出来ない。う~ん……。


「販売税2割。売れ残って持ち帰りたくない商品はうちで預かって委託販売、ってのはどうですか? 販売はうちの店でやるから、店舗も人員も必要なし、経費負担ゼロ、ってことで。

 それと、うちの秘密工房で造った工芸品とかを回します、儲かるの間違いなし、ってやつ。何なら、こっちも委託販売にしてもいいですよ、ペッツさんが手数料を取る、って形で」

「え……」

 驚くペッツさん。そりゃ、こんな好条件だと驚くか…。ボーゼス領より安い税も勿論だけど、売れ残りが余分な経費ゼロで全て現金化できる、というのは結構魅力的なはず。

 何しろ、往路で売れなかった品だ、僅か数日後に同じ町を通っても売れる可能性は低い。復路では王都で売る物をたくさん積みたいはず。王都で仕入れたものを持ち帰っても意味がない。

 商品を全て引き取って貰えるなら、売れ残りを警戒して商品を少なめにする必要は無くなる。やや高額な品も、ボーゼス領やヤマノ領まで届くだけの充分な量を積んで王都を出発できる。しかも、手数料無しでの委託販売。タダで支店が手に入ったようなものだ。


「ぜ、是非お願いします!」

 ペッツさんは即答で了承してくれた。

 うん、秘密工房、ってのは勿論嘘で、100均あたりの品を雑貨屋ミツハの商品と被らないようにして回す予定。これで充分な収益が上がれば、ヤマノ領に来る価値が激増、訪問回数が増えたりするかも知れない。

 但し、これは一時凌ぎ。私がいなくても回るよう、早急に『本当にこの領地で造られた、魅力的な商品』を開発しなきゃ…。あ、まずは領主直営のお店を作るのが先か……。


 あとは、うちの領まで持って来て欲しい物、つまり注文の品に関する打合せや、とりあえずの来訪頻度の相談等。このあたりは、執事のアントンさんや他の使用人、町の人達の意見も聞きたい。それらは後で別途調整、ということで、次は傭兵のヴィレムさん。


「どれくらいの防衛兵力が必要ですかね?」

 私のあまりに率直な質問に、苦笑いのヴィレムさん。


「いや、それは攻めてくる敵次第だから、何とも言えないな。ただ、地理的に、ここは他国が攻めて来るような場所じゃない。だから、対象は小規模な魔物の群れから大規模な盗賊団まで、ってことだ」


 う~ん…。ヤマノ子爵領の人口は、町が260、農村が3つで合計290、山村が2つで79、漁村が1つで47、合計676名。子爵領としてはかなり少ない。いや、自分で望んだんだけどね。元々は男爵領だし。

 それを守るには、どうすれば良いか……。


「どこかから連れて来るべき? それとも、領民から募集した方がいい?」

「う~ん、王都とかで雇うと、遠くの田舎だから高くつくからな…。家族持ちとかは嫌がるだろうし。それと、そもそも、忠誠心に問題がある」


 ああ、いざとなったら簡単に逃げ出す、とか、守備兵力として雇った者達がそのまま盗賊になる、とかか。このあたりだと、領主家を皆殺しにして有り金全て奪って逃げても、なかなか捕まらないだろうし。なにせ、写真も新聞もテレビもないしね。まともな捜査もされないし。

 よし、領内養成か! 雇用促進にも繋がるしね。ヴィレムさんに鍛えて貰おう。

 でも、新人が使い物になるまでの備えは必要かな……。


 あ! 閃いた!


「ヴィレムさん、ヤマノ子爵領領主軍の指揮官として雇用します。

 予定する総兵力は、常備兵が指揮官以下5名。あとは領民の中から常時36名を招集して家業と兵役を兼業させます。これを随時入れ替えて、兵役に適した男性約200名全員をある程度は戦えるように鍛えて下さい。

 その後、見込みのありそうな者を何人か常備兵に選抜します」


「え……」

 驚くヴィレムさん。


「ヴィレムさんには、基本的な武器の扱い方は勿論ですけど、その前に、主に体力的な面とか、兵士としての精神的な面とかを鍛えて戴ければ、と」

「あ、あぁ……」

 ヴィレムさん、なんか少し動揺してる?


 うん、うちは国民皆兵で行こうと思う。

 領民が少ないのに、大勢の常備兵なんか維持できない。かと言って、僅か数人の兵士では、防衛戦闘どころか警備のローテーションも回せない。

 そこで、交代制で『家業と兵役を兼務する期間』を割り振ることにした。対象は、兵役適齢期の男性で、病人等を抱えておらず、本人が少し抜けても家業に大きな影響がない者。ひと期間が過ぎれば、次のグループと交代。

 これならば、生産に大きな影響は与えないだろう。自宅からの通いなので領主側の負担も少ない。昼飯は腹一杯食べさせてあげるけど。


 36名の一般兵は、9名ずつの4つの分隊に分ける。

 各分隊は、3名ずつ3班に分かれて行動したり、2名ずつ4班に分かれて1名が分隊長としてその4つの班を指揮したり、と考えている。それらの上に、4名の士官。トップがヴィレムさんね。


 女性陣も、希望者には武器の扱いは教えるつもり。積極的に戦いに出るわけじゃなくても、この世界、女性も自衛手段を持っていた方がいいからね。


 あ、『国民皆兵』と言えば、なんか好戦的みたいだけど、あの平和の象徴みたいに言われている永世中立国のスイス、あそこも国民皆兵なんだよね。国民は武器の訓練が義務付けられているし、各家庭には銃が保管されていて、いざという時には数十万の兵士となって招集されるの。かなりの軍事国家なんだよね、スイスって。軍事産業も多くて、武器をどんどん輸出してるし。


 時々、変な人が『日本も、スイスみたいな中立で平和な国に…』なんて言ってるけど、スイスは武装中立であって、ガチガチの武力で『ウチに手を出すなよ、ゴルァ!』って国だからね。日本にもスイスの真似させたいなら、まず国民皆兵の徴兵制にして、各家庭での武器の所有を許可して、軍需産業を育成しなきゃならないんだけど……。今の方がずっと平和じゃないの、日本って。


 あ、まず、戸籍を作らなきゃ…。

 兵役もだけど、課税、福利厚生、何をするにも、まずは戸籍管理からだよね。持ち込んだノートパソコンがあるから、700人弱くらいの管理なら大した手間じゃない。

 勿論、万一に備えて、紙媒体にも出力しておくよ。

 あと、そろそろ一度王都に戻ってお店のこととか、あの件とか片付けないと…。それと、日本に戻って、早急に始めたいことがあるし……。

 ああ、忙しい!

 のんびりやっていくはずが、どうしてこうなった!!


 自業自得ですか、そうですか……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前の男爵の軍隊はどうだったんだろう。 同じような徴兵制度だったとしても指揮を執る士官というか隊長?みたいなものは居なかったのかな。 それとも賢く逃げちゃったのかな? 現状の男爵邸なら盗賊来ら…
[一言] 楽をするための苦労は惜しまないミスハ……わかるわぁ。ベースの体制を固めたら後は楽だよねー
[一言] 戸籍を作らなきゃ…。 持ち込んだノートパソコンがあるから、700人弱くらいの管理なら大した手間じゃない。 …文盲率の高く、紙すら少ないこの世界、 各員に戸籍謄本提出させられるワケじゃなし、 …
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