283 掃 除 6
ふたりへの報酬は、この後の数回分も含めてのものとして、後で協議することになった。
勿論、足元を見ての無茶な要求は無し、常識の範囲内で、ということを念押しするのは忘れない。
それと、今後は徹夜とかは無しで、休憩や睡眠を取りつつ余裕をもって、ということも念押し。
徹夜や無茶な労働は、お肌の大敵だからね。
……私は、多分そういうのも治るんだろうけど……。
なので、今回は3日くらいかけてやってもらおう。
他の商家は、その間は録音しないけど、首謀者であるエノバ商会には追加購入の録音器を仕掛けておいた。
……全部で何十個になるんだよ、録音器……。
まあ、総額は30万もいかないからね、外部マイクの分を含めても。
ちょっと、日本の物価、安すぎない? 100均に行った時も、いつも思うんだけどさ……。
でも、さすがにこれ以上買い足すつもりはないよ、録音器。
何十個もの超小型録音器を持っている女なんて、気味悪がられそうだよ……。
そして、雑貨屋ミツハの3階で、同時に数個の録音器を再生させて確認作業。
いや、全部聞き取らなくても、関係ない内容の部分は適当に聞き飛ばしたり、操作して早送りしたりするからね。1個ずつ、じっくりと聞いたりはしないよ。
そして……。
あるある!
調子に乗って、喋りまくってるよ、ラルシア貿易を馬鹿にしたり、うまくヤマノ子爵領からの荷を手に入れる計画とか、貴族への上納金の話とか……。
犯人達は、結構ペラペラ喋るよなぁ……。
まぁ、無理もないか。現代地球とは違って、ここには盗聴とか録音とかの技術がないのだから。
せいぜい、床下や天井裏、衣装ダンスとかの中に潜んで、というのが精一杯なのだろう。
……あと、現場に居合わせた者が敵に内通していて、というくらいかな。
だから、一蓮托生、運命共同体の『互いに、絶対裏切れないヤツ』と自分の部屋で話す時には、無防備になるのだろう。壁が厚く、人が潜める場所がないのが分かっている、安心できる場所でなら……。
何しろ、地球では普通の盗聴器や録音器のみならず、建物の窓ガラスにレーザーを当てて、その反射光の揺らぎを音声に変換して室内の会話を傍受するというレーザー盗聴器すらある御時世だ。
謀は、口にせず、文書にせず、勿論データ化、ファイル化もしない。
それが、現代地球での常識だからねぇ……。
しかし、さすがにこの世界でも、わざわざ悪だくみの計画書や誓約書、連判状とかの証拠を作るような馬鹿はいない。
そもそも、そんなものを作らないと団結や裏切り防止に不安が残るようじゃあ、お察しだ。
だから、別口での不正を暴くには隠し金庫の中身も役に立つだろうけど、この件に関しては、録音データ以外の物的証拠はない。
そして、録音器なんか証拠として提示できるわけがない。
どうせ、捏造品だとか悪魔の手によるものだとか言い張られたり、警備隊の者がついうっかりとなくしてしまったり、何かにぶつけて壊してしまったりするに決まってる。
実行犯も、その方面の伝手も人脈も、そして味方もきちんと働く官憲もいない私達には確保することができない。
……もし確保できたところで、商会主が直接会って指示したわけじゃあるまいし、『知らん、濡れ衣だ』、『誰かがうちの名を騙ったのであろう』と言われれば、それまでだ。
そして、なぜか実行犯達に牢から逃げられたり、自殺されたりするだろうからね。
だから、あの国の治安組織には、何も期待しない。
信用し、頼れるのは、自分と、ラルシアと、そして私達が作り上げた『女性事業主国際ネットワーク』の仲間達だけだ。
真面目に頑張っている者に対して理不尽な暴力を振るう者には、同じように、理不尽な暴力で返してあげよう。
じっくりと敵の繋がりを調べ上げ、根元から末端まで、全て綺麗に。
自分達が何に加担し、何をしでかし、そして何を敵に回してしまったのかを教えてあげて、充分に後悔してもらうために……。
うん、反省してもらう必要はない。いくら反省しようが、もうその教訓を活かせる機会はないのだから。
ただ、後悔するだけでいい。
「往生させてやる……」
私は、ぽつりとそう呟いた。
* *
『善人なおもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや』
ミツハは、この言葉を「悪人であっても往生できるのであるから、善人は勿論往生できる」という誤った解釈ではなく、ちゃんと「善人であっても往生できるのだから、仏にお縋りするしか救済の途がない悪人は、言うまでもなく往生させていただけるのだ」と解釈していた。
……ただひとつ、『往生』という言葉の意味を、「極楽浄土に往 (い) って、生まれ変わること」という本来の良い意味ではなく、ヤクザが抗争相手に拳銃を突き付けて言う台詞、「往生せいや~!!」というイメージで認識しているという、恐るべき勘違いを除いて……。
* *
「姉様、終わったよ~。はい、これ、『ろくおんき』と確認のメモ」
「あ、お疲れさま」
サビーネちゃんが、以前私から毟り取ったマウンテンバイクに乗ってやってきた。
コレットちゃんの分は、既に私が領地邸から回収してきている。
音声を聞く作業だし、同時に複数個を確認するには神経を集中する必要があるから、同じ場所で一緒に、なんてできるはずがない。なので私はここ、雑貨屋ミツハで。コレットちゃんは領地邸の私の執務室で。そしてサビーネちゃんは王宮の自分の部屋で、それぞれ他の者を部屋に入れないようにして作業したのである。
『ヤマノ子爵としてではなく、雷の姫巫女様としてのミツハから頼まれた重要なお仕事だ』と言えば、邪魔をする者などいようはずがない。
「報酬が何になるか、楽しみにしてるからね……」
「わ、分かってるよ。いくつか、案を考えておいてね」
「了解!」
小悪魔モードでにやりと嗤う、サビーネちゃん。
あ~、悪い予感がするよ……。
まあ、とにかく今は、ふたりがピックアップしてくれた部分の確認が先だ。
サビーネちゃんも、今は私が本気で作業していること、そして私がどんな気持ちでそれをやっているかを察してくれているらしく、しつこく絡んだりDVDやブルーレイディスクの視聴を強請ったりはしない。
雑貨屋ミツハは閉めたままだから、私がこのまま作業に入るつもりだということも分かっているだろう。
「じゃ、帰るね。徹夜は駄目だよ」
……ほらね。
この世界で最初に出会い、互いに命を助け助けられた仲の親友はコレットちゃんだけど、私のことを一番理解してくれているのは、サビーネちゃんかもしれないなあ。
ま、さっさと録音内容を確認するか……。
* *
サビーネちゃんとコレットちゃんのふたりから内容確認済みの録音器とメモを受け取ってから2日後。
私はそれらのデータを元に、パソコンで相関図を作り上げていた。
エノバ商会を中心とした、上と下、そして横へと伸びる線。
上は、貴族や警備隊の上層部。
下は、格下の中小商家や下請け、荷役業者、暴力団やチンピラ組織。
横は、他の同格の商家や取引先。
そして今私の手には、先程転移により回収してきた、警備隊本部に設置していた録音器が数個……。
今からその中身を確認し、相関図の最終仕上げを行う。
レベルによって色分けされ、それぞれ何をやってくれたかの詳細を別出しで記入してある、相関図の。
……何のレベルか?
勿論、『やらかしレベル』であり、『報いを受けるレベル』、つまり『罪の重さ』のレベルだ。
罪の重さは、誰が決めた?
裁くのは?
……私だ!!
GW休暇終わり!
更新再開です!!(^^)/




