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「あったよ~!」
「こっちも!!」
うむ、サビーネちゃんとコレットちゃんに録音器を3個ずつ渡した翌日。
私の分である4個の中身は全てハズレだったけど、ふたりの分には当たりがあったか。
「これ、当たりらしい部分のメモね」
「こっちも!」
ふたりから、該当箇所のメモを受け取った。
録音された話の内容が書いてあるのではなく、どの録音器のどのあたりの時間のところに問題の部分があるかという、記録箇所のメモである。
「お疲れ~。じゃ、これ、約束のやつね」
「「よっしゃあ!」」
記録器とメモを受け取り、代わりにふたりに渡したのは、報酬である『我が儘を1回通してもらえる券』と『指定したミツハの母国の便利道具をひとつ貰える券』。
おかしな使い方をしないでよ……。いや、ホント!
「眠いから、帰る」
「私も……」
おや、いつも私と一緒に居たがるのに……、って、徹夜か! 徹夜で何度も確認してくれてたのか。
サビーネちゃんとコレットちゃんは、まだ新大陸の言葉には不慣れだから、早口でペラペラ喋られると聞き取り難いだろうから、漏れがないようにと何度も聞き返してくれたのだろうな。内蔵の無指向性マイクだから、音質も悪いし……。
申し訳ないことをしたなぁ……。
でも、私もさすがに10個分を全部ひとりで確認するのは嫌だったからなぁ……。いくら無音時間が長く続けば録音が自動的に止まるとはいえ……。
とにかく、コレットちゃんを連続転移で領地邸に送り、サビーネちゃんは悪いけど自分で帰ってもらう。
いや、王宮に転移で出現するのはなるべく避けたいし、護衛についている人達の立場もあるからね……。
というわけで、ふたりが帰ったあと、メモを見ながらそれぞれの録音器の内容を確認。
……うん、あるある!
ラルシア達に広めてもらった噂の効果で、苦々しい口調で部下……番頭か大番頭あたり……に愚痴を溢す商会主らしき者の言葉。
その中に、はっきりと『自分達が犯人である』ということを明言した言葉がいくつもあったよ。
これで、何の遠慮もなくやれる。
そして、やっぱりあったよ、官憲との癒着の発言!
それと、いくつかの商家とは裏で繋がってる模様。
いや、商売上の協定とか、互いに便宜を図る、とかならいいんだ。この世界じゃあ、まだ独占禁止法とか下請法とかはないんだから、別に違法行為というわけじゃないから。
……しかし、犯罪行為、てめーは駄目だ!
そういうわけで、連中の全貌を把握すべく、再び録音器を設置。
今度は、前回の録音で情報を得た仲間の商店や、警吏の職場にもセットする。
そのため、録音器をたくさん買い足した。どうせ、1個5000円以下の安物だ。
そして安物だからか、確かに説明書通りのスペックではあるものの音質がかなり悪かったため、小型の外部マイクをいくつか買って付けてみた。いい音で録れればいいんだけど……。
そういうわけで、再び、……みつは、テレポテーション!
……って、正しくは『テレポーテーション』、もしくは『テレポート』だってことくらい知っとるわ! 仁丹の射出機を作るのは面倒だから、こっちのネタにしたんだよ!
* *
エノバ商会に録音器を5個仕掛けて……効率化を図り、設置場所を絞った……、他の商家にも数個ずつ設置。そして今から、警備隊本部にも……。
普通、警察署に盗みに入る者は滅多にいないのと同じで、警備隊に侵入する者はあまりいないだろうから、警備はザルだと思う。だから、あまり心配はしていない。
それでも、日本の警察署には忍び込む者が皆無じゃないかもしれない。拳銃とか、暴力団から押収したライフルや自動小銃、麻薬や金塊とかが保管されているところもあるからね。
でも、ここの警備隊本部には、そんなものはない。なので、こんなところに忍び込む馬鹿はいないのだ。
深夜に、昼間のうちに少し離れたところから双眼鏡で確認しておいた場所へと連続転移。
勿論、レオタードにヘッドマウント式の暗視スコープ装備。
わざわざレオタードを買わなくても、うちには似たようなものがあったんだけどね。
……中学と高校の時に使ってた、スクール水着。
中学の時のも、普通に着られたよ、うん。
うるさい! 何も言うな!!
で、レオタードとスクール水着の違いは……、あまりない。
材質もデザインも、動きやすいこと重視という点も、似たようなものだ。
……まあ、水着は濡れること前提だから、透けるのを防ぐためにクロッチや裏地がつけられていたりするから、全く同じじゃないけど……。
とにかく、見た目は同じようなものでも、19歳にもなってスクール水着で外に出るなんて真似ができるはずがないよっ!
まあ、レオタードでも大して変わらないけれど、『レオタードを着た19歳の女性』っていうのと、『スクール水着を着た19歳の女性』、新聞記事になった時の痛さを較べると……、って、この世界にはまだ新聞はないし、人目に付かないことが前提だから、関係ないよ!!
防御力からすればスクール水着の方が上なんだろうけど、そこはほら、イメージ的な問題で……。
とにかく、昼間視認したところへ転移した後、そっと奥の方へ。
万一見廻りが来たとしても、向こうは灯りを持っているだろうから、こっちが先に、かなり早く視認できるはずだ。
監視カメラや赤外線警報装置とかがないのは、助かるねぇ……。そして、侵入者なんかいるはずがないと楽観視してくれている連中も……。
広い部屋やオープンなところで秘密の話をするはずがないから、来客用の部屋とか、偉い人の事務室と思われるところとかに録音器を設置。
あとふたつくらいかな、と思って部屋から出ると……。
「ばっ、化け物!!」
突然、剣を抜いて男が斬り掛かってきた。
テレポ~~トっっ!!
「ぜは~、ぜは~……。い、いったい、何が……」
とりあえず、日本の家に転移した。
いや、連続転移で子爵邸や雑貨屋ミツハに行くわけにはいかないからね。子爵邸はコレットちゃんや使用人達が、そして雑貨屋ミツハはサビーネちゃんや第二王女、ルーヘン君とかがいる可能性があるから、こんな恰好で出現するわけにはいかないよ。
……運が悪かった。
まあ、先程の件は、そのひと言に尽きるのだろう。
たまたま、宿直か何かの者が見廻りかお手洗いか、喉が渇いて水でも飲もうとしたか、とにかく灯りを持たずに廊下を歩いていた。そしてそこに、私が録音器の設置を終えた部屋から出てきたわけだ。ドアを開ける前によく確認せず、いきなり……。
でも、いくら怪しい侵入者を見つけたとはいえ、非武装なのが丸分かりの、未成年に見える女の子だよ? いきなり斬り掛かる?
普通、誰何するよね、『何者だ!』とか、『動くな! 怪しい奴め!』とか……。
そして、捕らえて正体と目的を吐かそうとするのが定番だよね? なのに、問答無用でいきなり斬り掛かってくるとか……。
レオタードを着ているのは、勿論動きやすくて服が家具に引っ掛かったりしなくて擦過音もしない、というのもあるけれど、最悪の事態、つまり発見された瞬間に斬り掛かられるのを防ぐというのが大きな理由だったんだ。ほんの数秒あれば、楽々、安全に転移で逃げられるから。
なのに、いったいどうして……。
とにかく、一瞬で汗びっしょりになっちゃったから、シャワーでも浴びるか……。
そう思って洗面所へ向かい、鏡を見ると……。
「あ~、確かに『化け物』だ……。そりゃ、警告なしでいきなり斬り掛かってくるわな……」
レオタード姿でヘッドマウント式の暗視スコープを付けた姿は、向こうの世界の人には化け物に見えても仕方ないな、うん。
自業自得かよ、コンチキショーめ!!




