表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
273/518

273 帝国の興亡 9

「アピア!」

「ぎゃあ! ……って、ミツハ様! 神兵様方は? あま浮舟うきふねは? 戦いの結果はどうなりましたか!」

「痛いよっ! 放して!!」

 両肩を思い切り掴まれてガクガクと揺すられたんじゃ、たまんないよ!


「あ、ごめんなさい……」

 突然現れた私を見て一時的に興奮していたレミア王女は、すぐに落ち着きを取り戻してくれた。

 まあ、結果を今か今かと待ちくたびれているところに、天の浮舟(汎用ヘリ)で戻ってくると思っていた私が転移でひとりで戻ってきたら、そりゃ慌てるか。『全滅して、ひとりで転移で逃げてきた』って思うのも無理はないし……。


「戦いの結果は、完敗……」

「ぎゃあああああ~~!」

「……敵軍が。うおっ!」

 やべぇ。本気で殴りかかってきやがった!

「ごめん、悪かった! 勘弁して!!」


 いや、ホントに、今のは私が悪かった。

 世の中、言っていい冗談と言っちゃ駄目な冗談がある。

 ……そして今のは、明らかに後者だ。

 国の存亡、国民の生命財産、そして私の命を心配しつつ、ただ待つこと以外何もできず悶々として神に祈っていたであろうレミア王女に、アレはないよねぇ……。

「ホント、悪かった! ごめんなさい!」

 本気で謝る私に、レミア王女は再び急速に落ち着きを取り戻した。さすが王族、鉄の自制心か!


「……いえ、私の方こそ、大人気おとなげない真似を……。

 分かっております、私も一応、軍を率いるための教育は受けておりますから。

 戦場における恐怖と罪悪感。心に傷を受ける者、そして精神に異常を来す者……。

 それらをはね返し、吹き飛ばすには、殊更に明るく振る舞って、笑い飛ばすしかないことを。

 特に指揮官は、不安や弱気を見せることは厳禁。いくら辛く悲しくとも、冗談を言って笑っていなければならないということは、上に立つ者の仕事のひとつであり、そうすることが義務なのです。

 そして、無理に感情の高ぶった状態(ハイパー)になると、急には戻れないことも知っております。私も……」


 あ、そうか。レミア王女も、敵対勢力の親玉達に死罪を命じ、そしてその処刑に立ち会った、って言ってたな。……それが自分の家臣に死を命じた者の義務だ、って……。

 そして今も、軍を纏めて王都の前方に展開させている。

 さすがに、他国の少女ひとりに任せて自分達は何もしない、ってわけにはいかないだろう。

 私達の敗北に備えて、及び私達が大打撃を与えた敵の残存兵力が帝国へ引き返すことなく、王都目掛けて突入してくる場合に備えて、ちゃんと敵の侵攻ルートに合わせて兵を配備し、遅滞防御の態勢を整えている。


 なるべく時間を稼ぎつつ敵に出血をいて、最後には城に逃げ込んで籠城戦。

 勿論、周辺の住民達は全員、金目の物と食料を持って避難させ、人的被害も、そして敵に金や食料を提供させることもない。

 略奪が目的の徴募兵とか、怒り狂うか意気消沈、というわけだ。


 尤も、まだ住民達を避難させたわけじゃない。完全装備で輜重部隊を引き連れた軍隊より速く移動することは大して困難じゃないからね。私達の失敗を確認してからでも、充分間に合う。なので、持って逃げるものを纏めておくよう指示し、準備をさせているだけだ。

 そもそも、籠城したこの城をパスして避難民を追いかけるような侵略軍はいないし。

 とにかく、レミア王女も『覚悟はできている』し、本来私は戦争の陣頭指揮を執るような立場の人間じゃない……ただの元王女で、現子爵家当主。戦闘は領軍指揮官に丸投げ……と思っているだろうから、私がかなり無理をしていると考えているのだろう。


 私は天才じゃないから、敵味方ひとりも傷付けずに戦争を止めることなんかできない。

 でも、敵の命を尊重するために味方の兵士や一般民衆を大勢死なせる程の馬鹿じゃない。

 敵兵100人の命より、味方10人の命を優先する。

 だから、私が自分で選んだ行動に関しては、何があろうと後悔しない。

 それはその時に、手持ちの情報と手持ちの兵力を使ってできる最善手を選んだ結果だから。

 情報不足や入手した情報が間違っていたり、選んだ方法が間違っていたりして失敗しても、それはその時の自分が考えた末の結果だから、後悔する必要はない。

 ……その時にするのは、後悔ではなく、反省だ。失敗を次に活かせるようにするための、反省。


 大勢死なせた。

 でも、両国の軍隊が正面からまともにぶつかって戦い、そして街や村が次々と襲われ略奪され蹂躙じゅうりんされることを思えば、ずっとマシだっただろう。

 この国の兵士や一般市民は勿論だけど、帝国軍の兵士も、普通にこの国の兵士と戦えば、最終的には勝利を収めるにしても、その戦いでの死者は確実に今日の死者を大幅に上回る。

 そして実際の死傷者数が少ないにも拘わらずなるべく『次の戦争』が起こりにくくするためには、圧倒的な力の差と、敵側には神か悪魔が味方している、と思わせるのが一番だ。


 そのあたりのことは、うちの国との戦いで学んでくれなかったのかなあ。

 最前線で全てを見ていた上級士官達はみんな死んで、帰国できなかったのかな。帰路はうちの追撃部隊やら騙されたと怒り狂った魔物やらで散々だっただろうし……。

 もしくは、無事帰国できたけれど敗戦の責任を問われて粛清されたとか、報告内容を信じてもらえず敵前逃亡で粛清されたとか、国民の怒りを向けるデコイとして使われて粛清されたか……。

 大変だな、偉い軍人さんは……。


 レミア王女は、黙って私を見ている。

 ……私がしがみついて、わんわん泣くとでも思っているのかな?

 いやいや、私はちょっと前までは日本の普通の女子高生だったけど、今は個人事業主にして子爵家当主、ミツハ・フォン・ヤマノだ。他国の王族の前で泣いたりしないよ。今日のことは、数日前から覚悟していたし、友好国の人達の命を護るための行動だ。

 私が何もしなければ、もっと大勢が死んでいた。それも、その大半は敵兵ではなく、この国の普通の住民たちだ。

 神様的には、これは大量殺人なのか、正当防衛なのか、それとも正義の戦いなのか。


 ……どっちでもいい。

 別に、私は神様に媚びを売りたいわけじゃない。

 ただ、大同盟の国々を次々と食い荒らしていく帝国を止め、友好国と自国の将来を守っただけだ。私が手出ししなかった場合より、遥かに死傷者が少なくなる形で。


「周辺各国への救援要請は?」

 話を進めよう。事後報告会デブリーフィングまでにはウルフファングの本拠地へ戻らなきゃならないのだから。

「勿論、帝国軍が国境を越えることがほぼ確実となった時点で、早馬を出しています。何カ国が応じてくれるか、そしてどれだけの兵力を出してくれるかは分かりませんが……。

 それで、帝国軍の状況はどうなっておりますか? 先鋒部隊の2~3割くらいは削れたでしょうか?」

 レミア王女が、そんなことを聞いてきた。

 う~ん、うちの国での『王都絶対防衛戦』の情報、手に入れているはずなんだけどなぁ……。

 さすがに、ヘリ2機だけだとあの時より戦力がかなり少ないと思ったか……。

 まあ、あの時も人的被害は少なかったからなあ。帝国軍の被害の大半は、王都前での戦いではなく、撤退中の追撃によるものだし……。


「死者は、おそらく数百名程度だと思う」

「…………」

 うん、それくらいだと、全兵力から見れば、ごく僅かだ。数百人が戦死したくらいで潰走するような軍隊は、……いや、いないわけじゃないだろうけど、そう滅多にいるもんじゃない。

 そして帝国軍は規律が厳しく、そんなに簡単に敗走するような軍じゃない。なのでその程度の被害を与えただけで私が『敵が完全敗北』とか言っても、レミア王女が簡単には信じられないのも無理はないけど……。

 それくらいの被害なら、殆ど影響なく侵攻を続けるはずだと思うよねえ、普通は。


「とにかく、帝国軍の指揮系統が壊滅、帝国軍は現在、国境方面へ向けて潰走中。急いで各国に『我が軍の完全勝利。援軍の要なし』って連絡しないと、無駄足踏ませて、礼金の額がかさむよ?」

「え?」

「いや、援軍を動かすとお金がかかるだろうから、お礼の金品をたくさん送らなきゃならなく……」

端金はしたがねなんかどうでもいいですよっ! 潰走? 完全勝利? あのあま浮舟うきふね2隻だけで?」

 愕然とした表情の、レミア王女。

「いや、地上要員も6名ほど使ったけど……」

 まあ、レミア王女から見れば、大して変わらないか。


「えええええええ! それじゃあ、うちの兵の出番は……」

「なし」

「何じゃ、そりゃあああ!! お手伝いだけで、主役はうちの兵士達、って話だったのでは……」

「あ」

「あ、じゃないわよ、あ、じゃ! これじゃ、うちは他国の貴族に丸々助けてもらっただけの弱虫、苛められっ子じゃないですか! 他国に舐められちゃいますよっ!!

 ……いや、ありがたいですけど。まともに戦っていたら、他国からの援軍が来てくれるまで籠城が保つかどうか分かりませんでしたし、そもそも、援軍を出してくれる国がどれだけあったか……。

 以前であればお父様のお力で何とかなったかもしれませんが、私は所詮小娘ですし、謀反未遂があったことも国としての信用を大きく落としていますから……。

 そして、戦えば多くの兵士が死に、巻き込まれる住民も出たことでしょう。

 それが、少し国境近くの村々と土地を荒らされただけで、被害が極少、人的被害に至ってはほぼゼロとなると、それはもう、土下座か五体投地をすべきところなのですが……。それはよく分かってはいるのですが……」


 興奮したのか、言葉遣いに少し地が出ているレミア王女。

 でも、言ってることは、納得の内容だ。こりゃ、私が悪かった。

 そりゃそうだよねぇ、国の面子ってものがあるよねえ……。

 でも、国の面子やら、自国の兵士達も戦ったという演出のために味方の兵士を無駄に死なせるのも、何だか胸くそが悪い。それこそ、敵の兵士を殺すのの何倍も、何十倍も……。

 そんなことで死んだ兵士の遺族の顔を真正面から見られるか?


「ごめん。私も、最初は自分達だけで終わらせるつもりじゃなかったんだ。

 でも、この国の兵士に無駄死にしてもらいたくなかったんだ。戦って死ぬなら、それが本当に必要な時と場所で、納得のできる死に方をしてもらいたいと思うの。この国のために、そして守るべき人達のために……」

「…………」

 ここは、何とか納得してもらいたい。

 あ、そうだ!


「この国の兵士も戦った、ということにすれば……」

「下手な嘘を吐いてバレたら、それこそ笑いものになって、信用ゼロになりますよっ!

 それも、他者の戦功を奪うなど、王族としても貴族としても軍人としても、いえ、人間として最低の行為じゃないですか! それこそ、国の名誉も信用も失墜して、国が潰れちゃいますよっ!!」


 駄目か……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 侵略者から国を守る以上に本当に必要な戦いなんてあるんだろうか?ミツハのせいで起きた戦争でミツハが責任取って終わらせたってわけでもないし
[気になる点] 参加人数からするとこれは威力偵察と呼ぶのでは? [一言] ミツハ「今回に実弾演習では先方の粋な計らいにより動くマトが多数準備されている、諸君らも存分にスコアを競い合ってくれ」
[一言] 他国の王族の前で泣いたりしないよ。 …自国の貴族の前ではワンワン号泣したのに…。 ミツハ「う、うるさいわ!」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ