268 帝国の興亡 4
今回の戦い、地球のどこかの国に頼めば、軍を出してくれる可能性は充分にあった。
……勿論、無料で。お金の代わりのことは要求されるだろうけど。
そりゃ、先進国には『関係のない他国への派兵』、『一方的な虐殺』、『侵略行為』として許されない行為だろうし、使った経費の説明や、こちら側に死傷者が出た場合の説明とかで、国民に内緒で、ということは不可能だろう。
でも、国によっては、そんなの関係ない、ということで、指導者の一存で派兵してくれるところもあるだろう。
だけど、そんな『対価目当て』、『兵士の実戦訓練代わり』とかで調子に乗られちゃ堪らない。
傭兵団も似たようなもの、と言われるかもしれないけれど、傭兵は私が『雇った』連中だ。
勝手なことや、私が指示した以外のことはやらせないし、万一の場合は、私が『止める』。
それに、傭兵は雇った私の『道具』だ。
何があっても、責任は道具の使用者である私にある。
だから、私の指示より優先度が高い命令を他者から受けて勝手に動くような、私の完全管理下にない『思い通りに動かない可能性がある道具』なんて、怖くてとても使えない。
……後で何を要求されるかも分からないし。
これが、本当に強大な戦力を必要とする戦いなら、それもやむを得ないかもしれない。私の大事な人達を守るためなら、なんでもする。
人の命は皆平等?
いやいや、盗賊や敵の兵士の命より、うちの国民の命の方がずっと大事だよ。当たり前じゃないの。
でも、まだ、そういう事態じゃない。
まだ慌てるような時間じゃない、ってヤツだ。
「分かった。その金額でお願い。出撃日は未定だけど、大丈夫? もう向こうは軍を動かしてるから、あとは移動日数だけの問題なんだけど……」
「大丈夫だ。一応、歴史書とかを読んでああいう時代の軍隊については調べておいた。まだまだ充分な日数的余裕があるんだろう? まぁ、異世界行きより優先するような重要事項は存在しないからな、日程については心配するな」
「あ、うん……」
そりゃそーか。
あとは、5人の人数枠を争って、大事にならなきゃいいけど……。
6人じゃないか、って? いや、隊長さん、絶対に自分を入れるでしょ。
金貨100枚賭けてもいい。
……賭けになりませんか、そうですか。
* *
「アピア!」
「ぎゃあ! ……って、ミツハ様!」
「『様』は無しで!」
「あ、すみません……」
ゲゲゲ……レミア王女のところへ転移。
他の者には見つからないように、直接王女の部屋に出現した。
さすがに、今日は私ひとり。サビーネちゃんは連れてきていない。
今日は『大人の話』だからね。なのでサビーネちゃんは抜き。
……『サビ抜き』なら子供用だろう、って?
うるさいわっ!
「ようこそお越しくださいました! 必ずお助けくださると信じておりました!」
胸の前で両手を組み、うるうると瞳を潤ませる、レミア王女。
きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。演技なんだぜ。それで。
……誰が『たっちゃん』かっ!
「レミア殿下をお守りするとは言ったけど、戦争に首突っ込んで国を守るなんてひと言も言ってないよ!」
「既に、雷の姫巫女様が御協力くださると国民に告知しております。ゲッゲッゲッ!」
「開き直りやがったぞ、コイツ!!」
くそっ、完全に嵌められた!
ここで何もしなければ、『雷の姫巫女』の名が地に落ちる。
「ぐぬぬ……」
まぁ、最初から手伝うつもりなんだけどね……。
「それが約束の範囲外、ってことは分かってる?」
「は、はい……。でも、国民のためには、仕方なく……」
一応、分かっちゃいるのか。
それに、王族、それも国王代行となれば、他国に犠牲を強いてでも自国民は助けたい、と考えるのは当然だ。それが、この国にとっての良き国王なんだろう。
……割を食わされるこっちは、堪ったもんじゃないけどね!
そして、そんな他人の勝手な思惑に乗ってやる必要はない。こっちはこっちで、他国の国民より自国民の方がずっと大事なんだから。
で、普通なら断ってもいいんだろうけど、まぁ、レミア王女も色々と苦労しているだろうし、一応私も『お友達』だからねぇ……。サビーネちゃんに引き込まれて、今じゃレミア王女ともタメ口というか、向こうが少しへりくだったような話し方をしてくる。
王女より御使い様の方が上位だと思っているのかな? 友達として対等に、ってことで話がついたと思っていたのに……。
……って、アレか!
今回、女神の御使いである『雷の姫巫女』としての私を担ぎ揚げるために、私を自分より上のポジションに置いて、自分と私の2本立てというか二枚看板というか、とにかく人心の掌握を強化して、そして万一の時にはこっちにおっ被せるつもりなんじゃあ……。
このヤロウ……。
「いくら国民に告知済みでも、私が『そんな話は聞いていない』、『守るという約束はレミア王女殿下個人に限定したものだ』と言えば済むんだよ? そしてその結果は、レミア王女殿下が嘘吐きとして名を落とすことになるだけだよ」
「うっ……」
あ~、そんな、泣きそうな顔をされちゃあ……、って、これ、絶対演技だ!
サビーネちゃんが時々使うやつ!
どこかで、お姫様にこういう技を伝授する講習会とか通信教育とかがあるのかな? テキストはバインダー式で……。
王族、恐るべし!!
「サビーネちゃんで慣れてるから、その技は効かないよ!
でも、まぁ、仕方ないからお手伝いするけど……。
但し、『お手伝い』だよ、『お手伝い』! メインはこの国の軍隊にやってもらうからね、いい?」
「は、はいっ!」
「そして、私の故国からの支援を仰ぐ場合、移動、御神器に込められた神力の消耗、その他諸々で、かなりの経費がかかるよ。それは賄ってもらえるの?」
「はい、それは勿論……。いくら何でも、そこまでの恩知らず、恥知らずではありませんわ」
おや、本当にお金は払ってくれるつもりだったらしい。
まぁ、当たり前か。これでお金を出さないとか言われれば、さすがに私もこのまま引き揚げる。
さて、払うとは言ってくれたけれど、いくら払ってくれるか分からないのは怖い。
かといって、これから戦費が嵩み、農地が荒らされ人的被害も出るであろうこの国にどれだけ要求すればいいのか分からない。私に、この世界での戦争に必要なお金の額なんか分からないし……。
相場が分からない。
無茶な金額になって国民に負担をかけたくない。
かといって、あまり安くして舐められたり、以後も気軽に支援を求められたりしても困る。
そして、私が赤字になるのも願い下げだ。
レミア王女は、個人としては決して悪い人じゃないし、お友達としては誠実な子なんだけど、『国王代行』としてのレミア王女殿下は自国民の利益最優先であり、そのためには自分の個人的な主義や望みは後回しにする。
……そう、たとえ私に呆れられ、嫌われるかもと思っても、国のためならば何でもやるだろう。
まぁ、今は私との関係が切れることは国益を損なうから、そう無茶は言わないだろうけど……。
あ、そうだ!
「では、いくら払ってもらえる? その予算内で収まるように御神器の数とかうちから出す兵の人数とかを決めるから」
「うっ!」
あ、コイツ、『マズい!』って顔してる!
やっぱりなぁ。安くあげようとか考えてやがったな……。
でも、国民を大事にする王女様だ。こうなると、ケチるわけにはいくまい。
私の協力を得ることと、私への支払いを安くあげること。今までは、その双方が国民のためになるはずだった。
でも今は、私への支払いを安くあげること、イコール支援戦力が減って戦いが長引き、多くの兵士が死に、農地が広範囲に荒らされる、ってわけだ。
財政が破綻しないよう、上手く加減を見て決めてね。
「ひとりじゃ決められないでしょ。あとで財務担当の大臣とかと相談してね。
じゃ、またね。あ、連絡は『つうしんき』でサビーネちゃんにね。敵の進軍速度や国境到達日の見積もりとかは、随時、最新情報を送ってね。それに間に合うようにうちの戦力を配備しなきゃならないから。情報の速さと精度が被害の大小を決めるのよ、分かってる?」
先程の私の言葉……支援戦力は金額次第……に大ダメージを受けてピヨっているレミア王女の両肩を掴み、揺すってみた。
……強請って、ではない。
「……はっ! あ、は、はい、それは充分承知しています。戦いは、情報が命! 僅か1行の情報が、1000の兵士を上回る力となることもありますから……」
うむうむ、ちゃんと理解しているか。
いや、この国が我が国の防波堤となってくれるように、少し教育しておいたのだ。
さすがに、『雷の姫巫女様』からの戦略論のレクチャーは真面目に聞いてくれたか……。




