266 帝国の興亡 2
「……どうしましょう……」
そう言って、王様の方を見ると……。
「調子に乗って、あのような約束をするから……」
そんなことを言われた。
……いや、何だよ、それ! レミア王女の立場を固めるために、って、コーブメイン伯爵が言ったじゃん、『何か、レミア王女殿下に個人的に友誼を結ぶようなことを言ってくれ』って!
うちの国が既に情報を掴んでいるのだから、レミア王女のところもとっくに情報を得ていたはずだ。この大陸の軍事レベルで、大軍を動かすのに完全秘匿なんかできるはずがないからね。草(現地定住型間諜)の数人でも置いておけば丸分かりだし、軍や貴族にも内通者がいるだろうし。
おそらく、帝国の狙いが自国であることの確証を得て、私の利用方法をじっくりと検討して、満を持しての、この連絡なのだろう。前回の定期連絡の時には、この件には全く触れていなかったらしいけれど、多分その時にはもうあらかたの情報は揃っていたに違いない。
……そう、あの王女殿下は、かなりの遣り手なのだ。奸臣達が煙たがり、排除したいと考えるくらいには……。
私達やうちの国に対して悪意があるわけじゃないのだろうけど、私にとってこの国の人達が『自分の次に』大事なのと同じように、レミア王女にとっては、私やうちの国よりも、自国の国民の方が大事に決まってる。それも、下手をすると、私とは違って『自分の命より大事』とか言いかねない。
国民を守るためなら、土下座だろうが他国から非難されるような行為だろうが、平気でやりかねない。そういうヤツは、自分の名誉とお金、そしてプライドを優先する『分かりやすい連中』より、遥かに面倒で、行動が読みにくい。
「大変なのに目を付けられた……」
がっくりと肩を落とす私に、王様が非情の言葉を投げかけてきた。
「脇が甘いからだ。……そして、自業自得」
「いや、あれは命じられた仕事の一環だから、公務遂行上の被害ですよ! 上司がフォローすべき案件です、絶対!!」
くそっ、全部私のせいにされて堪るか!
「レミア王女の立場を強化するよう努め、それに沿った発言をするように、と使節団長を介して私に指示を出したのは、陛下御自身ですよね? つまり、私は陛下の御命令によってあのような発言をしたわけです。なので責任は、部下にそうするようにお命じになった、陛下にありますよね?」
「ぐっ……」
ふはは!
私は、一時は高卒での就職を考えたこともあるのだ。新入社員が上司に失敗の責任を擦り付けられそうになった時にやり返す、『サラリーマンざまあ小説』くらいは読んでるよ!
……でも、『ざまあ返し』をされて形勢逆転、ということもあるから、気を付けていないとね。
「まぁ、レミア王女に対してそれを口にしたのは私ですし、『国とは関係なく、そしてミツハ・フォン・ヤマノ子爵としてではなく「ミツハ」という名のひとりの人間としての、私自身が』と言いましたから、陛下や国軍にどうこうしてもらうつもりはありませんよ、勿論。
自分にできる範囲で、少し協力する程度。そしてもしレミア王女が望むなら、弟の王子殿下、宰相達を連れて『渡り』でここへ移動します。
……ただの亡命者ではなく、『亡命政府』を受け入れるお積もりはありますか?」
私の問いに、ほんの数秒間考えた後、王様ははっきりと断言してくれた。
「うむ、その場合には、受け入れよう」
まぁ、それ以外の回答はないだろう。
正統な王位継承者を帝国側に押さえられれば、適当な口実……現国王陛下を殺害して、『新国王からの要請により、反乱勢力に対する治安維持のため派兵した』とか、『同盟を結んだ』とか……で傀儡政権を立てられたり、国を併合させられたりして、国が帝国に飲み込まれるに決まっている。
そして、その次に、他の国が狙われるに違いない。
その点、うちが王女と王子の両方を押さえていれば、侵略者から祖国を奪い返そうとする王族の姉弟を神輿に担いで周辺国が兵を挙げることにより、完全に『正義は我に有り』状態となり、レミア王女の国の国民達もみんな、こっちに味方してくれるだろう。
帝国軍を追い払った後は、レミア王女と王子で政権を立て直すか、それともうちや周辺国が『あまりにも大きな貸し』を盾にして口出ししまくったり、『帝国からの再侵攻に備えるため』と称して軍隊を駐留させたりするのか……。
その辺の細かいところは私には分からないし、どうでもいい。少なくとも国民達にとっては、帝国軍に占領されて地獄のような日々が続くよりは、ずっとマシだろう。
そして、陛下にはもうひとつ、了承してもらわねばならないことがある。
「陛下、もうひとつ、お願いがあります。『ただの、ひとりの人間、ミツハ』としてだけではなく、『ヤマノ子爵領領主、ミツハ・フォン・ヤマノ』としての私にも、レミア王女の国、ダリスソン王国を支援する許可をいただきたいのですが……」
そう、王様にその許可をもらえば、色々と言い訳しなくても堂々と手出し、口出しできるし、うちの領軍を使うこともできる。
……まぁ、ただの農民にすぎない一般兵を他国の戦場に出すつもりなんか、欠片もないけどね。
指揮官のヴィレムさんと、士官達……スヴェンさん達、4人……に、少し手伝ってもらう程度だ。
私ひとりだとちょっと大変、というか、取れる手段の幅が極端に狭くなっちゃうからね。こういう場合には、選択肢は多くなくちゃ駄目なんだ。
「ん? ああ、それは別に構わんが……」
よし、言質、ゲット!
現地での行動について、言質を……、って、うるさいわ!
多分、王様は私がまた『神兵』を呼ぶとでも思っているのだろうな。
前回は時間がなかったから色々とアレだったけれど、根回しの時間さえあれば、前回ほどの兵力ではなく少数であれば転移で、あるいは小型の高速船で、とか考えて……。
まあ、うちの領軍のショボさは当然把握しているだろうから、そんなのを連れて参戦しても大勢に影響はない、ということは、馬鹿でも分かるよねえ。
だから、『今回は、既に捨て去った昔の身分である異国の王女としてではなく、今現在の身分である、我が国の貴族として戦いに赴きたいという、健気な意志の表明であろう』とでも思っているのだろう。
まあ、それは決して間違いではないけれど……。
* *
「隊長さん、ヘリ、飛ばせる?」
「また、急に何を……」
うん、ウルフファングの本拠地にやってきて、最初に尋ねたのが、これだ。
「うちには、ヘリはない。飛ばせるヤツがいないし、ヘリは維持整備が大変だからな。ただでさえ金食い虫だし、墜落でもされた日にゃあ、大損害だ。ありゃあ、国の軍隊か、余程金回りのいい大きな組織か、ヘリ会社にコネのある奴らしか使わねぇよ。
そもそも、ヘリなんか使うのはちょいと規模の大きい戦いの時だから、そういう時には正規軍が出すからな。うち程度のとこが自前で出しても、一番危険な役をやらされて使い潰されるだけだ。割に合わねぇよ。
……んで、何だ、その……、要るのか?」
「うん……」
「しょうがねぇな、用意しといてやるよ……。
他の傭兵団のヤツに頼むことになるが、いいか?」
「うん、お願い!」
ウルフファング以外の、他の傭兵団の者に頼むとなると、信頼関係とか報酬額とか、色々と問題があるだろう。だから確認してきたのだろうけど、隊長さんが選ぶ相手なら、まぁ心配ないか。
「但し、元々戦闘用として造られた攻撃ヘリは無理だぞ、あんな馬鹿高いもん……。輸送用ヘリに武器載っけたやつが精一杯だが、それでいいのか?」
あ~、アパッチとかコブラとかの、戦闘ヘリは無理かぁ。汎用ヘリや輸送ヘリに機銃付けたり、搭乗している兵士が自動小銃で撃ったりする、『武装ヘリ』ってやつになるのか……。
攻撃専用じゃなくて、後付けで武装をくっつけただけだから、『武装ヘリ』、ね……。
でもまぁ、敵側には地対空ミサイルも対空機関砲もないんだから、充分な高度を取って弓矢の有効射程外に居れば、問題ないか。
民生品のピックアップトラックとかの車体に重機関銃や機関砲、無反動砲とかを積んだ、『テクニカル』って呼ばれている即製の武装車両と同じね。
……欠点は、紙装甲、ってことだけど、ヘリは元々脆弱だから大して変わらないし、対空兵器が皆無の相手ならば、問題ない。当たらなければどうということはない、ってやつだ。
「あと、分隊支援火器を10挺くらい。長時間の連続射撃に耐えられるよう、簡単に銃身の交換ができるやつ。勿論、ベルト給弾で。口径は5.56ミリ。あと、擲弾筒。どっちも、弾数はたくさんね」
あ、念の為に、一応あれも用意しとくか。
「それと、携帯式の対空ミサイルを3つくらい」
「…………」
隊長さんが、黙り込んで私を見詰めてる。
うん、最後の注文は、明らかに『裏切ったヘリを撃墜するため』だもんねぇ。
ま、知らない人に対しては、警戒するに越したことはないだろう。『ヘリに満載した現代兵器で、異世界で俺TUEEE!』とかを企まれちゃ、堪らない。
いざとなれば私が転移で『地球の、海の中』とかにお連れすれば済むけれど、それを防ぐために最初に私をヘッドショット、とかされたら困るからね。
その時に、残されたウルフファングの人が確実にヘリを潰すことができるようにしとかなきゃ。
いくら、そうなる確率がとても低いだろうとはいえ……。
そんな僅かな武器と人数では、どうせすぐにすり潰されるとは思うけれど、たとえ短期間とはいえ、私のせいでそんな連中に好き勝手されるわけにはいかない。
そう、常に安全策を講じるのが、山野家のやり方だ。
それは、日本でも、そして異世界においても、変わることはない。




