265 帝国の興亡 1
「で、どうするの、姉様」
「いや、どうする、って言っても……」
そう、どうしようもない。
帝国は、他国。
ダリスソン王国も、他国。
この国が侵略されたなら、この国の貴族として、そして大切な人達を守るために、『私の身に危険が及ばない範囲で』働くつもりはある。
でも、他国同士の戦いに、勝手に手出しする理由も、その必要もない。
ダリスソン王国とこの国は、友好国ではあるけれど、別に安全保障条約とかを結んでいるわけじゃない。だから、片方が戦争を始めたからといって、無条件で参戦するというような義務はない。
そして私がレミア王女殿下に個人的に約束したのは、殿下が個人的に危機に陥った時に助ける、っていう約束だ。別に、国が戦争する時に味方する、っていうような意味じゃない。あれは、国内の危険分子に対しての圧力であり、威圧効果を狙ったものだ。
そう、『他国からの侵略だろうが、魔王軍だろうが』って言ったけど、あれは『それらから、レミア王女殿下を護る』ということであって、国や国民全部を護るってことじゃない。私とレミア王女殿下との約束であって、国との約束じゃないのだから。
使節団としての約束も、開発した装備品の優先的な配備を図るよう考慮する、というだけのことであって、軍事的な協力とかは関係ない。
そもそも、個人的な『レミア王女殿下を護るという約束』とは違って、他国との戦争に関与するというようなことは、王国の、つまり国王陛下の指示がないと許されない。
御使い、姫巫女様として個人を助けるのはいいけれど、他国の戦争に横から勝手に手出しするのは、さすがにマズいだろう。私は一応、この国の貴族なのだから……。
なので、私にできることといえば、王宮に敵兵が乱入する寸前にレミア王女殿下を転移で救出、御希望の亡命先へとお連れする、ということくらいかなぁ。
あ、勿論、希望されれば弟の王子殿下やお付きの人達も一緒に。
ま、とりあえず、王様に会って、話を聞くか……。
* *
「というわけで、お話を聞きに来ました」
ここは、勝手知ったるサビーネちゃんの家。
……つまり、王宮だ。
そして、王様とお話。
「私に何ができるというわけでもないですけど、一応、状況を把握しておきたくて……」
私の言葉に、何やら複雑そうな表情の王様。
いや、別におかしなことは言ってないよね、私……。
「他国同士の話ですけど、ゲゲゲ姫の国は一応『大同盟』のメンバーですから、それが戦争に負けて敵対国に占領、併合されるのは『大同盟』としてはマズいんじゃないですか? それに、あの国を手に入れたら、次の国が狙われるのでは?」
そう言って、王様にどうするつもりか聞こうとしたら……。
「ゲゲゲ姫? 何じゃ、それは? 妖怪変化の類いか?」
あ~、それはサビーネちゃんと私の間でしか通じない呼び名だったよ……。
「ええと、レミア王女殿下のことです」
「……よそでその呼び名を口にするなよ。いいか、絶対にだぞ。フリじゃないからな!」
「……勿論、分かってますよ……」
「その『間』は何だ、その『間』は!!」
うるさいなぁ……。
「……とにかく、ミツハは勝手に手出しするな。何かしようと思った時は、必ず、事前に相談すること! いいな!」
「はい、それは勿論……。
あ、緊急時にゲ……レミア王女殿下を『渡り』でお救いすることだけは、勝手にやらせていただきますよ」
「うむ、それは仕方ない。王子殿下と宰相達も一緒で構わんぞ」
うん、それだけいれば、亡命政権が樹立できるだろう。
王子殿下が捕らえられたら、向こうに正統な王位継承者を押さえられちゃうわけだから、姉弟セットで助けないと意味がない。
いや、『レミア王女殿下をお救いする』ということに意味がないわけじゃないけれど、国の未来、国民の幸せ、という観点から見ると、ね。
元々、私ひとりで敵を殲滅、ってわけにはいかない。
いや、物理的にはできるかもしれないよ、そりゃ。またウルフファングのみんなを雇ったり、敵軍の本陣の上空に大岩を転移させたりすれば……。
でも、やむなく降りかかった火の粉を払うというわけでもなく、好き好んで自分から人を殺しに行く必要はないだろう。別に、私は殺人狂というわけじゃないんだから。
そういうのは、自分と大切な人達を護るためにやむなく、って時だけで充分だ。
「姉様、レミアから連絡が来たよ!」
王様と話をしていたら、サビーネちゃんがやってきた。
うん、今回は色々とデリケートな話題なので、王太子殿下も一の姫様もサビーネちゃんも抜き、私と王様と宰相様だけの『ただの世間話』だったのだ。
なのに、サビーネちゃんがノックも無しで王様の執務室に乱入。
サビーネちゃん以外がやったら、たとえ他の王女殿下や王子殿下であってもかなり厳しい叱責は免れまい。
……でも、サビーネちゃんは、大抵のことは治外法権だ。
ちょっと、甘やかしすぎじゃないかなぁ。
ま、私も、人のことは言えないけれど……。
そして、今回は一応、緊急度の高い情報を持ってきたらしいから、誰も叱らない。
「定期連絡の時間じゃないよね?」
定期連絡は、3日に一度。今日は日も違うし、時間帯も違う。
「うん、姉様は王都にいるけど、念の為に数日前から神力スイッチは入れっぱなしにしてるんだ。レミアから時間外に連絡が来るかもしれないと思って……」
これだ。
さすが、サビーネちゃん。誰かに言われなくても、自分で考えて、適切な行動を取る。
悪魔のように細心に、そして天使のように大胆に……。
あ、レミア王女の方がずっと年上だし、王女としての在籍期間……生まれた時から王女の場合は、年齢……も向こうの方が長いし、王位継承順位も向こうの方が上だけど、うちの方が大国だし、何よりサビーネちゃんとレミア王女は『お友達』なのだから、サビーネちゃんは『レミア』と呼び、レミア王女は『サビーネちゃん』と呼ぶ。
そして、それに文句を言うような者はいない。
あんなに仲良さそうに話しているのに、『敬称を付けろ』なんて無粋なことを言うことができる勇者はいないよねぇ。レミア王女もサビーネちゃんも、不愉快にさせてしまった時のあの人を殺しそうな冷たい視線は、かなりクるものがあるし……。
「内容は?」
「帝国に不穏な動きあり、ミツハちゃんに約束の履行の準備をお願いしたい、って……」
「何じゃ、そりゃ~~!! あれは、レミア王女個人を護る、ってことで、それも国内の反対勢力を黙らせるためのリップサービスだってことくらい分かってるでしょうに!
いや、約束だから、そりゃ守るけどさ……
でも、自分だけ逃げ出すつもりでのその発言じゃないよね、それ……」
「勿論。わざと拡大解釈して、姉様の出陣を要求してるに決まってるでしょ。
……というか、私でも、この場合はそうするよ。少しでも自国の被害を抑え、他国からの支援を掻き集める。
面倒な交渉や、事後の国家レベルでの謝礼金や大きな借りを作ることなく得られる戦力。御使い様、つまり女神の眷属が味方をするという『正義の御旗』が得られる。そして、前回帝国軍と古竜、魔物達を粉砕したという神兵が参戦する可能性。
……そりゃ、形振り構ってる場合じゃないよ。全力でしがみついてくるに決まってるよ」
そう言って、肩を竦めるサビーネちゃん。
が~~ん!
くそっ、謀ったな、ゲゲゲ姫!!
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