264 あの人は今……
学者先生には、ウルフファングの隊長さんに管理を任せている私のメールアドレスのうち、異世界懇談会のメンバーに教えているのじゃない方、つまり大事なメールが大量のメールに埋もれないように別に用意した『特別な人用』のアドレスを教えておいた。
スイス銀行の口座を開く時に紹介者になってくれた人や、ギャラリーカフェ『Gold coin』がある国の『私に関することの担当者』の人とかに教えているやつね。
これで、何か用があれば連絡が来るだろう。
急ぎの用事なら、隊長さんの名義で契約して私が持っているスマホに隊長さんからメールが来るから、地球に戻った時点ですぐに分かる。
私は、しょっちゅう地球に戻ってるからね。
具体的に言うと、お風呂やお手洗いの度に。
いや、『雑貨屋ミツハ』にもお風呂やトイレはあるけれど、やっぱり、日本の自宅のと較べるとねぇ……。
そういうわけで、地球へ行く時には、『日本人、山野光波』として持っているスマホと、隊長さんから借りている形のスマホは必ず持っていくのである。トイレに行くだけの時にも。
習慣付けておかないと、多分、何日も忘れたままになっちゃうから。
うん、人間、そういうものだし、私は私自身を全く信用していないのだ!
うむうむ。
* *
「姉様、大変だよ!」
『雑貨屋ミツハ』に行くと、いつものようにサビーネちゃんが待ち構えていた。
今は鍵を持っているから、入り口前じゃなくて、3階でゲームをしながら。
そしてなぜか、第二王女殿下と第二王子殿下も当然のように一緒。
うちは託児所かっ!
……でも、サビーネちゃんの様子は、マジモードっぽい。
ただ待っているしかないから時間の有効活用としてゲームをしていただけで、用件そのものは本当に重要案件みたいだ。
「レベルは?」
「C-6」
「マジか……」
私がレベルを聞いた時は、冗談やおふざけでないことを確認する、という意味もある。だから、私がこういう聞き方をした時には、サビーネちゃんは絶対に嘘を吐かない。そういう約束がしてある。……私達の間での、互いの信頼に懸けて。
そしてCは『国レベルでの、人命に関わる場合。但し、自国ではない』、ということを意味し、数字は緊急度を表す。
6だと、まだここ数日以内というような話じゃないから、そう慌てなくてもいい。
それに、他国での話だから、手出しできないからどうしようもない場合が多いだろう。
自国でのことであることを示す『B』、自国を含む複数国や大陸規模でのことを示す『A』、そしてそれ以上である、人類存亡の危機に関わることを示す『S』とかでなきゃ、たとえ緊急度が高くても、所詮は他人事だ。
まぁ、今現在は他国のことだけど、その次に自国に廻ってくる、ってこともあるけどね。
大国からの侵略とか、魔物の暴走とか、疫病の発生とか……。
「詳細説明を!」
私のシリアスモードでの指示に、サビーネちゃんが説明してくれた。
第二王女殿下と第二王子殿下は、我関せずで、お菓子を咥えたままゲームを続けている。
……それでいいのか、サビーネちゃんより王位継承順位が上のふたり!!
「帝国の動きが、きな臭いの。国境や城塞都市の街門での検問の強化、領兵の移動、食料を始めとする軍需物資の流れ……」
うん、典型的な、戦争準備だねぇ。
そして、サビーネちゃんの話の中の『帝国』というのは、勿論、アレだ。
3頭の古竜をバックにつけてこの国に侵攻してきた、あの『アルダー帝国』ってやつ。
「でも、あそこはうちへの侵攻に失敗して大打撃、今はそれどころじゃないのでは?
当分は軍の立て直しやら失った武具の補充、無駄にした糧食の備蓄、そして浪費した莫大な予算を回復させなきゃならなくて、ヒイヒイ言ってるんじゃあ……」
「……だから、それらを一気に解決するために、大逆転を狙うんじゃないの? 分の悪い賭けに出るのは、後がない困窮者だけでしょ?」
「あ……」
納得した。
確かに、裕福で優位に立っている者は、全てを失いかねない『分の悪い、イチかバチかの賭け』なんかやらないよね。
「そして、次の目標はうちじゃない、と……」
うん、まぁ、前回の結果を見ておきながら、再度うちを狙う馬鹿はいないか。
それに、準備万端で魔物や古竜が付いていてあれだけ完全に負けたのだから、まだボロボロの状態から完全には回復していないであろう。
オマケに、前回の奇襲に懲りて、うちも、周辺国も、警戒は怠っていない。間諜や、草(現地定住型の間諜)は、どの国も派遣しているだろう。
現代地球であればともかく、この世界で、相手側に警戒されていての奇襲なんか不可能だ。
数千もの兵士の移動や軍需物資の収集、輸送とか、隠しきれるはずがない。移動には時間がかかるし。
「で、どこを狙ってるの? レベルがC-6ってことは、他国だよね?」
「うん、物資や兵の移動状況から考えて、多分ダリスソン王国だよ」
「ダリスソン王国?」
何か、聞いたことがあるような国名だ。
「ダリスソン王国、ダリスソン王国……」
「旅で一緒に行った、最初の国じゃない!」
「え……、あ、ゲゲゲ姫の国か!!」
そうそう、確か、そんな名前だったな、あの国……。
「国王陛下が病に臥せっておられ、王子殿下はまだ幼少。王子殿下より継承順位が低いレミアちゃんが仕切っているけど、そういう状態だと政情が不安定だと思われちゃうからねぇ……」
うん、サビーネちゃんが言う通り、ほぼ確実に『奸臣が王子殿下を担ぎ揚げて』ってパターンだ。
でも……。
「「それ、もう終わっちゃってるからね~!」」
そう、それはあの時に終わっちゃってる。
あの時の粛清の話は当然各国に知れ渡っていると思うけど、そういう謀反の芽は次々と出ると思われてるのか、政府や軍部の要人を何人も切ったから国がガタガタになってるだろうとか、貴族達が王族……レミア王女殿下……に反感を抱いているとか思ったのかな。
まぁ、他国には私や使節団が『レミア王女殿下個人に対して約束したこと』は伝わっていないだろうから、あの国の貴族や軍人達の中には王女殿下を裏切ろうとする者なんか殆どいないだろうことは知らないか……。
殿下が見せた、王族としての果敢な行動。うちの国からの、殿下個人に対するバックアップの表明。……そして、私個人からの、友人としての『身の安全に関する協力』の約束。
今現在、あの国の国民の、レミア王女殿下に対する忠誠心は結構高いんだよねぇ、貴族や軍部も含めて。
国内がガタガタなのは、アルダー帝国の方なんだよねぇ。
まぁ、だからこその、無茶な侵略行為、なんだろうけど……。
先の戦いで、軍部がボロボロ。
あまりにも一方的な敗戦。
国力を注ぎ込んで養成していた空中騎兵と魔物軍団の壊滅。
国民の怒りと失望。
勝ち戦で手柄を立てて名誉と褒賞を、と考えて出陣していた多くの上級士官達の戦死や、捕虜として捕らえられての名誉失墜と、多額の身代金による財政状況の悪化。
そしてとどめに、大条約により軍事協定を結んだ多くの国の集まり、『大同盟』への加入拒否。
『大同盟』は、あくまでも外敵、他の大陸からの侵略に対しての同盟であり、武器の共同開発や軍事演習とかでの協力はするが、大陸内における国家間の争いには関与しない。それは、それぞれの国による別途の条約により勝手に協力関係を結んでくれればいい。
なので、『大同盟』に加入していなくとも、この大陸内のことに関しては、今までと何ら変わるところはないので、何の問題もない。
……表向きは。
しかし、そんなお題目を本気で信じるような馬鹿はいない。少なくとも、為政者の中には。
共同開発した、画期的な新型武器。
同じ同盟に加わる仲間としての、相互協力や援助。
周辺の有力国の大半が加入している同盟に加盟することを拒否され、一国だけぽつんと取り残された、旧式の武器しか持たない国。
……しかも、侵略戦争に失敗して大敗を喫し、『信用できない、要注意の危険国』、『自分から仕掛けた侵略戦争で大敗する、弱くて馬鹿な国』との烙印を押された上で。
「国はガタガタ、政情不安定、財政逼迫、国民感情最悪。……そりゃ、打って出るしかないか……。
馬鹿な行為を笑うのは勝手だけど、それしか選択肢がなくて、馬鹿を承知で賭けに出るしかない者の気持ちも、分からなくもないよね……」
私の言葉に、サビーネちゃんがこくりと頷いた。
いや、そりゃ、他国に頭を下げて、大同盟の加盟国それぞれに対し、相手を上にした条約や協定を個別に結ぶとか、他の方法が全くないわけじゃないだろうけど。
でもそれは、今まで軍事力を盾にした高圧的な外交により立場を保っていた自国の根幹を崩すこととなり、他国の下になる、ということだ。強国を自負していた国の支配者や貴族、軍部にとって、それは許容できるようなことじゃないだろう。
そしてそれらの者達による考えや判断には、一般の国民達の望みとか幸せとかは全く関係なく、配慮されることはない。
……仕方ない。世の中、そういうものなんだ……。
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小説版は、もうちょっと待ってね。(^^ゞ




