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219 王都にて

 ボーゼス伯爵家王都邸に無理矢理引きずり込まれて、用意されていたお風呂にベアトリスちゃんと一緒に連行されて、メイドさん達に洗われて、着替えさせられて、お化粧されて、夕食を食べさせられて、……泊まらせられた。

 本当は、『雑貨屋ミツハ』に戻って、日本の家に転移してゆっくりお風呂にはいりたかったんだけど……旅の間は、そんな贅沢なものはなかったから……、ま、ボーゼス家王都邸のお風呂なら、充分か。メイドさん達に洗われる、というのはアレだけど……。

 そしてその後、勿論、アレがやってきた。


「お店でずっと待っていたのに、どうして来ないのよおおおぉっっ!!」

 うん、サビーネちゃんの情報網と、『ミツハ姉様見張り隊』とかいう怪しげな組織の手によって、私の王都入りは完全に把握されていたはず。

 ……来ないわけがないよねぇ……。

 そして、ボーゼス家の者はベアトリスちゃんただひとり、ということを知っていたサビーネちゃんは、当然、泊まる気満々だった。

 事前にその情報は掴んでいたらしいけれど、サビーネちゃんは、ベアトリスちゃんが私と一緒に『雑貨屋ミツハ』に泊まると判断していたらしい。……読み違えた、ってわけだ。


 サビーネちゃんなら、DVDやゲームがあって、扇風機や暖房器具があって、冷蔵庫やレンジがある『雑貨屋ミツハ』に泊まる方を選ぶだろうから、ベアトリスちゃんも当然そうすると思ったらしいのだけど……。

 そうか、サビーネちゃんは、ベアトリスちゃんも地球の便利道具のことを全て教えられていると思ってるのか……。

 ベアトリス商会の表向きの本拠地は奇岩島だけど、あれはあくまでも対外的な宣伝用であり、ベアトリスちゃんの常駐場所はヤマノ子爵家(うち)だってことくらい、サビーネちゃんは知っているからなぁ。

 あ、いかん。勘違いしているらしいサビーネちゃんがマズいことを口走らないうちに、状況説明をしなきゃ……。




 そして、ベアトリスちゃんが席を外した隙に、そのあたりのことをちゃちゃっと説明。

「ええっ! そういうことは、早く言ってよ! 危なかったなぁ……。

 でも、そうか、ベアトリスちゃんには殆ど教えていないんだ……」

 そう、ベアトリスちゃんには、地球のことは教えていない。教えているのは、あくまでも『渡りの秘術』と、少しばかりこのあたりの国より進んだ技術による製品だけだ。上限は、扇風機くらいまで。

 扇風機は、ただくるくると回るだけだし、風が吹く理由は羽根の形状で説明できるから、『羽根を回す力』以外はそう不思議なものじゃない。


「そうかぁ……」

 私がベアトリスちゃんにはあまり秘密を教えていないことを知ったサビーネちゃんは、何だかちょっと意外そうな、そして複雑そうな顔をしている。

 まぁ、ふたりは私よりずっと前からのお友達同士だからねぇ。それぞれ別々にコレットちゃんとお友達になったから、これからは3人で、とか考えていたのかもしれないな。

 でも、ベアトリスちゃんに話すと、ボーゼス伯爵様に伝わる確率が高すぎる。

 いや、別にベアトリスちゃんがおしゃべりだとか、私を裏切るとかいうことじゃない。ついうっかり、とか、私のためを思って自分が泥を被るつもりで、とかね。

 知らなければ悩む必要もなかったのに、知ってしまったがために悩むこともあるだろうし。

 そう、『世の中、知らない方がいいこともある』ってヤツだ。


 そして、戻ってきたベアトリスちゃんと3人で、女子会。

 その後、寝室に場所を変えてパジャマパーティー。

 ……パジャマじゃないけど、夜着(ナイティ)だから、ま、似たようなもんだ。

 サビーネちゃんが、うっかり地球やDVDのことを漏らさないようにと時々口籠くちごもるときがあったけど、楽しい一夜を過ごした。このメンバーで一緒に夜を過ごすのは、初めてだよね。ベアトリスちゃんとサビーネちゃんのテンションが高かったよ……。




 翌日は、引き留めるベアトリスちゃんを残して、『雑貨屋ミツハ』へ。

 いや、私にもやらなきゃならないことがあるんだから、仕方ないでしょ。

 それでも、昼食までは帰らせて貰えなかったよ……。

 そして勿論、帰る私には、サビーネちゃんがくっついていた。

 だから余計に、ベアトリスちゃんの引き留めが激しかったんだよねぇ。


 ……でも、サビーネちゃんについて来られても困るんだよなぁ。この後は、新大陸に行って商品の補充をしなきゃならないから……。

 10日以上も行っていないから、そろそろ品切れが近いはずなんだよね、レフィリア貿易も、周辺国の新規提携商会も。

 特に、盤石となったレフィリア貿易はともかく、周辺国の新興商家の方は今が大事な時期だから、品切れなんか起こさせるわけにはいかないよ。

 そして、王様達には、私が侵略艦隊の母国であるヴァネル王国に拠点を築いていることは内緒だ。だから、サビーネちゃんにも、正式には教えていない。

 ……サビーネちゃんには、ある程度のことはとっくにバレてるだろうけどね。

 でないと、コレットちゃん情報にあった、『サビーネちゃんが、こっそりと新大陸の言葉を勉強している』ということの説明がつかない。

 それに、サビーネちゃん抜きで、私がコレットちゃんと転移でしょっちゅうどこかへ行っているということは当然知られているだろうし。

 サビーネちゃんは、そのあたりは抜かりない。


 でも、サビーネちゃんが自分で掴んだ情報からそう推測するのと、私からはっきりと聞くのとでは、大違いだ。

 後者の場合、『私のお友達の、サビーネちゃん』ではなく、『第三王女、サビーネ殿下』として、国と国民の利益を最優先するという王族の義務に従うならば、王様に知らせなきゃならない。前者であれば、それはサビーネちゃんが勝手に想像した『空想』に過ぎないから、そんなことをする必要はないのだけれど……。

 ま、そういうわけで、バレてはいるのだろうけど、サビーネちゃんはあえてそれには触れず、自分は何も気付いていない、ということにしてくれているのだろう。

 そして、私もそんなことは何も気付いていない、ってことにするのが、大人ってもんだ。

 だからここは、うまく追い返さないと。

 しかし、簡単に帰ってくれそうにないよなぁ、この、にこにこ顔のサビーネちゃん……。


「姉様、この後はヴァネル王国へ行くの? 私も一緒に行くよ!」

 ……台無しだあぁ!!


     *     *


 サビーネちゃんの深い配慮、というのは、私の幻想に過ぎなかった。

 そうだよね~、サビーネちゃんは頭が良くて気遣いのできる子だけど、まだ子供だもんね~。自分の欲望には、結構忠実なんだよね~……。

 しかも、コレットちゃんという先例があるのに、自分が遠慮しなきゃならない、なんて思えるはずがないよね~。


 サビーネちゃんは、ここは我が儘を言っちゃ駄目なところだ、と思えば、絶対に我慢してくれる。でも、自分以外の者には許されている、となると、絶対に引かないし、諦めない。なので、コレットちゃんがしょっちゅう新大陸に行っていると知った時点で、もう、どうしようもないわけだ。

 そして、私が使えたはずの『コレットちゃんは現地の言葉が話せるけれど、サビーネちゃんは話せないから』という唯一の拒否理由は、事前に潰されている。

 ……駄目だ、どうしようもない……。


 そういうわけで、商隊が帰還の途につくまでの間にやろうと思っていた色々なことには、サビーネちゃんがくっついてくることになってしまった。

 まぁ、コレットちゃんには『領地で、私の留守を守る』という使命を与えて将来のために練習させており、今回はひとりで行動するつもりだったから、それでもいいか。既に新大陸に慣れているコレットちゃんと初めてのサビーネちゃんが一緒だと色々とやりにくいから、サビーネちゃんの新大陸デビュー戦には丁度良かったかもしれないし。

 ……いや、新大陸デビューさせる気なんか、全然なかったんだけど……。

 ま、仕方ないか……。


 そういうわけで、『雑貨屋ミツハ』に着いてひと休みした後。

「じゃ、行くよ?」

「うんっ!」


 ……転移!

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― 新着の感想 ―
[良い点] >複雑そうな顔 ここで、サビーネちゃんが本当に言いたいのは「お姉様、ベアトリスちゃんに教えても良いじゃない?」でしょう。だが、普通のミツハなら長い間一緒だと脇の甘さを見せて、下位(DVD…
[一言] 新大陸デビューさせる気なんか、全然なかったんだけど……。 …てっきりいつか、ソサエティの新メンバーの 第三王女に対抗してぶつけるつもりの切り札かと 思ってたんですが…。
[良い点] 自分とベアトリスとの扱いの違いから、優越感に浸るのではなく、何かしら察したらしいサビーネは、やはり優秀なんでしょうね。末恐ろしい子!
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