表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/486

215 輸送商隊 1

「どどど、どうして……」

「いい経験になるし、ミツハがついていれば安心だから、って!」

 しまった、私がベアトリスちゃんをひとりでそんな危険な旅に行かせられないのを承知で、嵌められたああああぁっっ!!


 14歳の女の子に、むさい男ばかりの輸送商隊と一緒に10日近い旅をさせられるわけがない。そうなると、私が一緒に行かざるを得ないということは、当然お見通しだろう。

 そして私が同伴していれば、本当に危ない時には転移で簡単に逃げられる。これほど安全な旅もそうそうないだろう。

 ベアトリスちゃんの、おそらくは人生で最初で最後の大冒険。しかも、絶対安全。

 そして私との親交が更に深まり、ボーゼス家にとってはいいことばかりで、デメリットなし。

 やられた!!


 いや、賊に襲われる確率はすごく低いし、魔物も、雑魚しかいないとは思う。

 でも、危険がいくら小さくても、万一、ということがある。

 そう、最悪の事態となる確率は、決してゼロじゃない。いくら低い確率ではあっても、それは決して『ゼロ』じゃないんだ。

 そんなの、看過できるわけがない。

 それに、そもそも男ばかりの輸送商隊に、こんな可愛い女の子がひとり交じっていたら……。


 襲われる、とは思わない。

 さすがにそんなことをすれば、ボーゼス伯爵家が全ての戦力と財力を投じて、地の果てまでも追いかけ、追い詰めるであろうことは、馬鹿でも分かる。そして一族郎党、全て拷問の末、皆殺し。

 それくらいは覚悟せねばならないということも……。

 だから、それはないとは思うけれど、まぁ、アレだ。ベアトリスちゃんはとっても可愛いから、ほっぺをつついたり、こっそり髪に触ったり、色々とその、不埒ふらちな真似をする者が出ないとも限らない。

 いや、出る。きっと出る! 少なくとも、ひとりは絶対出る!

 ……うん、私だ。


 いや。

 いやいやいやいやいや!

 それは置いといて。

 回避策は……。

「ないよ」

 あ、ソウデスカ。

「って、どうして……」

「口に出てたよ」

 あ、ソウデスカ……。


     *     *


 そういうわけで、ボーゼス伯爵領第二次輸送商隊である。

 荷馬車の列の一番後ろには、私の特製馬車と、白馬シルバー。

 そう、王都から転移で持ってきたのだ。

 荷馬車は積み荷満載で、それに乗るなら、荷の間に潜り込むようにして乗らなきゃならない。勿論、荷馬車には高性能のサスペンションが付いているわけじゃないし、ふかふかクッション付きの座席があるわけでもない。

 そして、ショボい鞍がついた馬とか、徒歩で随行とかは、勘弁してもらいたい。主に脚とか股間とかの耐久度の問題で……。


 となると、出番が少ないシルバーと、地球製の特製馬車の出番となる。

 一頭立てだけど、特製馬車は軽いから、私とベアトリスちゃんを乗せて荷物満載の荷馬車についていくことくらい楽々だ。

 ちゃんと馬屋が経営している牧場で世話して貰っているから、食事も運動も万全のはずなんだけど、やはり本来の飼い主と一緒に仕事をして役立てるのが嬉しいのか、やけに張り切っているなぁ、シルバー……。

 用事がなくても、もっと頻繁に会いに行ったり、乗り回したりしてあげようかな……。


「ボーゼス領第二次輸送商隊、出発!」

「「「「「「おおおおぉ~~っ!!」」」」」」

 ノリノリのベアトリスちゃんの号令に、大声で応える商人と護衛の皆さん。

 そりゃまぁ、自分達の領主様の娘が同行し、それをお護りするなんて光栄な仕事、普通の者には一生に一度すらないだろう。

 しかも、ボーゼス伯爵様は領民に慕われている善き領主様だ。おそらく、自分の命を盾にしてでもベアトリスちゃんを護ってくれるだろう。

 ……いや、まぁ、いくら善き領主様とは言っても、ベアトリスちゃんを見捨てて逃げ出した護衛には、さすがのボーゼス伯爵様もアレだろうしね……。


 この輸送商隊には、商人達も同行している。……というか、ボーゼス伯爵領の商人達が仕立てた商隊、ということになっているのだから、当たり前か。

 本当は、ボーゼス伯爵様が取り仕切り、実務部分を任せているだけなのだけど、それでも充分な稼ぎになるし、王都の商人達に大きなコネができるため、その立場を巡って熾烈な争いがあるらしい。……ま、御用商人みたいなものだから、そりゃ眼の色変えて参入争いをするよねぇ……。

 ただ荷を運ぶだけならば商人が同行する必要はないかもしれないけれど、王都で商談をしなきゃならないらしいから、領地の店は大番頭に任せ、商店主自らが同行しているとか……。


 田舎領の小さな商店が、他国、それも『雷の姫巫女様』の母国からの輸入品を抱えて、王都に殴り込み! そして、王都の大店おおだな相手に強気の商談をぶっ込むのだから、商人達の鼻息は荒い。

 商人は、前回の、第一次輸送商隊に参加した者もいるし、今回が初めての者もいるらしい。

 どうやら伯爵様は、最初から特定の商人を取り立てるのではなく、多くの商人に機会を与えるつもりらしかった。

 ……うん、さすが、ボーゼス伯爵様だ。

 で、その結果、どうなるかというと……。


「ベアトリス様、どうぞこちらへ!」

 本来、昼食は簡単に済ませて、少し食休みしてから出発するものだ。移動中の商隊は、昼食にお金や時間を掛けたりしないし、少しでも距離を稼ぎたいし、そしてこれから揺れの大きい馬車で揺られ続けるというのに満腹になりたいと思う者なんかいるはずがない。

 勿論、護衛達は命が懸かっているから、仕事中に満腹状態になるような馬鹿や間抜けはいるはずがない。……もしいたとしても、そういう者はこの商隊には雇われない。

 しかし、昼休憩のために停止してからかなり待たされた後、私達が呼ばれた先には……。


 純白のテーブルクロスがかけられた折りたたみ式のテーブルの上に置かれた、ティーポットとカップ。そしてお皿の上には、前菜オードブルらしきものが載っている。


「……これで全部なの?」

 ベアトリスちゃんが、不機嫌そうな顔でそう言った。

「とんでもございません! 勿論、この後に次々とお料理が……」

 満面の笑みを浮かべてそう説明する、商人さん。

 ……アウト! アウトオオオオォ~~!

 あなたは、ベアトリスちゃんのことが全然分かっていない。

 いや、まぁ、今朝会ったばかりなんだから仕方ないけどね。


「商隊の人達全員が、同じ物を?」

 ほらぁ……。

「い、いえ、勿論そのようなことは……。ベアトリス様とヤマノ子爵閣下、そして交代で陪席させて戴きます私共のうちのふたりが同じものを食べさせて戴き、その他の者は普通の食事を……」

 当たり前のことです、というようにそう説明してくれた商人さんだけど……。


「では、そこのあなた! そう、あなたです。こちらへ来てください」

 突然雇い主である商隊の隊長、まだ未成年の可愛い貴族の少女に呼び付けられて、眼を白黒させながら、『俺? 本当に俺?』というふうに自分を指差している、24~25歳くらいの男性。

 いくら食べるものが違うとはいえ、雇い主より先に食べるのはマズいと思われたのか、他の者達もまだ食事は始めておらず、その男性は地面に座り、その前にはまだ手付かずの堅パンと肉の切れはし、野菜が載った木皿と、スープがはいったカップが置かれていた


 意図は分からないものの、慌てて手招きして、その護衛の男性を呼ぶ商人さん。

 そして、自分の昼食をその場に残し、何か不始末でもしでかして商隊長を怒らせたかと、びくびくしながら歩き寄ってきた男性。

 その男性に向かって、ベアトリスちゃんが……。

「あなた、私の代わりに、商人の皆さんとここで料理を食べて下さい。私は、あそこにある、あなたの昼食を戴きますから」

「「「……は?」」」


 ベアトリスちゃんが言ったことがまだ脳内に染み込んでいないのか、ぽかんと口を開けたまま立ち尽くす、ふたりの商人さんと、護衛の男性。

 ……まぁ、ベアトリスちゃんという子を知らないなら、仕方ないよね、うん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ふと、気づけばミズハ。逆にハーならぬあちこちに現地妻こさえた百合ハーつくってない?しかも幼女の
[気になる点] 男尊女卑に触れておきながら、平気で男=むさいみたいな扱いをするのはどうなの?現代日本同様に男には汚い、臭い等、ナチャラルに失礼なことを言ってもなんら問題ないと思ってるのかな?
[気になる点] 乗り心地の悪い馬車にヤマノ産のバネとかスプリング着けて乗り心地改革しなきゃミツハのお尻は完治早いけど此方の世界の女性のお尻ががが
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ