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212 輸 入 2

 ならば、今日私がやったことは、金属加工の技術者を意固地にさせたり、心をへし折ったりしただけ、ということに……。

「みんな、相手が『雷の姫巫女様』だから黙って帰ってくれたけど、わざわざ新製品入荷のお知らせをして呼んだ結果がこれだから、結構不愉快に思ったんじゃないかなぁ……」

 ええええええええぇっっ!

「ど、どうすれば……」

 動揺する私に、サビーネちゃんが提案してくれた。

「お父様にお願いして、布告を出してもらえば? 新しい技術を取り入れるように、って……」

 ……いや、せっかくのサビーネちゃんからの提案だけど、それは駄目だ。


「駄目駄目! 上からの権力による命令で仕事のやり方を変えるよう強制するなんて、職人が一番嫌がって反発するやり方だよ! そんなことをすれば、浸透するものも浸透しなくなっちゃうよ!」

 ……そう、職人というのは、そういうものなのである。

 お兄ちゃんが、そう言っていたよ。


「安売りを続けて浸透させようにも、あまり安く売ったら『そんな値段なら、自分達で作っても価格面でとても対抗できない』として、誰もモドキ製品の製造を始めようとはしないだろうしなぁ。

 試供品だけじゃなくて、しばらく安値で売り続けてから急に値上げしたりすれば、うちの製品を使い始めていたところが梯子はしごを外された形になって、うちの信用が丸潰れだし。

 ……仕方ない、とりあえずは、ボーゼス伯爵領に売り込むか……」


 そう、ボーゼス伯爵領には、造船所がある。

 そして、ヴァネル王国から我が国に帰化した多くの船乗り達が、生き残った4人の船大工と共に建艦に協力してくれている。

 彼らなら、当然、自分達の元母国であるヴァネル王国の工具を喜んで使うに違いない。そして、彼らを先生と呼び慕っているこの国の若手技術者達が、それを使わないはずがない。

 そう、王都ではなく、ボーゼス伯爵領を技術革新の震源地、発信地とするのだ!


 拿捕船にも様々な工具は積んであったが、それらはあくまでも修理用のものであり、新規に船を建造するためのものではない。そのため、積んであるものの種類も数も限られており、今回私が仕入れてきたものが役に立つはずである。

 ……もし役に立たなければ、売れ残りによる赤字は全部私の自腹になって、大損だよ!

 船台用の大型クレーンとかを地球から持ち込めるわけじゃないけれど、そのあたりは、この世界でのやり方があるから問題ない。そのあたりは、帰化してくれた連中に丸投げだ。いくら造船技師とかじゃないとはいっても、造船方法の概略くらいは知っているだろう。仮にも、船乗りなんだから……。


 こりゃやっぱり、文明の進歩は、王都ではなくボーゼス伯爵領からかな……。

 そのうち、『王都』とは名ばかりで、実質的な国の中心地はボーゼス伯爵領になるんじゃなかろうか。

 その時に、発展から取り残された王都の技術者達に文句を言われても、知らないよ。

 私は、ちゃんと一番最初に王都に話を持っていった。それを受け容れなかったのは向こうの責任であり、私の責任じゃない。


     *     *


「こっ、これは……」

「ありがてぇ、ヴァネル王国(くに)で使っていたのと同じ工具だ! これをここで作らせれば、弟子達にもここの旧式の工具で面倒なやり方をさせずに済むぞ!」

 ボーゼス伯爵領に仕入れた工具を持ってきて、帰化した元ヴァネル王国探検船団の乗員達に見せたところ、予想通り、大喜びされた。

 だけど……。

「…………」

 なんだか、ひとり、黙り込んだまま渡した工具を隅々まで調べている人が……。


「なぁ、嬢ちゃん……」

「うん、何?」

「これ、ロサトス精器の製品だよな? 商標と社名の刻印が入ってる。……製造番号から見て、最近作られたやつだ……」

 ぎくり!

 まぁ、誤魔化しようがないか。


「うん、『不思議な力』で、ヴァネル王国まで一瞬のうちに連れていってもらって、この国のお金と両替してあげた、みんなが持っていたヴァネル王国のお金で買ってきたんだけど?」

 嘘は一切ない。

 不必要な嘘を吐く必要はないからね。信頼関係というのは、大事にしなきゃ。


「「「「「「……」」」」」」

 そして、静まり返る、元乗員達。

 そりゃそうだ。

 長期間の苦しい旅をして、やっとのことで辿り着いた、母国から遥かに離れた大陸。

 そして、二度と再び帰り着くことは叶わぬ、家族や友人達を残してきた母国。

 そこへ、ちょっと隣町まで買い物に行ってきました、みたいな顔でそんなことを言われては、堪ったものじゃないだろう。

「「「「「「…………」」」」」」

「あ、えと、その……」

「「「「「「……………………」」」」」」

「あ、いや、ハハハ……」


 連れて帰ってもらえるとは思っていないだろうけど、家族に無事を知らせたい、友に手紙を託したい、とか考える者はいるだろう。

 でも、秘密を守るためには、それは許されない。

 そして勿論、元乗員達も、それくらいのことは分かっているだろう。


「あ……、じゃ、そういうことで! もっとたくさん欲しいものがあれば、数を教えてね。それと、他にも欲しいものがあれば、製品名を教えてね。

 ここでも製造したいと思うから、急ぎじゃないものはしばらく待って、製造の方で協力して頂戴。

 では……」

 ちょっと空気が重くなったので、早口でそう言って、さっさと撤退。

 いや、あのままいると、我慢できなくなった人達から何か頼み事をされそうな気がしたから。

 ……そう、多分、実施することは可能だけど、でも絶対に叶えてあげるわけにはいかない頼み事を……。


 あとは、ボーゼス伯爵様のところへ行って、商売の話。

 いや、工具その他は、無料ただであげたりはしないよ! ちゃんと代金は頂くし、それの劣化複製品をボーゼス伯爵領で製造するための話し合いもしなきゃならない。そして、それはここで独占するのではなく、国中に、そして大陸中に広めたい、ということも……。

 聡明な伯爵様なら、きっと理解してくれる。今は、自領の、そして自国の儲けなどにこだわっている時ではないということを……。


     *     *


「分かった。すぐに業者選定競技コンペを開いて、仕事を任せる工房を選択しよう」

 さすがボーゼス伯爵様、話が早い。

「あの、技術を独占せず、拡散させるという件は……」

「構わん。というか、国の技術力を底上げするためには、独占だとか金儲けだとか、そんなことを言っていられんのだろう?」

 さすがだなぁ……。

「それに、その代わりとして、金儲けのネタは、他に色々と提供してくれるのだろう?」

 ……さすがだなぁ……、くそっ!


「とりあえず、母国から入荷した品に関して、今、ベアトリスちゃんが書類を作成中です。王都への輸送のための、商隊の準備をお願いします」

 うん、ボーゼス伯爵領から出発した商隊がヤマノ子爵領(うち)に来て、物資を積み込んで、王都へと向かう。

 その時に、ボーゼス伯爵領からヤマノ子爵領への商品も運ぶし、輸入した物資だけでなく、ヤマノ子爵領産の農産物や加工した海産物とかも一緒に運んでもらう。ヤマノ子爵領の領旗と、ボーゼス伯爵領の領旗を掲げた馬車で……。

姫巫女様の領地(うち)』関連の馬車が盗賊に襲われる可能性は殆どないから、護衛の費用は安く済む。

 いや、勿論、護衛を付けないというわけじゃない。けれど、危険が少なければ、当然、費用も少なくなる。危険が小さいと保険の掛け金が安くて済むのと同じだ。


「それと、ボーゼス港の観光地化を考えています。

 軍艦を見てみたい、と思っている者は多いはずですから、港に停泊している軍艦や造船所見学、元乗員達による、辿々(たどたど)しい言葉での過酷な航海の話が聞ける講演会、それらにちなんだ土産物、そして名物料理として、海産物を使ったどんぶり物、海鮮お好み焼き、タコ焼き、イカ焼き、ヘルシーな魚介料理や海藻料理、その他諸々……。

 この国で海に面しているのは北側のみ、そしてそのかなりの部分をボーゼス伯爵領とヤマノ子爵領、そしてアレクシス様のボーゼス子爵領が占めているのですから、海を利用した稼ぎの大部分は、私達が頂きです!」


「ミツハ、その話、詳しく聞かせてもらいましょうか!!」

 おおぅ、伯爵様より早く、イリス様ががっぷりと食らい付いたよ……。

 イリス様、私は逃げませんから、その、私の肩に食い込んだ指を、外してください。

 いた、痛たたたたた……、爪、爪が食い込んでますううううぅ~~!!

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― 新着の感想 ―
やはりミツハの最大の天敵はイリス夫人だったか・・・
[一言] なんだかんだ。ボーゼス氏も善良なだけではないよね。 領地栄えてきたのにあわせてならず者とか流入してきてるのに失敗してないっぽいし
[良い点] さすが、ボーゼス父さん 圧倒的なまでの出来るイケおじ [一言] ボーゼス領を技術の最先端にし、王都の頑固親父達をNDKするメスガキミツハ……胸熱やな
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