201 ソサエティー 6
「まぁ! カーレア様、そのようなことまで……。私、困っている平民の子供をお助けになったというお噂は伺っていたのですけど、それ以外にも、様々なことをなさっているのですね。何とお優しい……」
本日の主役である、ソルバイン伯爵家の長男の後方で、ちゃんと声が届くよう計算し尽くした位置と声量で会話する、3人の令嬢達。勿論話の内容は、カーレア・ド・シーレバート伯爵令嬢を褒めちぎったものである。
他の3人は、別働隊としてソルバイン伯爵夫妻の側で同じようなことをやっている。
そう、欺瞞情報の流布である。
但し、嘘だと言われないように、ちゃんとそういうエピソードを実際にこなしている。若干、仕込みとかヤラセとかサクラとかがあったが、事実は事実なので、問題ない。
「お美しいだけでなく、お優しく、聡明で、高潔なお方ですけど、少しヤンチャでそそっかしいところもおありなので、見ていて飽きない……、いえ、心配ですわね」
「でも、皆さんに好かれておられますから。本当、殿方の前でだけ良いところを見せようとする者が多い中、同じ女性達に好かれるなんて、どれだけ素敵なんでしょう……」
そう、このような、他の者を蹴落として自分が、という者が多い誕生パーティーの場で、他の少女を褒める者など、滅多にいない。なのに、多くの美しい少女達に褒められているということは、どれだけ皆に好かれており、どれだけ立派な少女なのか。
……そして、天使の如き美しさ……。
6人のサポート要員も、メイドの力を借りて自分達でそれなりに化粧していたのであるが、美容部員のお姉さんに手直ししてもらったため、更にワンランク上の出来映えとなっていた。
しかし、事情をある程度把握していたお姉さんは、ちゃんとカーレアが一番引き立つように計算して仕上げていたため、カーレアの美しさは群を抜いていた。
本日の主役である少年は、他の男達が声を掛ける前にと、急いでその少女、カーレアのところへと駆け寄った。
「……本日は、ようこそお越しいただきました。是非、最初のダンスは私と……」
それに続き、6人の少女達にも、次々とダンスを申し込む少年達が群がってきた。
((((((……勝った……))))))
功績ポイントと褒賞は、貰った! そして、男達も……。
そう思い、にやりと笑う6人の少女達と、満面の笑みを浮かべたカーレア・ド・シーレバート伯爵令嬢。
そして、自分達がよく知っている、それなりに美しくはあるが、あくまでも『普通』の範疇であったはずの7人の令嬢達のあまりの変貌振りに、愕然として立ち尽くす大勢の令嬢、そしてその母親達。
その7人に、いったい何が起こったというのか。
次第に、7人に共通する事項、その心当たりについて、皆の頭にある言葉が浮かび始めた……。
((((((ソサエティー……))))))
自らその誘いを蹴った少女が、へなへなとその場にへたり込み。
父親に、派閥が違うことを理由に辞退を強制された少女が泣き崩れ。
加入を申し入れたのに断られた少女が、フォークを皿に突き立てて砕いた。
……しかし、父親達の数名が慌てて娘を介抱しようとしていたものの、殆どの者達はそれらの少女達に眼を向けることなく、パーティー会場の中央付近にいる7人の天使達から眼を離せずにいたのであった。
そして、少女達だけではなく、『ソサエティー』の噂を聞いていたその母親達が、恐怖に顔を引き攣らせていた。
『ソサエティー』に加入している、あの7人や、その他の少女達。そしてその恩恵を受けるであろう、その家の女性達全員が、あの、女性を美しくする方法を手に入れる。
そして、自分達は、それを手に入れることができない。
……地獄である。
それは、間違いなく、この世に現出した地獄そのものである。
* *
『敵、完全撃破! 第二次攻撃隊発進ノ要無シト認ム』
よし、直掩機からの連絡がきた!
……うん、万一に備えて、サポート要員が途中でお手洗いに行った時に、待機させておいたメイドにメモを渡して連絡させるよう仕込んでおいたのだ。もし思わぬアクシデントで計画に齟齬が生じた場合、私から指示が出せるようにと……。
でも、どうやら杞憂だったらしい。
……圧倒的ではないか、我が軍は!
あとは、このままここでのんびりしていよう。
いや、万一に備えて、私も一緒に来てるんだよねぇ、パーティー会場。……の外の、馬車留めに。
一台に9人乗ると満員だから、護衛を乗せた馬車がついて、2台編成で来たんだ。
みっちゃんだけでもアレなのに、他家の御令嬢を7人もお預かりして、もしものことがあれば大変だからねぇ。そりゃ、護衛くらい付けるわ……。
カーレアちゃんのサポート要員には、勿論、みっちゃんは含まれていない。
侯爵家令嬢であるみっちゃんが伯爵家令嬢のサポート、ってのは無理があるし、目標がみっちゃんの方に目を付けると困るからね。みっちゃんは可愛いし、侯爵家と伯爵家の差は大きいからねぇ……。
あ、勿論、お化粧の時にはみっちゃんも他の令嬢達と一緒にガン見していたし、手直しもしてもらっている。……今回の作戦には員数外、というだけで。
パーティー会場では、他のメンバーとは離れて単独行動をしているはず。みっちゃん曰く、『いつもの通り』とか……。
そして私は、ひとりでじっと待っているのは退屈だから、もうひとつの馬車、つまり護衛の皆さんが車中待機している方の馬車に乗り込んで、話し込んでいる。
護衛も屋敷に招き入れて、別室で軽食を出してくれるとかいう場合もあるらしいけれど、今回は誕生パーティーなので客が多すぎるし、護衛している間は決して飲食はしないとか、馬車に細工をされないように馬車から絶対離れない、とかいう者もいるし……。
まぁ、とにかく、今回は護衛達はみんな、車中待機というわけだ。
そういうわけで、護衛の馬車に乗り込んだら、……驚かれた。
そりゃまぁ、御令嬢達がみんなパーティー会場へ行くと思っていたら、ひとりだけ残って、むさい護衛達が乗っている馬車に乗り込んでくれば、驚くのも当たり前か。
でも、私、パーティー用のドレス着てないよね? 察そうよ、そのあたりで……。
それでまぁ、最初はバリバリの不自然な敬語を使われていたんだけど、すぐに馴染んで、私の呼び名が『お嬢様』から『嬢ちゃん』に変わった。
……うん、いつものことだ。
そして、護衛の皆さんから、みっちゃんの苦労話を聞いた。
勿論、みっちゃんが苦労したという話ではなく、『みっちゃんに苦労させられた』という話の方だ。当たり前だよねぇ。
パーティーは無事終わり、玄関で馬車の順番待ちをしていたカーレアちゃんとサポート要員のみんなは、満面の笑み。
……そうか、我が軍大勝利、か。
みっちゃんは、その、あまりにも圧倒的な戦力に、少し動揺している様子。
まぁ、みっちゃんは元々あちこちの子息達から狙われまくっていたんだ。化粧のせいでそれが更に過熱しては、堪ったもんじゃないだろう。
しかし、だからといって、他のメンバーがどんどん化粧の腕を上げて綺麗になっていくのに、自分だけが元のまま、というのは我慢できまい。
どうするね? ふはははは!
* *
パーティーから3日後。
美容部員のお姉さんに、化粧品の大量発注。
お姉さんは、蕩けるような笑顔だったよ。
で、その時、お姉さんが聞いてきた。
「あの時のお部屋、何て名前ですか? スイート? それとも、プレジデンシャルスイート?」
あ~、クリスマスとか誕生日とかに恋人と泊まろう、なんて考えてるのかな……。
「あ~、あの部屋は特別室で、普通の人は泊まれないんですよ。メンバーでないと……」
うん、世の中、そういうのが本当にあるんだ。ホテルの格を示すためにパンフレットには載っているんだけど、庶民が『結婚記念日に』とか思って予約しようとしても、いつも冷たく『その日は満室でございます』と言って断られるの。
実際には空いているんだけど、そこは著名人やら特定のグループの人達しか泊まらせてくれないの。
勿論、現在の、日本のホテルの話だよ。現在でも、そういうのは普通にある。
ま、会員制とか一見さんお断りとか、普通の話だ。
「え……」
私の返答に、ガッカリしたような顔の、お姉さん。
ごめん!
でも、ああいう部屋のホテルも確かに日本にあるけれど、素泊まり1泊で30万とか、40万とかするよ。そのお金で、フルコースの料理を20回食べた方がいいと思う。
ま、化粧品の売り上げの歩合給で我慢してよ……。
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