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199 ソサエティー 4

「そして勿論、たくさんの有力貴族や大商人達からも、娘を入れて欲しいとの強い要望が来ておりますわよ」

「うん、でも、そのうちの一番権力が強そうなあたりは、最初に招待したのに辞退、もしくは無視やあからさまな拒絶をしてきたところだよね。なので当然……」

「「却下!」」

 うむうむ。

 え? 最初の招待を断った令嬢達、泣き叫びながら転げ回っている?

 知らんがな~……。

 その時の自分は、その時点における手持ちの情報全てを検討した結果、自分の判断で断ったわけでしょ? ならば、もっと多くの情報を手に入れるとか、もっとよく考えるだとかしなかったことを反省はしても、後悔する必要はないんじゃないかな。

 うん、ガンバ! しっぽを立てろー!!


「そして、メンバーのひとり、シーレバート伯爵令嬢から、救援要請です。内容は、『絶対にお近づきになりたい方がいる。相手方の誕生パーティーにおいて、なんとかしたい。何卒なにとぞ、御助力を!』というものですわ……」

 みっちゃんは、何だか冷たい態度だ。そういうことは自分の力で、とでも思っているのだろう。

 ……そして私は、勿論……。

「よっしゃあ、『ソサエティー』と、うちの商品の威力を天下に轟かせる絶好の機会チャンス、来たああぁ~~!!」

「……え?」

 ぽかんとしているみっちゃんを放置して、さっそく準備……、いや、その前に。

「その御令嬢に、すぐに連絡してください。日数的な余裕、ドレスのための採寸、そして作戦会議のために……」

「えええええ?」


     *     *


「キタ! キタキタキタキタキタアアァ~~!!」

 久し振りの、貴腐人店長登場。

 うん、ドレスの急ぎの仕事となると、この人しかいない。

 何せ、他の仕事は後回しにして、徹夜で間に合わせてくれるからねぇ。

 今回は、かなり日数的な余裕があるから、あまり無理しなくても大丈夫だろうけど。

 そして、今回のコンセプト、『異国の貴族のお嬢様が、絶対に落としたい少年に戦いを挑む(ゆうわくをしかける)ための戦闘服ドレス』。

「任せて! 任せてええええぇ~~っっ!!」

 鼻血吹かないでね……。

 そして次は……。




「……え?」

 きょとんとした顔の、27~28歳くらいのお姉さん。

 うん、コレットちゃんのお化粧をしてもらった、あのデパートの化粧品売り場の美容部員のお姉さんだ。

 コレットちゃんの化粧のお礼に行って、こっそりと手渡した封筒。

 多分、お礼の現金こころづけとでも思っただろうけど、実は中身はお金じゃない。伝言を書いただけの、ただの紙切れだ。


『個人的に、お化粧の仕事を依頼したい。場所はこの街の高級ホテルの一室、相手は外国人の少女ひとり。必要な化粧品は全て買い取り、その後も評判が広まれば大量購入継続の可能性あり。

 敵は、16歳の貴族の少年と、パーティー参加者達。報酬額、10万円』


 デパートの閉店時間の10分後に、番号を書いておいた携帯に連絡がきた。

 ま、そうだろうねぇ……。




 そして、アデレートちゃんの時と同じ要領で、貴腐人店長のところへ採寸とイメージ把握のために依頼者を連れていき、その時に、美容部員のお姉さんにも会わせた。

 うん、見た目や肌質、その他色々な関係で、ぶっつけ本番はちょっと心配だったからね。用意する化粧品や道具にも関係するだろうし。

 そのため、ちゃんとお姉さんの都合に合わせて日程を組んだのだ。貴腐人店長は自営だから、時間はいつでも構わないからね。

 何やら測定器で肌を調べられていたけれど、依頼者は怯えた様子もなく堂々としていた。

 貴族の少女としての矜持なのか、それとも、決して負けられぬ戦いのためには、全てを懸ける覚悟なのか……。


 また、『ソサエティー』のお茶会において、みんなに協力を要請。

 報酬として、化粧の専門家による依頼者への化粧の一部始終を見せてもらえる権利を提示。

 ……勿論、全員が食い付いた。

 まぁ、当然ながら、あのパーティーの招待状が来ている者しか採用しないんだけどね。

 よしよし、面白くなってきたぞ!


     *     *


「……どうぞ、こちらです」

 そう言って美容部員のお姉さんを案内したのは、この街で一番の高級ホテルの一室。

 いや、地方の小都市だから、『高級ホテル』とは言っても、たかが知れてるけどね。

 でもまぁ、一応、この街では一番のホテルなので、怪しいところではない。

 どうしてわざわざ高いホテルにしたかというと……。

「すみません、ちょっと目隠ししていただいてもいいですか?」

「え?」

 うん、安ホテルで、部屋に入る前にそんなことを言われたら、警戒心バリバリだろう。

 ……いや、このホテルですら、警戒されるに決まってる。


「…………」

 ほら、警戒してる……。

 私が、男性ではなく非力な女性であること、そしてコレットちゃんもいるから、少しは警戒心が薄れるかと思ったけれど、どうやら考えが甘かったようだ。

 まぁ、知り合ったばかりの者に、目隠しされて知らない部屋に連れ込まれる、というのは、女性としては危機感を覚えて当然か。中に誰が待ち構えているか、分かったもんじゃないからね。

 でも、別にドアを開けてすぐ見えるところに暴漢を待ち構えさせておく必要はない。本当に騙すつもりならば、怪しい連中はバスルームに潜ませておいて、ドアを開けてお姉さんを中に引き入れ、奥に進ませた後でバスルームから出れば、退路を塞ぐ形になって最適だ。

 なので、警戒心を抱かせるのが分かっていて、騙すために部屋の前で目隠しをさせる必要はない。

 また、貴腐人店長のところで顔合わせをした時の会話から、私が貴腐人店長と旧知の間柄であることは分かっているはず。だから、怪しい者じゃないということは理解してくれているはずなんだけど……。


「……分かりました」

 私が考えていることが伝わったかの如く、そう言って、私が差し出したアイマスクを受け取ってくれたお姉さん。

 うん、女は度胸、だよね!

 そして、コレットちゃんがアイマスクを着けたお姉さんの手を握り、私はキーを使ってドアを開け、3人揃って部屋の中へ。

 後ろ手でドアを閉め、オートロックと共にチェーンも掛けてから、転移!


 出現したのは、みっちゃんの家の客間。大きな部屋なので、奥の方に座っている人達からはドアのところは見えない。

 うん、侯爵家の客間を馬鹿にしちゃいけないよ。日本のサラリーマンのお父さんがローンを組んで必死で建てたおうちの応接室とかと較べちゃいけない。

 そして、お姉さんにアイマスクを取ってもらうと……。


「ふえええぇっ!」

 思わず漏れたらしい、感嘆の声。

「す、凄い! 所詮は田舎町のホテルだと思っていたのに、こんなに広くて豪華だったなんて!

 こりゃ、年に一度の贅沢とかで、泊まりに来てもいいかも!」

 あ~、ごめん。パンフレットに載ってるスイートルームの料金とかじゃあ、多分こんな部屋には泊まれないと思う。大都会の一流ホテルにでもいかないと、こんな部屋はないだろうからね。

 昔、金持ちの家の友人から聞いた、とある港町にあるホテル・オー〇ラの最上階スイートルームに泊まった時の話から考えて、素泊まり二桁万円は堅いだろう。

 ま、それは置いといて……。


「どうぞ、こちらです」

「あ、はい!」

 歩き出した私とコレットちゃんに、慌ててついてくるお姉さん。両肩に掛けた重そうなショルダーバッグが、かちゃかちゃと音を立てている。

 うん、ショルダーバッグの中は、化粧品と化粧道具が満載だ。

 全て新品であり、使ったあとは、全部買い取ることになっている。つまり、今日はお姉さんの臨時収入だけでなく、お店の販売成績としてもかなり美味しいわけだ。しかも、それが今後も続く可能性があるとなれば……。

 そりゃ、食い付くわな、今回の話に。


 そして、数メートル歩いて、部屋の奥が見通せる位置へと進んだ私達の眼に映ったのは。

 テーブル席に着いた、着飾った7人の上級貴族家御令嬢達の姿であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >私が貴腐人店長と旧知の間柄であることは分かっているはず。だから、怪しい者じゃないということは理解してくれているはずなんだけど……。 むしろだからこそ怪しいと思われる可能性が。
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