196 ソサエティー 1
「本日は、我が『ソサエティー』の第0回お茶会に、ようこそ!」
嫌がっていた割には、きちんと女主人役を務めている、みっちゃん。さすが、上級貴族の娘だねぇ……。
第1回、じゃなくて第0回なのは、アレだ。今回はまだ、正式な『ソサエティー』のお茶会じゃないから。
今回は、言わば『お試し』だ。みっちゃんが厳選した候補に声を掛け、加入うんぬんとは関係なく、趣旨を簡単に説明して『とりあえず、一回だけ集まってみませんか』ということで開催したお茶会、ということ。なので、第0回。
場所は、みっちゃんちの小ホール。
声を掛けた人達の中には、家の派閥が違うから、とか、みっちゃんの下につくような形は嫌だとか、様々な理由で参加を辞退したり、はっきりと拒絶したりした人達もいるらしい。
ま、そりゃそうか。
みっちゃんがいくら侯爵令嬢とはいっても、他にも侯爵や辺境伯、公爵等がいるし、伯爵家の中にも、侯爵家並みに羽振りのいいところがあるらしいから、誰かが手を挙げたからといって、みんなが喜んでその許に馳せ参じる、というものでもないだろう。
まぁ、最初から詳しく説明していたら、もっと大勢が参加してくれたかもしれない。
でも、みっちゃん、『趣旨を簡単に説明して』招待したんだよねぇ。……そう、ヤマノ子爵家からのサービスについては、殆ど説明せずに……。
みっちゃん曰く、『餌に食い付くだけの人は要りませんわ』とのことで……。
親の派閥は関係ない、という建前上、お声掛けする時点であからさまな排除をするわけにはいかず、家格的に一定レベルを超えているところは招待せざるを得なかったため、『餌なしでも参加してくれる者』を選抜するための策略らしい。
ま、そりゃそうか。よく言うもんね、『一番恐ろしいのは、有能な敵ではなく、愚かな味方である』って。無能者や敵対者を引き入れるのだけは真っ平だよねぇ。
今日集まってくれたこの中で、正式に『ソサエティー』に加入したい、と言ってくれた者が、創設メンバーとなる。そして創設メンバーは、後から参加する者達に較べ、かなり優遇されることになっている。
そりゃ、当たり前だ。
海のものとも山のものともつかぬ立ち上げの時に参加してくれた者と、それが成功したのを確認してから加入を希望してきた者とを同格に扱うわけがない。
そして、後から加入を希望する者には、かなりハードルが高くなる。なにせ、無記名投票で全会一致でないと加入が認められないのだ。家格を笠に着た苛めとかをやっていた者は、一発アウトだろうね。
というわけで、今日の日を迎えたわけだ。
私がこの会を利用するためには、私も関わらざるを得ない。なので、今日は私もコレットちゃんを連れて参加している。これから、あちこちにコレットちゃんを連れていくので、みんなに覚えておいてもらえれば、困った時に助けてもらえるからね。
うん、『ソサエティー』の結束は固い。……そうなるはずなんだ。
「では、『ソサエティー』の詳細について、副会長であるミツハ・フォン・ヤマノ女子爵に説明していただきます」
え? 副会長?
誰が? 私が?
聞いてないよ!
……って、みっちゃんの口元が歪んでる。笑い、いや、『嗤い』の方か?
くそっ、仕返しかっ!
でも、ま、仕方ないか。確かに、最初に嵌めたのはこっちだ。
それに、どうせ物資提供は私の仕事だし。
では、『ソサエティー』の活動内容と、受けられる恩恵について説明しますか……。
親睦と、情報の共有。
互いに助け合う。
皆は、姉妹と同じ。
誰かの敵は、皆の敵。
スイーツと飲み物は美味しいぞ。
希望者には、自分と家族が使用する分量であれば、ヤマノ子爵領からの輸入品が割引価格で優先的に購入できる。
『ソサエティー』に対して大きな功績があった者には、王女殿下ですら持っていないようなドレスや宝石、その他様々なものが報奨として与えられる。
個人的に購入する品の代金以外は、飲食物等の代金を含め、会費等は全て無料。
どやっ!!
「「「「「「…………」」」」」」
みっちゃんからの事前説明では最初の2項目くらいしか聞いていなかったお嬢様方、硬直。
よし、今のうちに……。
「お茶とスイーツを!」
私の合図で、控えていたメイドさん達が一斉に動き、お茶とショートケーキ、タフィー、フルーツケーキ、ポテトチップス、アイスクリーム、その他諸々を各テーブルへと運び始めた。
勿論、全て日本で買ってきたやつだ。
本当は、日本で買うと、その分のお金を国外から補填しなければならず、手間や税金が大変なんだけど、仕方ない。工業製品とかであればともかく、スイーツは、国外のは色々と癖があるからねぇ……。
アメリカ人の御家庭に招かれてのホームパーティーで出される、あの、砂糖がジャリジャリする奥様手作りのケーキとか、店で売っている、中から歯が痛くなるほど甘いドロリとしたのが出てくるチョコとか……。
うん、ここの人達にはそれらが合う可能性はあるけれど、やはりここは、日本のスイーツで。
飲み物は、最初はみんなに馴染みの深い紅茶を出しているけれど、ココア、果汁100パーセントのジュース、炭酸飲料、その他諸々も出すよ。
……果汁100パーセントといえば、アレだ。
5倍濃縮の果汁を5倍に薄めたから、果汁100パーセント、というやつ。
いや、計算は合っている! ……ような気がしないでもない。
しかし、何か、納得がいかない!
いや、分かってるよ、ストレート果汁と濃縮還元の違いとか、輸送費や保管費用、日保ちとかで濃縮還元が便利で安上がり、とか、水を抜いたり加えたりするだけだから計算は合う、とか。
まぁ、香りや風味が飛んじゃうから、香料やら強化剤やら酸味料やら、色々な添加物が入れられるんだけど……。
いや、そんなことはどうでもいいか。安けりゃいいんだよ、安けりゃ!
というわけで……。
「皆さん、これが私の国の……、って、誰も聞いちゃいねぇ!」
みんな、奪い合うように……、いや、違うな。実際に奪い合いながら、スイーツに食らい付いている。
……本当に上級貴族家の娘か、オマエラ……。
しばらく経って、ようやく場が落ち着いた。
さすがに、お嬢様方もはしたない行為だったと自覚したのか、少し顔を赤らめて俯き、反省している模様。……ま、いいんだけどね、日本のスイーツ業界の実力が確認できたのだから。
そして、次なる手は……。
ごそごそと、持ち込んだバッグから取り出したのは……。
「実は、こういうものを作ってみたのですが……」
そう言って私がみんなに見せたのは、3つの額装写真。
先日デジカメで撮ったみっちゃんの写真を、顔に無理な修正を加えることなく、色の補正や背景、光線、その他様々な周辺加工をやりまくることによって、まるで天使のように仕上げられた品である。顔の色彩補正も、化粧すればそうできる程度なので、詐欺ではない。
そして、ツンと澄ました顔だけでなく、ちょっと拗ねたような顔、がるる、といった感じの顔が新鮮で、3枚合わせて、そこにはとてつもなく魅力的な少女が存在していた。
「な、ななな!!」
お澄まし顔ではない2点に対する抗議か、自分の姿絵のあまりの出来映えに感激してか、真っ赤になって言葉が出ないみっちゃん。うむ、かわええのぅ……。
「と、このように、姿絵の作成を引き受けます。勿論、料金は戴きますし、『ソサエティー』の会員になられた方のみですが……。
あ、御家族に説明し易いように、これをお持ち帰りください」
そう言ってみんなに配ったのは、みっちゃんの写真、L版(89mm×127mm)3点セット見本用、である。これを見た父親達が、娘の縁談用に注文しないなどということは考えられない。
複数注文してくれれば、こっちはプリントアウトするだけだから丸儲けである。
いや、画像加工はちゃんとプロの人に依頼しているから、お金は掛かっているよ、勿論。
そして、みっちゃんが正気に戻って騒ぎ始める前に、次の攻撃を……。