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158 ミツハの陰謀

「何! イーラスが発見され、乗員が全員救助されただと!」

「は。嵐の最中に帆柱を護ろうとした者達が数名、波に攫われて行方不明となりましたが、その他の者達は、全員救助されました」

「そうか……。行方不明の者達の家族には、未払い分の給金、見舞金等、しっかりと手配せよ。途中で中抜きするような者がいれば、厳罰に処するように」

「はっ!」


 部下からの報告に、喜色を浮かべてそう指示する、ヴァネル王国の国王。

 ほぼ絶望と思われていた船の、数百人という乗員が助かったのである。その中には、勿論貴族である士官も含まれている。

 国王は、どうやらそう悪い人物ではないようであった。……少なくとも、自国民に対しては。

 確かに、敵対国や、搾取の対象と定めた弱小国から見れば、極悪非道の悪人なのかも知れない。だが、それは『王』という役職の職責がそうさせるだけであり、本人が善人か悪人かとは、別の話である。自国の国民のため、必死で働く。それがたとえ、他国の者達にとっていくら大きな不利益であろうとも。それを責められる者はいるまい。


「で、船は自沈させたのか?」

「…………」

 はい、のひと言で済むはずの返事を、なぜか躊躇いくちもる報告者。

「ん? まさか、曳航できるほど陸岸に近い場所だったわけではあるまい? どうした、何を隠している!」

 報告者のあまりに不審な様子に、ただならぬ気配を感じ、思わず椅子から立ち上がる国王。

「言え! 全て、きちんと報告せぬか!」

 こうなっては、言うしかなかった。たとえ信じて貰えずとも……。

「ふ、船は、イ、イーラスの行き先は、海底ではなく、天上でございます。イーラスは、御使い様と共に、天上の、女神の許へと昇天致しましたっっ!」

「…………はァ?」

 呆気にとられ、間抜け声を漏らす国王であった……。


「……正気か?」

 しばらく経って、ようやくのことでその言葉を絞り出した国王。

 報告しているのは、勿論、下っ端の一兵卒とかではない。海軍の将官である。そしてその将官の口から、国王に対する正式な報告において、『女神』やら『御使い様』という言葉が……、いや、それはまだいい。国教では、女神の存在が信じられているのであるから。

 しかし、『船が昇天した』というのは、如何なものか……。


「イーラスが、皆の目の前で消え失せたとでも言うつもりか?」

「はい、その通りです」

「なっ!」

 そして、最初から、全てが詳細に報告された。

 どうしてもその報告が信じられなかった国王は、救助されたイーラスの艦長と救難艦隊司令を呼び出したが、報告内容は変わらなかった。

 更に、航海士、水夫長、下級水夫まで呼び出して事情聴取を行ったが、全ての証言が一致していた。そしてその頃には、海軍全体に、そして陸軍や一般市民達の間にも、爆発的な勢いで噂が広がっていた。

 当たり前である。4隻合わせて1000人を越える数の乗員達が、街中で、あの奇跡の体験を話して廻るのだから。そしてそれを聞いた者達が、他の者に話さないわけがない。

『心正しき船と船乗りは、女神様がお救い下さる』

 このフレーズが広まるのに都合の悪い者がいるわけでなし。イーラスの乗員達は、あっという間に時の人になっていた。


     *     *


「ふふふ、計画通り……」

 イーラスの件が広まり、船を失い一時的に手が空いた乗員達は、あちこちのパーティーに招かれていた。貴族や士官達だけでなく、下級貴族のパーティーには士官候補生や水夫長ボースン等も招かれる程の、引っ張りだこ状態である。そして、そこで再び拡大再生産されて広まる、噂話。


 乗員達自身も、どんどん話に尾ひれをつけて膨らませてゆき、自分達でもそれを真実だと信じ込んだまま、あちこちで喋りまくる。

 そして海軍では、『イーラス』が幼い少女であったとの話から、自分達の艦はもう少し艦齢が古いことから、多分16~17歳くらいに違いないと信じ、何やら勝手に妄想にふける船乗りが続出。また、数年後の廃艦が予定されていた船の乗員達からは、近代化改装による延命措置の嘆願が出され、上層部が困惑しているらしい。


 しかし、海軍であるから、上層部の人達も、その多くは元船乗りであったり、お船大好き少年の成れの果てであったりする。設計者や造船技師達も、皆、同じ。そんな連中が、自分達が心血を注いで造った船に魂が宿り、しかもそれが少女の姿をしているなどと聞いて、黙っていられるはずがない。

 こうして、老朽艦の延命措置の声が高まり、そのため、新造船の計画がいくつか中止になりそうな雰囲気らしい。また、多くの船舶関係者達が、自分が関わった船に会うために軍港がある都市へと出掛け、海軍の業務が滞っているとの噂もある。

 くくく、まさに、計画通り、である。


 これで、海軍の力を削ぐことに成功した。次は、建艦計画が縮小することによって余ったお金が研究費とかに廻されて国力が向上しないよう、この国からお金を吸い上げれば……。

 主に、金貨とかの形……、いや、この国の金貨は金の含有量が少ない(しつがわるい)から、インゴットの方がいいか。とにかく、金に換えて持ち出せばいい。そのためには、この国の技術の進歩には全く貢献せず、産業の発展にも寄与せず、何ら得るところのない、その場限りの浪費に終わる商品を売りまくればいいわけだ。ふはははは!


 まぁ、今はイーラスの件で社交界や政界は騒がしいし、財界も、建艦計画の縮小で大騒ぎだろう。造船業界は大打撃で、熟練技術者が職にあぶれて失業し、転職する。いったん失われた貴重な人材と技術は、そう簡単には取り戻せない。ボディブローのように、この国の造船業界に深いダメージを与え、未来に影を落とすだろう。

 今はこの国がこのあたりでは一番の海軍力を持っているらしいけれど、2番手、3番手の国に追いつかれたりして、お金がかかるだけで成果が得られるかどうかも分からない調査船団、探検船団などを出す余裕がなくなるに違いない。……多分。


 しばらくは、騒がしい社交界はパスしよう。……少なくとも、イーラスの乗員が招待されている間は。

 金髪のカツラを着けていたし、あまり近寄らせなかったし、声は拡声器を通したものしか聞かせていないけれど、ま、念のためにね。みっちゃん一家には、『しばらく、周辺国を旅して廻る』って言っておこう。

 よし、新大陸は、しばらく放置!


     *     *


「何、ヤマノ子爵が出る予定のパーティーがないだと!」

 さすがに、ミツハに避けられ続けた国王も、対策を講じていた。

 自分が出席することを事前に知らせず、突然パーティーに押し掛けることにしたのである。いくら突然押し掛けるとは言え、国王の来訪を迷惑がって追い返す主催者などいるはずがない。

 そして、イーラスの件で色々と混乱している状況ではあるが、それはまた、他国に対して『女神の寵愛を受けし国』という触れ込みで強気の交渉に出られるという絶好の状況でもある。あまり交流が活発ではない後進国と交渉事を行うには、悪くない状況であった。


 なので、早くヤマノ子爵と接触し、ただの一貴族として色々と本音を聞き出し、その後『実は、ヴァネル王国の国王陛下であったのだ!』と明かすことによって、『ええっ、今まで、とんだ御無礼を!』、『何と気さくな、貴族思いの良き国王陛下なのだ!!』との好印象を与え、子爵の母国についての詳しい話をさせる予定なのである。

 国王からこの計画を聞いた宰相は、何と頭の悪いことを、と呆れたが、別に、うまくいかなかったところで、大きな損害や国際問題になるようなこともない。なので、余計な不興を買う必要もないので、ただ、『そうですな……』と答えたのみであった。


 しかし、いざその『いきなり訪問作戦』を決行しようとした時、『ヤマノ子爵が出席する予定のパーティーがない』という報告が……。

「どういうことだ? 病気か何かでせっておるのか?」

 しかし、宰相がヤマノ子爵のパーティー関連の調整を任されているという噂のミッチェル侯爵に確認したところ、『近隣国を旅行して廻っているらしい』との返事が。


「なっ! 他国に先を越されたらどうするのだ! なぜ、みすみす旅に行かせた!!」

 そんなことを言っても、他国からの旅行者を、理由もなく国外に出させずに拘束するわけにはいかない。それも、相手が貴族や王族だった場合には、国際問題である。

 それに、そもそも後手に回ってしまったのは、国王の頭の悪い作戦計画のせいである。

「どうしようもありませんな……。まぁ、物産店とやらはそのままですし、単なる物見遊山ものみゆさんの観光旅行に過ぎないでしょう。わざわざ遠国から来たのに、ひとつの国に留まり続けて一歩もその国から出ない、ということの方がおかしいのです。まだ、御心配されるような事態ではないと思いますが……」

「う、うむ、それもそうか……。何、我が国は女神の御寵愛を受けし国なのだ、我が国をないがしろにしたり逆らったりする国がいるはずがないな。はっはっは!」

 宰相の言葉にあった、『まだ』という言葉を簡単にスルーした国王に、心の中で肩をすくめる宰相であった……。



オーバーラップ様の、作家のリレー・インタビュー『しゃべり場Z』というところに、私のインタビュー記事が載りました。かなり長文……。(^^ゞ

私の1日の生活パターン、3作品の誕生について、その他色々のお話が……。

『オーバーラップラボ しゃべり場Z』でググれば、ヒットします。

すみません、私、直接URLを貼るのが怖いもので、検索ワードを示すことしかできなくて……。(^^ゞ


しかし、掲載が夏期休暇にはいった直後だったから、作品のあとがきで告知できたの、2週間後に……。

タイミング悪いなぁ。(^^ゞ


リレー・インタビューで私を御指名下さいましたY.Aさん、ありがとうございます!!(^^)/

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― 新着の感想 ―
[良い点] 単純に、面白くて読んでいます [気になる点] 主人公の能力使ったら、軍艦全部奪えるのでは? [一言] ワザとなのか、意図的になのか分かりませんが、強い数字に依存している点が、数える度に、『…
[気になる点] "女神の寵愛を受けし国"として他国へ伝える様としているので、光波がどう対処するのかも気になります。  そのままで有れば他国侵略を許された国として増徴してしまう事が明白な為気になりました…
[一言]  優しくはあってもそれが頭の良さと関係があるとは限らない、とw
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