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149 誘 拐 2

 黒服の人達に、誘拐の瞬間の目撃者である店員さんと一緒に簡単な説明をした後、解散。

 犯人達は拘束されて、4台のクルマに分乗させて引き取られていった。多分、この国の諜報組織の地下取調室あたりに連れて行かれるのだろう。

 黒服の人に壊れた陶器の弁償を押し付けようとしたら、所掌(しょしょう)外なので自分のところでは予算が、とか言って逃げられた。くそ。

 仕方なく自腹で弁償しようとしたら、店長さんが、あれは量産品の安物だから構わない、少女の誘拐を阻止するために壊れたのならあの置物も本望だっただろうし、と言ってくれた。

 まぁ、誘拐事件の被害者側が弁償するのも、考えてみれば少しおかしいか。確かに、被害者に弁償させたなんて話が広まったら、お店の方の立場が悪くなる可能性もある。いやぁ、まだまだ考えが浅いなぁ、私……。


 そして、とりあえず店内に戻って、食べた物の代金の支払いと、他のお客さん達への謝罪をしなきゃ。騒がせちゃったし、アイスクリームとかを食べてた人は、見物に出てきている間に溶けちゃったかも……、って、それは自業自得か。自己責任だから、私達が弁償しなくていいよね?




「……で、どういう状況だったの?」

 ふたりに怪我がないこと、精神的にヤバい状況ではないことを確認したあと、落ち着いて話ができる場所へと転移した。……ヤマノ子爵家日本邸へ。

 そしてお茶を淹れて、茶菓子として煎餅(せんべい)を出して、万端の準備を整えてから、状況の確認を。


「お手洗いを済ませて個室から出て、手を洗ってコレットを待ってたの。そしてコレットが終わって出てきた時、女の人が何人か入ってきて……」

 うん、男の人が入ってきたら、大問題だね。……いくら女性でも、誘拐犯だと大問題なのは変わらないけど。

「いきなり女の人が私とコレットをうしろから羽交(はが)い締めにして、口に布を押し込んでから抱え込んで、身体を低くして会計台の方から見つかりにくくしてお手洗いから真っ直ぐ店の出入り口の方へ……」

「ええっ!」

 今、サビーネちゃんの話の中に、とんでもない重大情報があった!

 私は、慌ててコレットちゃんの右手首を掴んだ。しっかりと煎餅を握った、その右手の手首を。

「……手を洗ってきなさい!」

 そう、今の話だと、コレットちゃんはお手洗いを済ませた後、まだ手を洗っていない! 『お手洗い』にも拘わらず!!

 そして、コレットちゃんが手を洗って戻るまで、暫(しば)しの中断。



「……そして、何とかみんなに知らせようと、無理に暴れずにおとなしくしていて、店の出入り口の側にあった置物の横を通る時に、思い切り暴れて蹴り飛ばしたの」

 おお、やはり!

 しかし、それはコレットちゃんの仕業だと思っていたよ。まさかサビーネちゃんだったとは……。

「そして私は、顔を引っ掻いたり腕に噛みついたりしたのに、あの人達、顔は顰(しか)めていたけど、ひと言も声を立てないの。かなり痛かったはずなのに、我慢強い人達だよねぇ……」

 コレットちゃんから、補足説明。

 まぁ、仕事が仕事なんだから、それくらいは我慢するだろう。何せ、自分の国の威信だとか、自分の命とかが懸かっているんだろうからね。

 そして、ま、あとは私も知っている通りか……。


 でも、良かった。本当に良かった。

 ふたりに怪我がなくて。ふたりにPTSDとかの様子がなくて。あの時、完全に攫われる前に私が間に合って。良かった……。


 しかし、それは結果論だ。

 結果的に無事だったからといって、アレが無かったことにはならない。

 いくら未遂に終わったとはいえ、営利誘拐の罪は重い。

 そして、我がヤマノ子爵家に喧嘩を売ったことの意味を教えてやろう。

 ヤマノ一族の怒りを見よ!


     *     *


「というわけで、売られた喧嘩を買うことにしたから、よろしくね!」

「いや、よろしく、と言われても……」

 困ったような顔をする隊長さんをスルーして、私は一方的に要望事項を伝えた。

「とりあえず、この国の偉い人に頼んで、犯人達に会わせて貰うつもり。その後、おかしなことを企んだ国には後悔して貰うことになるから、そのための根回しの手伝い、お願いね!」

「おいおい……。まぁ、今回の件に関しちゃあ、俺達にも責任があるからなぁ。仕方ねぇか……」

 え? どういうこと?

「責任、って?」

 私の問いに、隊長さんが頭を掻きながら答えてくれた。


「いや、今聞いた話で、お前達が襲われた理由……じゃねえな、『やり方』が、よぅく判った。ごく初歩的なことだ。『行動のパターン化』だよ」

「パターン化? 何それ?」

「お前達が、毎回同じ行動をしている、ってことだよ。いつもここに来るとメールの返事を送るから、それを受けた者達には、『あ、姫様が来た』って分かるわけだ。そしてお前達がここに来ればスイーツ店に行くこと、そして行けば必ず暴飲暴食してお腹を壊して交代でトイレに行く、ってのは、何度か張り込んでいればすぐに分かるだろう。

 相手の行動パターンが毎回同じで、そのパターンが分かったなら、一番いいタイミングで襲うのなんか簡単だろうが」

「あ……」

 馬鹿だ、私! そんなの、ボディガードの基本中の基本じゃん、警護対象に決まった行動を取らせない、なんていうのは!

 まさかあれ程脅かして警告していたのに実力行使に出る者がいるとは思いもしていなかったから、油断した! それも、下手をすればサビーネちゃんとコレットちゃんの命に関わったかも知れない、大失態だ! うああああ……。

 それに、どうして防犯ベルやGPS発信機を持たせておかなかったかなぁ……。すぐに用意しなきゃ……。


「お前は素人だからな。そのあたりは、当然俺達がちゃんと教えておくべきだった。すまん、俺達のミスだ……」

 隊長さんが殊勝な顔でそう言うけれど、これは、どう考えても私のせいだ。くそぅ……。

 よし、すぐに例の番号に電話して、と……。


     *     *


「こんにちは、ナノハです」

「…………」

 偽名を名乗る私の目の前には、手錠を掛けられて、檻に入れられたひとりの女性。

 そう、誘拐犯のうちのひとりだ。

 口裏合わせをされないよう、全員、バラバラに収容してあるらしい。ま、訊問の関係もあるんだろうけどね、『他の奴らはもう全部喋ったぞ』とかいうの。

 勿論、ここは刑務所とかじゃない。もっと『ダークなところ』。


「どこの国の方ですか?」

 私が話し掛けている言葉は、英語である。スパイなら、自国の言葉の他に、英語と侵入する国の言葉くらいはマスターしているだろうから。

 以前の私じゃ、絶対にスパイにはなれなかったね、うん!

 ……いや、なる気はなかったけどね。

 しかし今の私は、どこの国の言葉でもペラペラ、神出鬼没、何でも盗める、凄腕のエージェントだ。

 …………いや、ならないけどね!


 で、女性からの返事はないけれど、既に用件は終わった。

『すんだらば、はよーつぐのーて、えー男の嫁にでもなって、幸せになりんしゃい!』

『え……』

 私が帰り際に掛けた言葉に、眼を剥いて凍り付く女性。

 うん、今の言葉は、さっき私が取得した、あの女性の出身地の方言だ。

 女性が習得していた言語と、あきらかに出身地のものと思われる方言。これで、この女性の出身国はほぼ確実に把握できた。勿論、念の為に他の誘拐犯達とも面会するけどね。

 私は、細かいことを訊問する気はないし、その必要もない。ただ、相手がはっきりと判れば、それでいい。

 ……そう、反撃する相手が判れば、ね。


     *     *


「隊長さん、相手国が判ったから、情報収集お願いね。情報部の本拠地、情報部や政府の偉い人達の自宅、別荘、その他諸々……」

「無茶言うな! そんなの、それこそ大国かその国の敵対国の情報部くらいしか……」

「そこに聞けばいいじゃない」

「え?」

 ぽかんとしている隊長さんに、説明してあげた。

「そんなの、他国の一介の傭兵団に分かるわけないでしょ。だから、知ってる人に聞けばいいじゃない。『傭兵団、ウルフファング』としてではなく、『異世界からの訪問者、ナノハ王女の代理人』として聞けば、教えてくれると思うよ。接触する窓口は、異世界懇談会(イセコン)の参加国リストの連絡先でいいでしょ?

 何なら、う~ん、そうだなぁ、いい情報をくれたら、お礼として、地球の図鑑に載っていない海藻類と海洋生物のサンプルをひとつずつ渡してもいい、って言っていいよ」

 そう言ったら、隊長さん、何だか呆れたような顔に。

「……お前、抜けてるのか悪知恵が働くのか、どっちだよ!」

 失礼だよ、隊長さん!

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― 新着の感想 ―
[一言] サビーネちゃん、相変わらず肝がすわってるね。最初に誘拐された時も全く動揺してなかったもんなあ(漫画版のはなしだけど)
[良い点] >「お手洗いを済ませて個室から出て、手を洗ってコレットを待ってたの。そしてコレットが終わって出てきた時、女の人が何人か入ってきて……」  でも、良かった。本当に良かった。  ふたりがお手…
[一言] >「……お前、抜けてるのか悪知恵が働くのか、どっちだよ!」 兼ね備えてるのがミツハの魅力ナンデスヨネ-、マイルだとバランスが少し偏ってますが、カオルはミツハ寄りだけど抜けてるときはときにマイ…
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