145 スウェイ・バック
「何? ヤマノ子爵が来ていないだと?」
「はい、急に体調を崩された、とのことで……」
あれから10日後、ウォンレード伯爵とエフレッド子爵が出席したパーティーにおいて、出席するはずのヤマノ子爵の姿が見当たらないため配下の者に主催者に確認させたところ、そのような返事がもたらされた。
「……仕方ないか。人間、誰しも病気になることは防げん。祖国を離れ、水も食べ物も違う異国でのひとり暮らし、体調を崩さぬ方が不思議か。
せっかく来たのであるから、今日は少し皆と話そう。『ウォンレード伯爵』、ひとりの王国貴族としてな。たまにはそういうのも良かろう。
ミッチェル侯爵には、ヤマノ子爵の体調にしっかり気を配り、大病を患うようなことのないよう注意するよう伝えておけ」
「はっ!」
国王陛下……、いや、『ウォンレード伯爵』にとっては、陸軍派閥も海軍派閥も関係なく、どの派閥のパーティーに出ようが自由である。なので、また次の機会を待てば良い。それだけのことであった。
* *
「何、今回も子爵は欠席だと?」
「はい、体調の悪い日、とかで……」
「あ、ああ、そうか。まだ子供とはいえ、女性であるからな。仕方ないか……」
別に病気というわけではないなら、問題ない。日を改めれば済むことである。顔を合わせるのが数日遅れたところで、どうということはない。
「何? 今日もいないだと?」
「今回も欠席? どういうことだ!」
さすがに、国王も不審に思い始めた。
ヤマノ子爵は、全てのパーティーを欠席しているわけではない。それならばそれで、病気なり何なりの理由があるのかも知れない。しかし、公務や政治的な配慮等で国王と王太子が出席しないパーティーには、ちゃんと出席しているようなのである。
偶然にしては、あまりにも重なり過ぎている。ここまでくれば、貴族達だけでなく、さすがに国王も気が付いた。
「避けられている、だと……」
そう、ミツハはパーティーの招待を受けた時、ミッチェル侯爵に出席の是非を相談し、出席することにした場合は主催者への返事に『最近体調が思わしくないため、当日、急に欠席することとなるかも知れませんが、それでも宜しければ……』という一文を認めていた。
そして更に当日になってから、雇ったメッセンジャーボーイに手紙を持たせ、主催者の貴族本人にではなく、パーティーの実務を担当している者に『ウォンレード伯爵とエフレッド子爵は出席されるのか』と確認していたのであった。
……その結果、あるパーティーは予定通りヤマノ子爵が出席し、あるパーティーは急な体調不良のため欠席する旨の連絡が届く。
これが何度も繰り返されると、さすがに貴族達の間でも情報が流れ、『ヤマノ子爵が欠席する場合』の条件が確定される。……そう、『ウォンレード伯爵とエフレッド子爵の出席の有無』である。
普通、国王と王太子にお忍びでパーティーに来て戴けるなど、主催者にとってはとんでもない名誉である。……そう、『普通』であれば。
今回の『お忍びラッシュ』は、明らかにヤマノ子爵との『普通の貴族の振りをしての接触』が目的であり、別に主催者との交流や親密さのアピール等ではないことは皆が知っている。
そして、腹を割った話ができるわけでもなく、ヤマノ子爵が欠席と分かれば、さっさと引き揚げる。これでは、陛下に御訪問戴いた、などと自慢できるわけがない。それに、正式には、あくまでも『ウォンレード伯爵の出席』に過ぎない。
……つまりそれは、『ヤマノ子爵の出席を潰してまで「ウォンレード伯爵」の出席を望むか』という問いに対して、貴族が『NO』という返事を返すであろうということであった。
「どうしてこうなった……」
頭を抱える国王であったが、それは『普通の貴族の振りをして』などという頭の悪いことを考えた自分と、おかしな勘違いをして暴言を吐いた自分の息子のせいである。
「どうしてこうなったあああぁ!!」
* *
やってきました、港町!
そう、例の、艦隊基地がある軍港の町だ。
目指すはあの船、ええと……、あったあった、最新鋭艦『リヴァイアサン』。ひいふうみい、ちゃんと片側に32個の砲門があるから、最新鋭の64門艦、間違いなし!
前回と同じ時間帯だから、同じベンチに腰掛けていると……。
1時間半くらい待っていたけど、軍人君は来なかった。そうそう都合良くはいかないか。
ま、約束していたわけじゃないから、当たり前か。外出日なら、起きて朝食摂ってすぐ出掛けるとすれば、毎回同じくらいの時間帯になるだろうと思ったんだけど、そもそも、いくら入港中であっても、下っ端水兵に外出が許可されるのなんて、週に1~2日あればいい方だろう。ま、のんびりいこう。
あ、軍人君じゃない、他の水兵さんには何度も声を掛けられたよ。……しつこいくらいに。
人を待っている、と言っても、じゃあ待っている間だけでも、と言われたから、何人かとベンチで少しお話ししたけれど、軍人君程の知識を持っている人も、紳士で礼儀正しく、話が面白い人もいなかった。最初で当たりを引いたんだなぁ、やっぱり……。
いや、勿論、年配の人ならば軍人君より遥かに知識のある人はたくさんいるのだろうけど、あくまでも『12~13歳に見える私に声を掛けてくる、14~16歳くらいの水兵さんの間では』、ということね。
男の子達はみんな、20~30分くらい経つと、『相手が来ないようだから、今日は俺と一緒に……』とか言い出すから、そんなことはできない、と怒った振りをして追い払うんだけど、それを待っていたかのように、次々と男の子ががが!
そして、1時間半くらい経って来なければ、撤収。この場所は船から上陸する兵隊さんは必ず通る場所だから、つまり、今日は軍人君の外出日じゃなかった、ってことだろう。
そして、1日目、2日目と空振りで、3日目。
「ミツハちゃん!」
そう叫びながら向こうから走ってくるのは……、おお、久し振りに会う軍人君だ。
「お久し振りです!」
「み、ミツハちゃん……」
全力疾走してきたのか、ぜえぜえと息を切らしている軍人君。
あれ? そういえばさっき、軍人君はまだ私の顔が判別できないであろう遠くから、まるで私がいるのを知っていたかのように真っ直ぐ走ってきたよね?
「あの、私がいることを知って……」
「あ、ああ、昨日上陸番だった先輩から、『埠頭のベンチに、帰らぬ恋人を待っている異国風の顔立ちの美少女がいる』って聞いて、絶対にミツハちゃんのことだと思って……」
おお、美少女とな! よし、その先輩とやらには、軍人君に頼んでお土産を言付けよう。
偉い人達……、軍人君から見れば、それこそ『雲の上の人達』から聞き集めた情報の隙間を埋めるための、その時に偉い人に聞くと怪訝に思われそうなことを、軍人君に聞く。それと、まぁ、顔繋ぎ、って感じかな、今日の目的は。
では、お店に向かって、レッツ・ゴー!
……って、軍人君と同年代から5~6歳くらい上までの年齢層の水兵さん達からの視線が……。
軍人君、先輩や上官に見られたくないんじゃなかったのかな? 何か、すごく自慢そうなドヤ顔してるけど、大丈夫なのかな、船に戻ったあとで……。
そして、今日は朝食を摂らずに来たので、軽い食事を摂りながらの情報収集。
「1回の訓練航海はそれくらいなんだ……。じゃあ、実戦だと、どれくらいの相手とどれくらい戦えば砲弾や火薬が足りなくなっちゃうの?」
「搭載している大砲は同じだから、武器の性能は2世代前の40門艦と同じ? ただ砲数と船体の差で圧倒的に有利? なる程……」
偉い人に聞くのは、何かヤバそう。
そして拿捕船のみんなも、帰化してくれたとはいえ、家族や友人達が住む母国が不利になる情報をぺらぺらと喋るのは裏切り行為のように思えるのか、一般論以上の話になると口が重かった。
無理に喋らせるのもアレだし、適当なことを喋られても困るので、一応は自発的に話してくれるところは聞いたんだけど、皆の言うことを較べると、色々と不整合や矛盾があるんだよね……。
まぁ、下っ端水兵が何でも知っているわけじゃないだろうし、士官にしても、あんな博打のような航海に出されるような連中なので、あまり期待する方が間違ってるか。母国を出港してから日も経っているし。
そういうわけで、最新情報を喜んで話してくれる軍人君の価値は高い。
よし、予定通り、用意しておいたプレゼントを渡しておこう。地球のフォールディングナイフだけど、船乗りならば使う機会もあるだろう。
5月9日(水)、『ポーション頼みで生き延びます!』と『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』のコミックス2巻、同時発売です!
よろしくお願い致します!(^^)/
そしてそして、コミックス2巻の発売日である9日から今月いっぱいまで、秋葉原駅に『ポーション』と『ろうきん』の立て看板が立つみたいですよ!
これは、見に行かねば、ねば……。(^^)/
その前に、どこに立つのか確認せねば。
「山手線のホームから見える」というヒントを貰ったのだけど……。(^^ゞ
そして、すみませんが、来週は1回更新をお休みとさせて戴きます。
来週、5月14日は、私の小説家デビュー2周年になります。
なので、ちょっと、ちょっとだけ休ませて下さい……。
GWに休まなかったので、その代わりに……。(^^ゞ
まぁ、実際には、書籍化作業をやるんですけどね。〇| ̄|_