141 パーティー再び
パーティーである。
今回は、ミッチェル侯爵様に仲介を頼んだ、海軍系派閥の伯爵家のパーティー。
侯爵様とは派閥が違うらしいけれど、私が海軍系の貴族にも顔を繋ぎたいとお願いしておいたから、比較的良好な関係を保っている海軍系派閥の主要メンバーである伯爵家の、息子さんの昇任祝賀パーティーに招待して貰ったのだ。
何でも、大佐に昇任して、4隻の軍艦からなる部隊の指揮官に任命されたらしい。いわゆる、隊司令というやつだね。
そりゃ嬉しいわ。パーティーくらい開くだろう。
ま、息子さんとはいっても、40代後半のおじさんだけどね。父親が長生きすれば、そりゃ、爵位はなかなか継げないよね。
伯爵様は、私が伯爵家のパーティーに出るよう仲介してくれたことで、ミッチェル侯爵様にすごく感謝しているらしい。ま、海軍系は陸軍系とあまり仲がいいわけではないらしいけど、同じ海軍系同士や陸軍系同士の派閥争いに較べると、それよりは少しマシらしい。『遠くの敵より、近くの敵』ってやつか。
なので、思わぬところからの厚意にかなり喜んだらしく、ミッチェル侯爵様は、多分『計画通り……』とか言ってるに違いない。今日は来ていないけどね、ミッチェル侯爵様。
貴族のパーティーは結構多いから、貴族全員が、全てのパーティーに出るというわけじゃない。そんなことをすれば、数千人規模のパーティーが毎日十数回開かれて、貴族全員がそれら全てに出席することになってしまう。……いや、実際には、家族全員が出席するパーティーは少ないが。
とにかく、世襲貴族だけでも数百家族で、数千人。誕生パーティーだけで、いったい年に何回あるのやら……。
なので、パーティーに出席するのは、その貴族に縁のある者や、それなりの理由のある者に限られる。勿論、そこに、更に爵位の上下関係や派閥等、他の様々な要因も絡む。そのため、各貴族が実際に出席するパーティーの数はそう多くはなく、参加人数も、パーティーの内容によって大きく変動するらしい。
子供の誕生パーティーとかは、家族全員で参加するとか、派閥を越えて、年頃の年齢の子供を持つ貴族が多数出席するとかで、他のパーティーとは少し趣が異なるらしいが……。
そうそう、侯爵様から、子供の誕生パーティーにはしばらく出席しない方がいい、と言われた。何でも、私を呼べば凄い宝石が貰えるとか、色々なデマや噂が広まっているらしい上に、自分の家の三男や四男をくっつけて、とか考えている下級貴族が多いらしい。
そりゃ、勿論、パスだ。私には、まだ結婚相手を探す必要はない。
それに、誕生パーティーは数が多い。余程親密な家や、丁度良い年齢の子供を持つ家とかが主な出席者らしく、そこに私が出ると、アレなわけだ。
しかも、全部には到底出られないから、選んだいくつかに出ることになり、親がついていない私は自分でそれを選んだということで、それはすなわち、私がそこの息子に気がある、ということに……。
誰が出るか!
前回のは、直近で開催されるパーティーだったこと、初めてのパーティーで大人の中に子供がひとり、というのは居づらいであろうこと、そして誕生パーティーであれば他のパーティーに較べて私でも話題に困らないであろうと考えて、頭取さんが頭を絞った末に選んでくれたものだったらしい。
頭取さん、さすが!
おかげで、みっちゃんや侯爵様に出会えたわけだから、そのうち何かお礼をしよう。ブランデーあたりがいいかな。安上がりで、喜んで貰えそうだし。
……と、まぁ、そういうわけで、今日のパーティーは、その開催理由から推察できる通り、海軍派閥の上級貴族の当主や上級士官が中心で、参加者数はあまり多くないし、若者は殆どいない。……私を除いて。
でもまぁ、私は例外だよね。『貴族の子女』ではなく、一応は爵位貴族本人、御当主様だし。
で、主催者である伯爵様は、私がこのパーティーを選んで出席したことをすごく喜んでくれていて、その仲介を務めた侯爵様にも感謝している、というわけだ。私がこの国の貴族のことを全然知らないのだから、実際には、侯爵様がこのパーティーを選んだということだからね。
で、どうしてそんなに喜んでくれているかというと、……まぁ、深く考えるのはやめておこう。
「やっぱり、精強な海の男の食事は、腐りかけた塩漬けの豚肉と、コクゾウ虫が湧いた堅パンと、塩味だけの豆スープですよねぇ! あと、手柄を立てた時に貰える、半パイントのラム酒!」
「嬢ちゃん、分かっとるじゃないか! うわははは!」
うん、モテモテだよ! ……むさいおっさん連中に。
ああ、せめてこれが、ダンディで渋いおじさま達であれば……。
海軍士官はスマートなんじゃなかったの! ほら、『スマートで、目先が利いて几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り』って言うじゃない!
いや、スマートって言っても、体型のことじゃないよ、行動のことだよ。
この国の海軍の航海中の食事については、捕虜だった連中から詳しく聞いている。……どこの世界でも、似たようなものだったよ。日本と違って、脚気はあんまり流行っていない模様。
船の話しかしない海軍馬鹿の話に付き合ってくれる若い女性なんか滅多にいないらしく、そしてその話に合わせて適切な相づちや質問を挟める女性は、もっと少ないらしい。
……そりゃ、モテるわ。
この人達、あの『軍人くん』の数十年後の姿そのものなんじゃなかろうか。
あ、そろそろ一度、軍人君に会って顔繋ぎしとこうかな。10年くらい経てば、軍人君も中尉くらいになって色々と情報が聞けるかも知れないし。多分、あの子はただの水夫とかじゃないと思うんだよねぇ。結構頭が良さそうだし、ちゃんと教育も受けているみたいだったし……。
「いや、その敵、不利な風下から接近したから敗けて逃げ出したんじゃなくて、最初から逃げることを前提として風下から来たんじゃないですか? この国の艦隊に勝てるはずがないと思って……」
「おお、やはりそう思うか! いやはや、司令官は、まさかそんな腰抜けが艦隊を率いておるなどとは思いもされぬから、不思議がっておられたのだがな。我らがそう言ったら、『いくら敵だとはいえ、あまり侮辱するものではない』と言われてな。そうか、嬢ちゃんもそう思うか! わはははははは!」
最初は、ちゃんと『ヤマノ子爵』と呼んでくれていたのに、お酒が回ったのか、いつの間にか『嬢ちゃん』になってるよ……。
そして、そうバンバンと背中を叩くな! 酔っ払いは力加減ができないから、痛いんだってば!
でも、お酒が回っていて、しかも機嫌がいいということは……。
「ところでこの国は、新規航路の開拓とか、調査隊とかは出していないんですか?」
そう、口が軽くなる、ってことだ。
* *
「駄目ですよ、そんなことやっちゃ!」
税理士さんに、思い切り叱られた。
「海外への荷物の発送には、税関検査が必要なんですよ! そして、価格が20万円を超える郵便物を外国に向けて送る場合には、税関への輸出申告が必要となります。御自分で通関手続きをするのが面倒なら、通関業者に委任すればいいですから!
ちゃんと手続きしないと輸出許可書が貰えないし、関税、消費税などの減免税、戻し税制度の適用を受けられなくなりますよ。いえ、それ以前に、関税関係法令違反、密輸になってしまいますよ。
手続きして書類を貰わないと船積みできないですから、普通は発送そのものができないんですよ。それを、知人の船乗りやパイロットに個人的に頼んで、なんて、違反も違反、重罪ですからね! 頼んだ相手がクビになっちゃいますよ!」
税理士さんに、荷物を発送する時は書類を、と言われたから、転移のことを喋るわけにもいかないので適当な理由をでっち上げ、輸送は知人に頼むから書類はなし、って言ったら、青筋立てて怒られたよ……。
「まさか、もう既にやっていたりはしないですよね?」
プルプルプルプル!
一応、思い切り首を横に振っておいた。
……やべぇ!
この前の分は……、問題ないな、うん。
あれは、『異世界から、あの国へ運んだ』のであって、日本から海外へ持ち出したわけじゃない。だから、日本から密輸で持ち出したんじゃないから、問題ない! あとは、あれの売り上げは日本には送金しなければいい。それだけのことだ。
発注と受付のメールは完全に削除しておこう。履歴も全て……。
そして、これからはちゃんと正規の手続きをして発送する。
あの国の輸入手続き?
ははは……。
ま、私はあの国では完全免税だから、脱税の罪に問われることだけはないな。その他の関税関係法令は知らないけど。
はは。ははは……。
小さいことは、気にしない!
……小さくないですか、そうですか……。
すみません。